22.可愛い相棒と裏活動(2)
「実は私、気が付いたことがあって……」
真見が打ち明けようとした時、佳史が自分の口元に人差し指を立てしぃーっと息を吐いた。その様子はいたずらを思いついた子供のようだ。
「その話は後で。先に用事を済ませようか」
「はい……」
佳史は真見たち3人を追い抜き、先導するように歩き始めた。スキップでもしているような軽やかな足取りだ。
「本当に大丈夫?顔色が悪いよ」
良が真見の隣に並ぶと心配そうに声をかけてきた。
「うん。大丈夫だよ」
真見は自身の両頬を手で挟んで己の弱さに嫌悪した。
(顔に出てたか……こんなことで動揺するなんて。ただ船で起きた事故を聞かれただけじゃない……)
「万野先輩っていつもああなんだ。不思議な出来事に目がないから相手の気も知らずズバズバ聞いてくるの。残念なイケメン……」
先ほどまで真見と良の距離の近さに不機嫌になっていた瑠璃だが今は真見のことを心配している。佳史への文句を呟いて表情を和らげようとしてくれた。
(強くならなきゃ……)
真見は人知れず己の心に鞭を打つ。
「久しぶりなんじゃない。ケイシ」
茶髪にパーマがかけられ、彫りが深い顔立ちをした女性が声を上げた。コーヒーカップ片手に真見達をフランクに迎え入れる。
命島の中心部、セル社の本部に足を踏み入れていた。今回は行政窓口ではなく、直接オフィスに通されている。真見は落ち着きなく綺麗なオフィスを見渡していた。
(もしかしたらお父さんの浮気相手が通り過ぎているかもしれない!)
「お久しぶりです、エマさん。『スカラベ』の試運転を引き受けに来ました」
爽やかに女性社員に受け答えをする姿を見て真見は気後れする。
(流石万野さん。大人だな……)
「じゃあ、担当する子が来たってことね」
エマが満面の笑みを浮かべる。
「ええ。こちらの神野真見さんが引き受けてくれることになりました」
「カンノ……。もしかしてマサフミの子?」
「はい……」
エマが興奮気味に真見の顔を覗き込むので、思わず体を後ろに移動させる。
「私はエマ・テイラー。宜しくね。それよりあなたのダッド、凄いわよ。これから驚くような世界が見られるから楽しみにしてて。私達、バイオミメティクス部隊も負けてられないわ」
そう言って机の上から取り上げたのは片手に乗る小さな小型のロボットだった。真見の両手の上に乗せられるとスカラベは顔を上げる。その様子が飼い主を確認する小動物のように見えて真見は思わず微笑んでしまう。
形状はコガネムシだが丸っこいフォルムに丸い瞳は愛嬌がある。
「その子は土壌調査、昆虫の生態調査のために作られたロボット。小さいからどこへでも潜り込めるし、多少の雨風なら耐えられる。最小の複眼カメラが搭載されているからより、高度な観察が可能なの」
側にあったタブレット片手にエマが説明を続ける。三人はタブレットから映し出される映像を見ながら聞く耳を立てた。
「複眼カメラと言っても実際の生物のように一万もカメラを取り付けることはできないからせいぜい数百ぐらいかしらね。そのお陰で広範囲の生物に反応して自動で追うことができるわ。紫外線を感知することもできるの」
「こんなに小さいのに?カメラがそんなにたくさん?」
真見は可愛らしいスカラベの黒い瞳を覗く。スカラベは顔を傾げて見せた。
「随分可愛らしいロボットですね」
「詳しい取り扱い方と契約書はメールしておくわ。自然が残されたエリアに放してみて。報告書は週一回上げるようにね。報告書を受けて私達が新たな調査方法を指示するから。何かあったらいつでもいらっしゃい」
「はいっ!」
真見は嬉しそうに大きく頷いた。
「あの。父は普段、どの階にいるんでしょう」
椅子に腰かけたエマがコーヒーカップを机に置いて答えた。
「デスクは特に決まってないけど……。会って帰る?」
「だっ……大丈夫です!」
真見が慌てて手を振った。内心ではガッツポーズを決める。
(これでセル社に自然に出入りできるようになった!浮気調査も進むはず)




