43.バーチャルの幽霊(5)
「何だ?あいつは?」
帯刀が腰に下げた銃を構える。月明かりで教室の中の人物が武装しているのがはっきりと見えたのだ。
「人……?私達以外に校舎に入った人、居たっけ?」
瑠璃が転んだ真見を支えながら教室の中を凝視する。
「万野さんが!万野さん!」
真見は声を掛けるが教室の出入口付近で倒れ込んでいる佳史には届かない。
(私のせいで……)
体中から血の気が引いて、呼吸がうまくできなくなる。真見は口元を手で押さえながら恐怖に耐えていた。
「くそっ。何が起きてるってんだよ!そこのお前!銃を下ろせ!」
帯刀が威嚇を続けるが教室の中の人物は微動だにしない。再び佳史に銃口を向けた時だった。
「万野先輩!神野さん!」
教室のドアが勢いよく開く。
「良!」
「相模君!」
瑠璃と真見が同時に声を上げた。背後には警備用ロボットが複数台いるのが見える。
「万野先輩?万野先輩、しっかりしてください!」
良がいち早く倒れている佳史に気が付き、部屋の外に引きずり出した。
「……え?」
驚くべき光景に真見は呼吸をするのも忘れた。
目の前に居たはずの男が消えたのだ。煙のように、跡形もなく。続けて入って来た警備ロボットたちが不審者を探して教室をぐるぐる回り始めた。
「消えやがった……」
呆気にとられた帯刀は静かに銃を下ろす。その場にいた誰もが目の前で起きた出来事が信じられずにいた。
けたたましい救急サイレンの音が聞こえる。
真見は遠くで佳史が運ばれていくのを眺めていた。本当は駆け寄って佳史の無事を確認するべきなのだ。それなのに真見の身体は少しも動かなかった。シールドも到着し、現場検証が始まる。
「真見、膝。擦りむいてるけど……」
「これぐらい、大丈夫。万野さんに比べれば……」
「救急隊の人、来てるから。行く?」
「ううん……」
瑠璃が黙って真見の隣に立っていてくれた。やがて救急搬送の車から帯刀が戻って来る。
「佳史は無事だ!ただ、気を失ってる」
「良かった……」
「真見、大丈夫?」
安心して真見は膝から崩れ落ちた。脱力した真見を再び瑠璃が支える。報告後も帯刀の難しい表情が晴れることはなかった。
「それが……無傷だったらしい。どこも怪我をしてないんだ」
それを聞いた真見が目を見開いた。
「え?でも確かに銃声が!机だって反動で動いていたのに」
「弾痕もないし、血も出てない」
真見はてっきり佳史が撃たれたものだと思っていた。怪我をしていないことに安堵したものの奇妙な現象に一同は呆然とする。
「おーい!神野さん!無事?」
良が大きく手を振って駆け寄ってくる。
「う……うん。私は……大丈夫」
真見は俯いたまま力なく答えた。
「膝から血が……。救急隊員の人まだいるから一緒に……」
真見の腕を掴んだ良の手を振りほどく。顔を上げて、弱々しい笑顔を浮かべて言った。
「私は……大丈夫だから」
呼び戻したサンが真見の手の中で首を傾げる。
(私の膝の怪我は本物の怪我……。じゃあ、万野さんが意識を失ったのはどうして?)
真見はひりひりと痛む膝を見下ろした。救急のサイレンが遠くに聞こえる。




