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ぼくらの島  作者: ねむるこ
ゲームと見えない悪魔
36/72

36.朧げな浮気証明(1)

「私、そろそろ帰るね」

 バーチャル世界を見たことで真見はゲームの製作者、真文の姿を思い出した。

(お父さん、何だか様子がおかしかったし)

「えー?もう?もっとサンと遊びたかったな」

 (つくる)が名残惜しそうにサンを真見に返す。真見は後ろ髪を引かれながらもサンをポケットにしまった。

「ごめんね」

「これから事件の調査しようと思ったんだけど……」

「ごめんなさいっ。明日必ず手伝います!」

 真見が両手を合わせると佳史(けいし)はため息を吐いた。

「じゃあ、仕方ない。今日の助手はヨシ君かな」

 そう言って良と肩を組んだ。

「えー?僕ですか?」

「調査って何?俺も行く!」

 創は佳史の方を向いて目を輝かせた。

「待って、神野さん一人で大丈夫?」

 良の優しさが身に染みる。真見は大きく頷いた。

「大丈夫だよ。私に危害を加えた人はもういないんだし!」

 真見は強がるように答える。それでも良は心配そうな表情を浮かべていた。

(もー!そんな子犬みたいな目をされたら帰りにくいよ。でももう、これ以上、皆に迷惑をかけるわけにはいかないし)

「ほら!サンもいるから大丈夫だよ!」

 そう言ってポケットからサンを取り出して見せる。サンは何事かと首を傾げた。良は声を上げて笑った。

「あははっ!神野さんってかわいいよねー」

 真見は頬を紅潮させた。後から子供っぽい言動だったことに気が付く。

「……とにかく私は大丈夫だから!調査結果については万野さんにメールしますっ。じゃあ、また」

 半分やっつけのように言うと真見は足早に森林地帯を後にした。舗装されていない道を走りながら真見は真文のことを思い浮かべる。

(久しぶりに走ったら……疲れちゃった)

 真見は息切れしながら社宅の数メートル前に立っていた。空はいつの間にか薄くオレンジがかっている。

(瑠璃は何ともないのに私は少し走っただけで息が切れてる。情けないな……)

 ひ弱な自分にうんざりしていた時だった。

 自宅の前に人影が見えて、真見は慌てて近くに停められた島タクシーのトランク側の影に隠れた。

(……誰?)

 真見は目を凝らす。

 長い黒髪に、黒いキャップ。すらっとしたデニム姿の女性の姿が見えた。

 心臓がドクドクと嫌な音を立てる。

(あれって……)

 真見は生唾を呑み込んだ。瞬きをするのも忘れてその人物を凝視する。

(お父さんと……。雪野さん?)

 二人は距離を縮めて何やら話し込んでいる。

(お父さんの浮気相手は……雪野さん?)

 真見は衝撃で動くことができなかった。

 雪野がエレベーターに向かい、上階へ向かうのが見えた。その後、真文は辺りを警戒し、外に出る。真見は見つからないように体を縮こませた。

 真見が隠れているのも知らず、正面に停まっている島タクシーに乗り込むと、視界から消えた。

(嘘だ……。あれはきっと幻だ。バーチャル映像か何かよ)

 真見はサンをポケットから取り出し机の上に乗せてやる。そのままベッドに座ってぼんやりとした。

(どうして雪野さんと?お父さんと何の繋がりもないはず)

 真見はそのまま後ろに体重を掛けるとベッドに寝転がった。ぼんやりと白い天井を眺める。

(新作ゲームの取材だって言ったら接点は生まれるかもしれない……)

 浮気現場と思われる場面を目撃しても真見はまだ違和感を拭えないでいた。

 そんな時にセル・ディビジョンが軽く振動する。真見は通知の相手が何となく分かってしまった。それでも認めたくなくて画像を浮かび上がらせる。相手の名前をみて再び深いため息を吐く。

(どうしてこんな時に!)

 『神野絵美(かんのえみ)』という文字が顔写真と共に浮かび上がっていた。

 セル・ディビジョンは真見のタブレットと同期してあるので通知にも対応することができる。

 寝転がったまま画面に触れ、通知に応答する。

「もしもし……。どうかしたの?」

『真見?元気にやってるー?ゲーム、リリースしたんでしょう?どう?もうやった?』

 絵美の声が部屋中に響く。机の上に居たサンが驚いたように飛び立った。

「うん。遊んだというか……見ただけ。バーチャル上の生き物なのに本当に存在してるみたいだったよ」

『動画で見て私もびっくりしちゃった!今頃あの人、疲れ切ってるんじゃないかと思って。どう?死にそうな顔してる?』

 絵美の問いかけに真見は曖昧に微笑んだ。真文が苦しんでいるのを楽しんでいるように聞こえて複雑な心境になる。

(本人に聞けばいいのに。お母さん、一度口を聞かないって決めたらずっとそう。本当に頑固なんだから)

「うん……。疲れてるみたい。昨日なんか日付変わってから帰ってきたから」

 それで会話が終われば良かったのだが、そうもいかない。

『それで調査のほうはどう?相手の女の顔、見れた?』

 痛い所を突かれ、真見は思わず変な声を出しそうになる。口元を押さえ、なんとか声が漏れずに済んだ。


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