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ぼくらの島  作者: ねむるこ
ゲームと見えない悪魔
54/72

54.最初の事件(1)

「あれー?雪野さん、来てたんだ」

 背後から良が飛び出してきて真見は思わず肩を揺らした。雪野はにこやかな笑顔を浮かべると手を振る。

「やっほー。ちょっと取材ついでにね。ほら、このスカラベってロボット珍しいでしょう?しばらくお借りしようと思って」

 冷静な捜査官から一転。雪野はガサツなライターへと変わる。話し方から声のトーンまで変わり、真見はたじろいだ。

(やっぱり……プロの捜査官なんだな)

「サンの記事出るかもしれないの?読みたーい!」

「はいはい。完成したらお知らせするから。それじゃあね!」

 雪野は颯爽と診療所を立ち去って行った。

「神野さんお帰りなさい」

 良に言われて真見は慌てて我に返る。何故か真文と久しぶりに再会した日と重なった。

「ただいま……」

 照れくさそうに答えると真見は診療所に入った。

「それで、万野先輩どうだった?」

 何も知らない瑠璃が真見に近寄って声を潜める。真見は純粋に瑠璃の言っていることが分からず問い返す。

「何のこと?」

「告白だよ。どうだったのかと思って」

(そっか……瑠璃は私が告白したと思ったんだ)

 いつもの真見だったら顔を真っ赤にさせて慌てて否定するのに今はそれができなかった。佳史が敵であることを確かめたのだと言えるはずがない。それよりも広報部の裏活動が全て偽りだったという事実の方が真見を苦しめた。

「真見、何があったの?泣いてる」

「え……?」

 言われて初めて自分が一筋の涙を流しているのに気が付く。

(私、また泣いてるよ)

「ごめん、ちょっと休むね」

 真見は誰の顔も見ることなく二階へ駆け上がった。急いで自分に宛がわれた部屋に走り込む。

(悲しんでる場合じゃないのに。Xが私を狙う理由を考えなきゃ……。お父さんを見つけなきゃいけないのに)

 真見はごしごしと目元を腕で擦った。部屋の中で大の字に寝転がる。

(私には何もない……。お父さんみたいにゲームも作れない)


『真見の直感、頼りにしてるから』

『感覚に過敏に反応することで自然界における危機を回避するんだ。人間が忘れ去った防衛本能というものかもしれないけどね』

『このゲームの注目すべき技術は、超リアル体験。感触や衝撃がまるで実体験のように感じられるところです。まだ試作段階ではありますが世界初の技術でしょう』


 様々な情報が頭の中を錯綜し、一つの共通点に気が付く。

(そっか……。私のこれを狙って……)

 真見は起き上がると化粧台の椅子に置いたリュックサックを下ろそうとした時だった。椅子を引いたことで、何かあるのに気が付く。

「これは……?」

 真見はペンダントのようなものを見つけた。ボタンのようなものを押すと、目の前に写真のホログラムが浮かび上がる。

「わっ」

 急に目の前が明るくなって、真見は目を瞬かせた。ある人物の姿を見つけると真見は思わず口を開けた。

「この人って……」


「相模君!」

 真見は慌ててキッチンに駆け込んだ。

 廊下を走りながら真見は晩御飯が魚の煮つけであることを予測する。醤油とみりん、魚の香ばしい香りがキッチンに充満していた。

 キッチンには有志(ゆうし)(りょう)、瑠璃が集結している。3人が一斉に真見に顔を向けた。

「ど……どうかしたの?神野さん。そんなに急いで……」

「この写真って……何?」

 そう言って写真ホログラム入りのネックレスを受け渡す。映像を目にした良は声を上げた。

「うわー!若いなあ。僕のお母さんの写真だよ!多分お父さんが生きてた時の写真だ」

「相模君の……お母さんと、お父さん?」

 真見は呆然とする。良の父は既に他界していたのだ。

「この人って……田切理(たぎりおさむ)さん、じゃないですかね?」

「言われてみれば……顔が似てるー。僕、こっちの集合写真は見たことないや。なんだろう?」

 写真は2枚保存されていた。1枚は子供達の集合写真、2枚目は男性と子供を抱いた女性の写真だ。

「また随分と懐かしいもんを」

 有志が苦々しい表情で呟く。

「失礼かもしれませんが……教えて頂けませんか?この島が開発される前のことを」

 真見が真剣な表情で有志に迫る。

「いいけどよ……。そんなに楽しいもんじゃないぞ」

「ガイダンスだけじゃ島の事がよく分からなくて……。すみませんがお願いします」

 真見は事件を追っていることを悟られないよう、適当な口実を口にする。同時に真見の腹の音が鳴った。緊迫していた状況が一気に笑いに包まれる。

「飯でも食べながら話すとするか!」

「はい……。すみません」

 真見は顔を真っ赤にしながら頷いた。

 カレイの煮つけとご飯、味噌汁が並べられたテーブルで有志が語り始める。

「まずこの写真についてだが……。この人は真見ちゃんの言う通り、田切理君で間違いない。田切君の隣にいるのが良の父親、(おうぎ)(りょう)()だ。んで、その隣がうちの馬鹿娘、相模涼香」

「子供の頃からの知り合いだったんですね」

「まあ、この島に学校は一つしかないからな。島の子供達は皆、幼馴染みたいなもんさ。年齢関係なく仲良くなるんだ」

 真見の相槌に有志が大きく頷く。

「田切君は子供の頃から天才って呼ばれてたよ。良仁も田切君と一緒にロボットを作ったりして、頭のいい子供だった。良仁の方が七歳年上だったが、年の差を感じさせない程仲が良かったよ。

 そこで良仁と同級生だった涼香は21の時に良を生んで、そのまま結婚したんだ」

 真見は写真の中で幸せそうに微笑む涼香を眺める。良と同じ大きな黒い瞳がこちらを見ていた。

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