51.偽日常(4)
「お泊り会みたいで楽しそうじゃない」
「楽しんでる場合じゃないです……お父さんのことで何か分かったことってありますか?」
真見は洗濯物や部屋の様子を伺うついでに雪野と情報交換をしていた。緊急時以外は電子機器を使ってのやり取りは避けている。
この島で使用可能な通信機器がセル社製なのだ。セル社の人間が盗聴していてもおかしくない。真見は部屋の前で周囲を警戒する。まるであの日の真文のように……。必死な真見の姿に雪野が小さく笑いながら答える。
「私としては真見ちゃんが他の人に保護してもらえて有難いけどね。お父さんの痕跡だけど、会社から出た後、どの島の防犯カメラからも見つからないらしいわ」
「会社から出たのに姿がない?」
「まるで幽霊みたいにね。セル・ディビジョンのGPSで位置情報が探知できるはずなんだけど、電源が切られてるみたいで……探すことができないの。
島タクシーに乗った痕跡もなし。今、シールドと帯刀さんとで人通りの少ない建物をしらみつぶしにしているところ。島に建物は少ないから今日中に結果は分かるはずよ」
真見は顎に手を当てながら考えこんでいた。
「もう一度幽霊が出現した時の事で違和感があった部分教えてくれる?」
「はい!えっと……教室に入った時は何もいなかったのに突然幽霊が現れました。思い返してみれば……資料室のbookwormに触れた時だったと思います」
雪野の瞳が険しくなる。
「同じね」
「同じ?」
真見は雪野の言葉に疑問を抱く。
「もしかして……雪野さんも、命島資料室に?」
「ええ。侵入しようとした。だけど、黒い人影が教室の外に見えて断念したの」
「じゃあ、初めの幽霊騒動の発端は雪野さんだったんだ」
雪野は静かに頷く。結花が幽霊を見た時、雪野が学校に侵入していたのだ。火の玉というのは恐らく雪野が手にしていたペンライトのことだろう。
「bookwormで何を閲覧しようとしたの?」
「命島で起きた事故についてです。島内新聞だったら何かしら記録が残っているんじゃないかと思って。……そうだ!」
真見はポケットからノートを取り出すと急いでページを捲った。
「万野さんが検索していたんですけど……表示件数が可笑しかったんです!確か5件って。万野さんも驚いてました」
「五件?不審な事故は2048年捜査官のものと、2050年に帯刀さんの一度ずつ。今年、真見ちゃんが船から転落したのと、社宅からの飛び降りの4件のはず。もしかしてもう1件って……!」
真見の言葉に雪野は何かに気が付いたらしい。押し黙ると真剣な表情で真見に向き合った。
「真見ちゃん。そこまでよ。それ以上はXに踏み込むことになるわ」
「え?」
真見は戸惑いの表情を浮かべる。
「その情報の中にXに繋がる何かがあった。だから幽霊を使って牽制したのね……」
「だから万野さん、あの時なるほどって言ったんだ……。それでbookwormを放り投げたんです。その隙に何とか窓から逃げることができて」
「……事件を追っていたのも、幽霊を見に行こうと言ったのも探偵君?」
「はい」
雪野は深刻な表情で真見を真っすぐに見た。
「彼、危ないかもね。今どこに?」
弾かれたように真見が顔を上げると恐る恐る答えた。
「セル社本部近くの病院に入院しています」




