39.バーチャルの幽霊(2)
「楽しみだね!」
「何が楽しみなの?無理だよ。夜の学校に忍び込むなんて」
良が満面の笑みを浮かべているが真見は眉を下げて困り果てている。佳史が口元で人差し指を立てた。
「静かに。機密情報だよ」
「そんなことしたら……怒られるよ」
真見が小声で言う。
「近くで見なきゃ分からないだろう?幽霊なのか。それともバーチャル映像が投影されたものなのか。どうして現れるのかとかね」
「バーチャルも幽霊も似たようなもの。どっちも存在してないんだから」
瑠璃の言葉に佳史は感心する。
「へえー瑠璃にしては良いこと言うね。現実にはないという点では幽霊もバーチャルの世界も同じようなものか……。重要なのはどうしてセル・ディビジョンなしでも確認できたかってことだよ」
「だから。それが分かったところで何なの?」
「そっか……!」
真見は佳史の言わんとしていることが分かって声を上げた。
「何?また二人だけで通じ合ってるの」
「えー?なにそれー」
瑠璃の言葉に良が唇を突き立てる。
「今まで起きてきた事件、『見えない犯人』の正体が分かるかもしれない」
瑠璃が目を丸くさせる。
「じゃあ、何。今までの事件が総解決するってこと?」
「大袈裟に言うならそうだね!」
佳史が胸を張って答えた。
「それで?どうやって侵入するの」
「それは任せて。良い考えがあるんだ」
「先生に相談するとか。それじゃあ駄目……ですか?」
真見は自分の手を握りながら佳史に伺いを立てる。できることなら人目の付くこと、悪いことはしたくない。
「駄目だよ。特に学校関係者には教えられない。広報部の裏活動がバレたら活動を止められる恐れがある」
「確かに……。そうですね」
(よく考えたら私、裏活動をしてる時点で問題行動に足を踏み入れてたんだ……)
真見は引き攣った笑いを浮かべる。
「大丈夫!安心安全な方法を取るから。具体的には……」
三人は佳史の作戦に耳を傾けた。
(本当に大丈夫かな。今日の夜)
真見はいそいそと木の廊下を歩いていた。木の香りが真見を包み込み、安心感を与える。午前中の授業は学校侵入のことで頭がいっぱいで集中できなかった。
「早く!図書データ室はこっち!」
「あ。うん、ありがとう」
昼休みになり、真見は念願の図書室……と思われる場所に足を踏み入れようとしていた。その途中、廊下で創と出会い道案内をしてもらっている。
(本が読みたいだけじゃなくて……そろそろ事故のこと。事件のことを調べなきゃ)
真見は命島の情報誌を求めに図書室までやって来たのだ。
(万野さん喜んでくれるかな……。いや、広報部の皆のためでもあるんだから!)
頭の中で『My ISLAND』に怯えていた真見を助けてくれた佳史を思い出して掻き消す。
セル・ディビジョンから大体の場所は把握していたものの、創が折角申し出てくれたのだ。断るのは気が引けた。
「ここが図書データ室だよ!」
「ここが?」
教室に入るなり真見は驚きの声を上げる。
本棚が見当たらず、閑散とした景色が広がっていたのだ。教室の中央には木を模したオブジェが置かれ、その中心にフクロウが眠っている。
まるで絵本の世界に迷い込んでしまったような……不思議な感覚に真見は立ち竦んでいた。
「驚いただろ?」
前髪に隠れて見えないが、創の目が輝いているのが分かった。真見は素直に頷く。
「うん。だって……本がどこにも見当たらないから」
「本ならここにあるぜ!」
そう言って創が部屋に走って入る。木のオブジェの前に置かれた本の背表紙のような、薄いボードを手にした。
「よーく見ててな……。ほら!」
創が二つ折りにされたボードを開くと目の前に本のページのような映像が現れた。見た目は完全に紙に書かれた文字に見えるが、本の見返し部分から投影されたホログラムであることが分かった。
それが映し出された映像だとしても、本物の本のようにページをめくる感覚がある。
「これも命島がいち早く取り入れた新技術なんだ!凄いだろ!他の本に切り替えることだもできるんだ」
創が一ページ目に戻ると、タッチパネル式で本を検索する。ページ数が激減し、小説が絵本へと変化した。
「これは近々セル社が商品化するって。この『bookworm』は今の所この図書データ室でしか閲覧できないけど、書籍データは生徒のディバイスに飛ばせるようになってるんだ」
「すごい!これなら場所を取らないし、探す手間も省けるね」
真見は目次で自分の好きな作家を検索するとペラペラと電子データを捲った。
「低学年のために大きいサイズのbookwormもあるんだ」
「じゃあ創君はそっちを使ってるんだ」
「違う!僕は小学3年生だからこっち!」
真見の持つ本を指さす。子供扱いされて怒る創を見て微笑ましく思った。
「そっか。ごめんね」
真見は笑みを浮かべながらbookwormの目次で検索をかけた。
(『命島新聞』で出てこないかな?)
検索するが思い描いていた情報は出て来ない。そんな真見を見かねて創が声を掛ける。
「上手く探せなかったらフクロウに聞いたら?」
「フクロウ?フクロウってあれ?」
真見は木のオブジェの中で眠るロボットを指さした。
「そう!フクロウ。本を検索してくれるんだ」
「でも……どうやって」
二人で木の前でオロオロしていると眠っていたフクロウが目を開ける。真見は驚いて思わず腰を抜かしてしまった。
「うわっ!」
『何かお探しですか?』




