46.直感の決意(3)
(この部屋から逃げ出したい。だけど……)
真見は力任せに顔を上げた。ここで諦めると永遠に真実が分からなくなってしまいそうな、そんな気がしたのだ。
「そっ……それでも構いません!父の居場所を教えてください!」
その様子を見ていた雪野は再び深いため息を吐く。
「この話を聞いたら後戻りはできない。いいのね?」
「……はい」
真見は小さく頷いた。
「分かった……。私も作業者……神野真文さんから連絡が取れなくなったのは昨日の夜から。貴方と同じで行方を追ってるの。恐らくどこかに囚われているんじゃないかしら……」
「どこかに……閉じ込められてる?」
雪野の言葉に真見の顔色が悪くなる。一番考えたくなかった最悪の事態が目の前に広がって、真見は頭を抱えた。
(駄目だ。ここで弱ってる場合じゃない。これからどうすればいいか、考えなくちゃ……)
「真見ちゃん、大丈夫?このまま話しても平気?」
心配そうに雪野が真見の様子を伺う。ここで真見はあることに気が付いた。
(雪野さんの口調、万野さんみたい……。ということは、事件の真相を暴こうとしている人?なのかな……)
「雪野さんは……お父さんの浮気相手……じゃないんですね」
真見が恐る恐る口を開くと、雪野はくすっと笑った。
「浮気相手ね……。そっちの方がよっぽど良かったんじゃないかしら」
「雪野さんって普通のライターさん、じゃないんですね」
「ええ。簡単に言えば……潜入調査中の公務員よ。このことは誰にも口外しないようにね。貴方のお父さんは……私の作業者だった。つまり、私の仕事に協力してくれる人だった」
口調の変わった雪野に真見は思わず姿勢を正す。思っていた以上にスケールの大きな話で戸惑いが隠せない。
(えーっと……。潜入調査をしてるってことは警察?)
「どうしてそんな人が私の父と?」
「それは……この命島に国家を揺るがす犯罪者がいるからよ。仮にⅩとしましょうか」
「もしかして……殺人犯!」
真見は思わず声を上げる。命島の開発時から事件を起こしてきた連続殺人犯を思い浮かんだからだ。
「当たらずも遠からずというとこらかしら……。それらの事件にXが関わっているのは確かなの。私は証拠を得るためにここに来た」
「一人で、ですか?」
「本島には本部が立ち上がって大勢仲間がいるけど、この島にいる捜査官は私だけ。
なんせ政府も参加する予定だから身内が多いのよ。それに、この島に入るにはセル社の厳しい選別を受けるから捜査員が侵入しにくくて」
雪野がソファの背もたれに寄りかかって呟いた。
「……父は無事なんですか?」
顔を真っ青にさせた真見が掠れ声で聞いた。Xと真文が関わっているとしたら命が危ない。真文を捕らえている人物が殺人犯だとしたら……。
「無事なはず。神野さんはXにとって重要な人物だから。貴方のお父さんはXによって事件に巻き込まれたのよ」
「良かった……!生きてるんですね」
「でも危ない状況であることは確か。だから早く探し出さなきゃいけないの。どんな小さなことでもいい。お父さんが居なくなってからの事、教えてくれる?」
真見は真文のことを詳細に伝えた。エマとのやり取りも話すと、雪野は眉を顰めた。
「そう。退社記録があるということは……セル社の本部にはいない。
この島のどこかに神野さんを閉じ込めている可能性が高いわね。話が逸れてしまったけれど、ゲームのことでお父さんに聞きたかったことは何?」
「はい……。My ISLANDが危険なゲームなんじゃないかって。お父さんにちゃんと聞きたくて……」
雪野の目の色が変わった。
「何かあったの?」
「広報部の皆で夜の学校に調べに行ったんです。『幽霊』を。でも私、あれが幽霊だと思えないんです。だって……銃弾が本物みたいでした。撃った時、反動で机が動いたりしてましたから。その銃弾のようなものに撃たれて……万野さんが意識を失ったんです」
「……何ですって?」
雪野がソファから立ち上がる。
「不思議だったのは怪我がなかったことなんです。……私の直感ですけど、My ISLANDの技術が何か関係してると思いました。だって、『超リアル体験』のゲームだから……」
「私が見た時はそんなんじゃ……もう、そこまで進んでいるのね」
雪野は口元に手を当てて、信じられないというような表情を浮かべる。真見は胸に手を当てて不安そうに雪野の様子を眺めた。
「犯人の目的は何ですか?国を揺るがすようなことって……」
ソファで足を組み直した雪野がため息交じりに答えた。
「政府関係者、要人の襲撃よ。近いうちに首相をはじめ、スーパーアイランドに関わった政府関係者が集う会合が行われる予定なんだけど、そこを狙うんじゃないかと考えてる」
「そんな……!テロ?」
真見の言葉に雪野が静かに頷く。
「恐らくMy ISLANDの技術を使ってテロを起こすでしょう。その『幽霊』を使ってね」
「新技術を使ったテロ……?お父さんがそんなことに手を貸すはずない!」
真文はゲーム開発に深く関わっていた。もし、ゲームの使ったテロが予定されているというなら、真文が悪事の片棒を担いだことになる。真見は声を張り上げて否定した。
「そうね……。神野さんが率いる製作チームは純粋にゲーム開発のために働いていたわ。その技術をXに悪用されたの。
もともとXはマークされてきた人物でね。島の開発が始まると同時に派遣された捜査員が殺されたことから、Xに対して本格的な捜査が始まったの」
(そんな恐ろしい人がこの島に?)
真見は自分の体を抱きしめた。




