38.バーチャル幽霊(1)
「あれは幽霊だよ!」
「そんなわけないだろ!『My ISLAND』のクリーチャーと同じ。バーチャル映像だって!」
命島学校に到着するなり、小学部の生徒達が騒いでいた。
「何かあったのかな?」
「待って瑠璃。つか……れた」
へばる真見を引きずりながら瑠璃は騒がしい子供達を見る。
「幽霊が居たんだって!」
「幽霊?」
瑠璃が首を傾げる。
「そうだよ!でもだれも信じてくれないの!」
女の子が声を張り上げた。
「当たり前だろ。バーチャル上のものだって!」
「でも人間はまだバーチャル世界で見かけてないよ?広告と、キャラクターと……クリーチャーだけだろ?」
真見は脇腹をさすりながら子供達の騒ぎに聞き耳を立てる。
「こんなに騒いでたら万野さんが飛び出てきそう……」
「おはよう!何かあったのかな?」
真見と瑠璃の背後からどこからともなく佳史が姿を現した。その目は事件発生によって輝いている。
「うわっ。言った側から、万野先輩」
「何だ?瑠璃。その嫌そうな顔は!」
瑠璃の腕を桂史が肘で突く。
「佳史ならきっと幽霊じゃないって分かるかもな!頭いいし」
「だから!幽霊だって言ってるでしょう!」
小学部の生徒達の間で再び言い争いが起きそうだったので真見が慌てて間に入った。
「喧嘩は駄目だよ!そしたら私が一度話聞こうかな?」
「結花、昨日の夜ね、幽霊を見ちゃったの……」
結花と名乗った小学部の生徒が声を潜めて話し始めた。
「夕飯を買いに行った帰りだったから。近くまで行かなかったから分からないけど。人が立ってたんだ!校舎の前に」
「先生とかじゃないの?あるいは警備ロボットとか」
瑠璃が口を挟むと結花は大きく首を振った。
「違うもん!車のライトでね、見えたんだけど明らかに人の形だったもん!だって学校の照明全部消えてたのにその人、ライトも何も持ってなかったの」
「じゃあ、学校に侵入者?」
「幽霊だよ!」
結花が真見の言葉を遮るように続けた。
「だって、暫く見てたら姿が消えたんだもん!」
「どんなふうに?」
腕組をした佳史が真剣な表情で問う。
「一瞬で消えちゃったの。その後で火の玉が見えたよ!」
(人が一瞬で?それって本当に幽霊なんじゃ……)
真見は思わず眉を下げる。平気なフリをして話を聞いていたが、怖い話は得意ではない。
「馬鹿だなあ。人がそんな風に消える訳ないだろ。学校には警備のロボットがいるんだぞ。すぐにシールドに通報されるって」
他の小学部の男子生徒が反論する。
「それか『My ISLAND』を起動させたままだったんじゃねえの?バーチャル上のクリーチャーが人に見えたんだよ!」
男子生徒の言葉に真見は胸を撫で下ろす。
(そっか。幽霊じゃなくてバーチャル世界のものだったんだ)
「そんなことないもん!セル・ディビジョンを外しても見えたんだよ!その幽霊!」
(うそ……)
真見はすぐに顔を青ざめさせた。度重なる否定に結花は泣きだす寸前の表情を浮かべている。小さな言い争いを見かねた佳史が声を上げた。
「分かった。幽霊の正体を探ろう」
佳史の軽い承諾に真見が思わず振り返る。
「探偵見習いの神野さんも。広報部メンバーの皆でね」
「え……探偵見習いって……ええっ?」
真見が声を上げると佳史が瑠璃と真見の肩に肘を乗せた。
「本当に?ありがとう!」
涙を浮かべていた結花に笑顔が戻る。
(断りにくいことに……!これも万野さんの作戦か)
小学部の子供達と別れた後で瑠璃が佳史の腕を払いのけながら言った。
「解決しなきゃいけない問題を増やしてどうするんです?」
「そんな風に言わないでくれよ……。それに、この件は何も繋がってないわけじゃない。今までの事件と繋がっているように思えるんだ」
「それって……社宅の飛び降りに関係する、『見えない何か』ですか?」
真見の言葉に佳史が顔を綻ばせた。
「そう、僕らは見えるものに囚われすぎてたんだよ」
「二人とも……何言ってるんです?」
瑠璃は盛大に首を傾げる。真見と佳史の会話を何一つ理解できていないようだった。
「おはよーって。皆してこんなところで、どうしたの?」
そこに何も事情を把握していない良が姿を現した。




