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ぼくらの島  作者: ねむるこ
ゲームと見えない悪魔
42/72

42.バーチャルの幽霊(5)

 ドアには立ち入り禁止の表示が浮かんでいる。真見の腕に鳥肌が立った。扉に手をかけた佳史を引き留める。

「待って!……ください。その部屋、メンテナンス中って……」

 真見の制止も聞かず、佳史は手でスライド式のドアを開けた。振り返ると、真見に向かって得意そうに笑った。

「メンテナンス中かどうかはこの目で確かめよう」

「え?ここって資料室?」

 遅れてやって来た良が驚いた表情を浮かべる。

「可笑しいと思ってたんだ。幽霊が目撃されたのが昨日、メンテナンス中になったのは今日……。きっと命島の過去に何かあるんだ」

 真見は目を見開く。

「幽霊探しだけじゃない。命島の過去について書かれた資料も探そう」

「ちょっと……!万野さん!」

 佳史は教室の奥に無造作に置かれた『bookworm』を取り出す。四方八方がプロジェクターというのは気味が悪い。

 真見の感覚は、暗闇の中でより鋭さを増す。物が少ないせいで余計に意識がむいてしまう。真見はしきりに周囲を見渡しながら佳史の側まで駆け寄った。


 検索:命島 事件 事故


「直近の年数に絞ろう。……え……?」

 佳史の言葉に引っかかり真見も検索画面に目を落とす。辺りが薄暗いせいで手に持ったbookwormが懐中電灯のような役目を果たしていた。

 普段映し出すページの映像は程よい採光に自動で調整してくれるのだが、これだけ暗いとbookwormの明るさが最大限になってしまう。眩しさに目を細めながらも検索画面の可笑しさに気が付く。

(件数が……5件?)

「二人とも後ろ!」

 良が叫ぶと共にドアが乱暴に閉まる音が響き笑った。そのせいで廊下にいる良と離れ離れになってしまう。

相模(さがみ)君?」

 真見と佳史が振り返ると呼吸が止まった。真見は思わず側に居た佳史にしがみつく。

「人が……人がいるっ!」

 資料室の中央に人が立っていたのだ。

 音もなく佇むその姿に真見は恐怖した。顔は黒い布で覆われ、帽子を深く被っているためよく見えない。背格好から体格のいい成人男性のように見える。

(何?これは人、幽霊?それとも……)

「何だあの人……。あの手に持ってるのは見間違いでなければ……銃?」

 『My ISLAND』で使用することのできるポップなデザインの銃とは程遠い。本物の銃のように見えた。

「幽霊にしてははっきり見えすぎじゃないかな?」

 佳史はゆっくりbookwormを机に置きながら目の前の人物を注視する。

(人が入ってくる音なんて聞こえなかった!ドアは相模君が覗いていた場所しか開いてない……。この人、どうやって入って来たの?)

 真見は説明のつかない現象に動揺した。一体何が起こっているのか。目の前の人物は躊躇うことなく真見達に銃を向けてきた。

「危ないっ!」

 佳史が真見の腕を掴みながら机の下に屈みこんだ。真見もつられてしゃがみ込む。反射的に二人はセル・ディビジョンのライトを切った。パンッという鋭い音と共に何かが猛スピードで発射されるのを感じとる。

(あれは……本物の銃なの?)

 そのことを察した真見は一気に血の気が引く感覚がした。

「何だ、あれは?セル・ディビジョンが見せているもの……じゃない」

 佳史がセル・ディビジョンを外して正面を見据えている。真見もセル・ディビジョンを外し視線を向けるが、その銃を手にした人影が消えることはなかった。

「じゃあ……。じゃあ、あの人は……」

「信じられないけど人間みたいだね」

 再びセル・ディビジョンを腕に取りつけながら佳史が答える。真見は震えながら相模がいたであろうドアに視線を向けた。

「どうしよう。ドアの近くに居て逃げられない……」

「隙を見て、窓から逃げよう」

 二人が小声で会話する間も目の前の男は不気味なぐらい静かだった。真見達はじりじりと左手側の窓に近寄る。

 辛うじて椅子と机だけが男を隔てる防壁だった。

「でも……!あのコントロールパネルを操作しないと普通の窓に戻らない……」

 真見はドア付近に取り付けられたコントロールパネルを指さした。

「それか……助けが来るまで耐え凌ぐか。3人にはメッセージを送った。良も危険を察して3人の方へ向かったか、助けを呼びに行っただろう……!」

 薄暗い部屋から再び銃声が聞こえた。僅かに机がずれるのが見えて真見は言葉を失う。

(怖い……。助けを待ってる間に撃たれたらどうしよう……)

 真見はその場にしゃがみ込み、自分の身体を抱きしめた。

 その様子を見ていた佳史が決心したように真見に提案した。

「……僕があのコントロールパネルを操作する。神野さんは窓から逃げるんだ。二手に分かれれば撃ち手だって狙いにくくなる」

 真見はしゃがみ込んだ両足を抱え込みながら首を振った。

「無理……無理ですよ。怖くて……動けない」

 真見の声は震え、掠れていた。佳史は縮こまった真見の背に軽く手を当てる。

「大丈夫。せめてこの場所から動かないと……。相手の良い的だ。せめてこの資料を持って外に出られればいいんだけど」

 佳史は閉じられたbookwormに手を伸ばす。それと同時に再び銃声が響いた。佳史の近く机が反動で揺れる。真見の肩が大きく震えた。

「狙いはこれか……」

 何かに閃いた佳史は深呼吸をするとbookwormを教室の右奥に放り投げた。右奥に向かって立て続けに銃声が響く。佳史の行動を真見は目で追うことしかできなかった。

 真見は震えながらも少しずつ左側、窓際に近寄って行く。足がもたついて上手く動かすことができない。

「神野さん今だ!」

 佳史の声と同時に部屋に月の光が差し込む。冷たい夜風が真見の頬を滑って行った。

瑠璃(るり)帯刀(たてわき)さん!)

 外には驚いた顔をした2人が立っていた。

 真見が顔を真っ青にさせて窓枠に足を掛けると正面から転げ落ちるように外に出る。瑠璃と帯刀が駆け寄ると同時に背後から銃声が聞こえた。

万野(ばんの)さんっ!」

 真見の叫び声が夜の校舎に響き渡った。

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