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ぼくらの島  作者: ねむるこ
少女の閃き
25/72

25.奈落(1)

神野(かんの)さんの直感力と僕の推理でタッグを組めば最強だと思わない?きっと船の事故のことだって解決できる!改めて。これからもよろしくね。神野さん」

 佳史(けいし)の気迫に負けた真見は小さく頷く。

(不安だけど、私もこの違和感の理由を知りたい。何もしないよりはましだよね?)

「探偵は万野さんが向いてると思いますけど……。私もできる限り頑張ります」

「僕も協力するー」

 緊張感に欠ける良の声が響く。それを聞いた瑠璃も静かに手を上げた。

「私も。乗り掛かった船だし」

「いいね。役者が揃ったという感じだ。それじゃあ今日の所はとりあえず解散。明日、過去に起きた溺死事件について分かっていることを話すよ。神野さんを自宅まで護衛しよう」

「護衛って……」

 真見は佳史の大袈裟な物言いにくすくすと笑った。

(何だか凄いことになっちゃったな……)

 三人に見送られた真見はベッドに横になる。タブレットでサンの取り扱い方、今後の試運転についての書類に目を通していた。まだ鼓動が高鳴っている。

 真見は今日の出来事を振り返って微笑んだ。この状況を楽しんでいる自分がいるのに気が付く。

 子供達だけで大人の目を盗んで事件を調べる。本で読んだ物語のようで真見は心躍らせていた。

(まさか私の直感が推理に繋がるなんて……。私の性質が人の役に立つかもしれないんだ)

 そう思うと今まで嫌悪してきた自分の性質も好きになれそうだった。

 ふわふわとした思考の中、机の上でぬいぐるみが倒れるのが見えた。真見は思わず声を上げる。

「こら!サン。駄目だよ……」

 サンがうさぎのぬいぐるみを倒し、その上に乗っていたのだ。近づいて来た真見を見上げる目が可愛らしい。既にユーザー登録も済ませ、サンは真見を飼い主だと認識している。

「ここがいいの?仕方ないな……」

(って。犯人捜しだけじゃない。浮気調査も進めなきゃ……)

 うさぎのぬいぐるみだけでは飽き足らず、側にあったセル・ディビジョンにまで乗っかろうとしていた。

「それは駄目!高級品なんだから!」

 慌ててセル・ディビジョンを取り上げる。

 サンと戯れた後、真見は犯人のこと、浮気調査のことなど色々頭の中で考えながら眠りについた。



 

「来るな……!こっちに来るな!」

 男は暗闇の中で叫ぶ。そのまま屋上の手すり、ぎりぎりのところまでやって来た。そのまま動きをぴたりと止めると、白目を向く。そのまま上体が大きく揺れると地面に真っ逆さまに落ちていった。




「……っ!」

 真見は自分が高いところから落ちていく感覚がして目を開けた。同時に体がびくっとなる。横目で目覚まし時計を確認すると朝の5時を少し過ぎたぐらいだった。そのすぐ後に外からサイレンの音が聞こえてきて真見はベッドから飛び起きる。

「お父さん!」

 真見が起きるとベランダから外の様子を伺う真文の姿があった。随分前から起きていたようだ。部屋が朝の冷たい空気を取り込んで冷え切っている。

「ねえ……。何かあったの?」

 真文(まさふみ)が疲れ切ったように答えた。

「……飛び降りだ」

「飛び降り?この社宅から?」

 真見は思わず上の階を見上げる。20階まであり、60メートルはある。落下すれば命はないだろう。住民の殆どがセル社の社員のはずだ。

「現場は殆ど片付けられてる。見て気持ちのいいものじゃないから部屋に戻りなさい」

 真文は静かにベランダの窓を閉める。そういう真文もあまり顔色が良くない。

「……うん」

 真見は身震いしながら自室に戻る。

(もしかして……これも島に潜む犯人のせいなの?)

 真見はひとり、部屋に戻り呆然とする。

(私の住む家まで近づいて来てる……!)

 立ち竦む真見の元にパタパタと飛んできたのはサンだった。床に落ちていたスクールバッグに着地すると真見を見て首を傾げる。

「そうだね。学校に行かないと……。今日は過去の事件について万野(ばんの)さんから聞くんだもんね」

 真見は少し早めの朝支度を始めた。


「おはよう……。何かあったの?」

 朝の護衛を任された瑠璃が神妙な顔つきで真見を迎えにやって来た。良とふたりきりになるのを防ぐため、瑠璃が自ら志願したのだと真見は考えている。

 シールドの職員が集まり、案内ロボット達が交通誘導を行っていた。

「おはよう。それが……うちの社宅で飛び降りがあったみたいで。朝からこの騒ぎ」

 真見はげっそりとした顔つきで答える。

「それって島で立て続けに事件を引き起こしてる犯人のせいってこと?」

 瑠璃は少しも動じることなく社宅を眺めていた。

(格好いいな。瑠璃は少しも動じてない)

 朝から顔を青ざめさせ、震えていた自分とは大違いだ。真見は少しだけ自分が恥ずかしく思えた。怯えを誤魔化すように胸を張る。佳史を意識して話した。

「分からない。でもやっぱり誰かが裏で動いてるんじゃないかって思う……」

「真見……」

 瑠璃がじいっと真見のことを見つめる。熱心に見つめられて真見は自分の頬が赤く染まっていくのを感じた。

(私。可笑しいこと言っちゃったかな?言っちゃったよね)

「万野先輩のこと好きなの?」

 思いもよらない瑠璃の言葉に真見は脱力する。

「なんでそうなるの!」

「今の万野先輩っぽかったから」

 慌てる真見に対し、瑠璃は余裕の表情だった。揶揄っているのではなく真剣に話しているところがまた真見を動揺させた。

「それならちょうどいいや。ライバルが減るし」

「そ……そういうことじゃなくて!」

 真見はこんなにも動揺しているのに瑠璃の余裕そうな表情を羨ましく思う。

「好きじゃないの?」

「それは……大人でカッコいいと思うけど!そんな風に考えたことないから……」

「あっそ」

 案外簡単に引き下がった瑠璃を真見は恨めしそうに睨んだ。

 真見は容易に「好き」という言葉を口に出すことができなかった。自分に「好き」という感情が相応しくない気がしたからだ。自分の好意が誰かにとって迷惑になってしまうと考えていた。

(そうだよ。殆ど私の勘違いなんだから。相模(さがみ)君だって、良心に従って助けてくれたのに。万野先輩だって、親切心で色々助けてくれてるんだから。私は普通の人とはちがうから……。私の好きは迷惑になっちゃう)

 真見は深い思考の沼にハマりそうになり、慌てて首を振る。瑠璃に言われたい放題だったのでわざと踏み込んだことを聞いてみた。

「そんなに好きなら早く相模君に告白しちゃえばいいのに」

「したよ。告白」

「したの?告白!」

 瑠璃の淡々とした答えに真見は今年いちばんではないかと思われる大きな声を上げた。

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