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ぼくらの島  作者: ねむるこ
少女の閃き
21/72

21.可愛い相棒と裏活動(1)

「聞いたよ。広報部に入ってくれるんだって?」

 佳史(けいし)の目が輝く。真見は目を細めながら頷く。

 翌日、真見は良と瑠璃と共に生徒会室に立ち寄っていた。生徒会室は高等部の生徒達の溜まり場のようになっているようで、生徒達が談笑しているのが視界に入る。

「嬉しいよ。ありがとう!」

 昨夜、急いで課外活動の希望について学校のアプリで返答したのだ。完璧な笑顔に真見は照れくさくなって視線を落とす。

「すぐにでも活動に参加したくて……。何か私がお手伝いできることってありますか」

「そうだな……。そうしたら『スカラベ』の試運転に協力してもらおうかな」

「スカラベ?」

 不思議そうな表情を浮かべる真見に佳史が微笑んだ。

「コガネムシ型の小型ロボットだよ。主に植物や昆虫の生態調査、土壌調査用のロボットさ」

 佳史のタブレットからロボットの映像が浮かび上がる。手のひらサイズの白銀色のロボットは昆虫の姿をしていながらも愛嬌があった。

「可愛い……」

 真見は目を輝かせる。まさか自分がテクノロジーの体験者になれるなんて思いもしなかった。

「じゃあ決定だね。これからこのスカラベについて説明を受けにセル社の本部に行こうと思ってたんだ。良かったら一緒にどう?」

「ぜひお願いします!」

 浮気調査を行う絶好の機会に真見は食い気味に返事をする。

「元気がよくていいね。それじゃあ僕とセル社に向かおうか。そうだ、ヨシと瑠璃はどうする?」

「僕は行こうかなー。神野さんが心配だから」

 良がさらっととんでもないことを言ってのける。本人は甘いことを言ったつもりは無さそうで無邪気に笑っていた。嬉しさよりも気恥ずかしさで真見は体を縮こませる。

(またそういうことを言うと勘違いさせるから……)

「だったら私も行きます!」

 瑠璃も真見と張り合うように声を上げる。その様子を見守っていた佳史が爽やかな笑顔を浮かべた。

「じゃあ、皆で行こうか」


「神野さん、ヨシと仲いいよね」

「そんなことないですよ……」

 セル社の本部へ向かう道中。真見は隣を歩く佳史に突っ込まれおどおどしていた。真見達の前で瑠璃と良が並んで歩く。命島の開発エリアは比較的建造物が多く、時折セル社の社員と思われる大人達が町を歩いているのを見かける。様々な国籍の人達が滞在しているようだ。

「船から落ちた乗客って神野さんだよね?」

「……!」

 佳史から思いもよらない話題を振られた真見は思わず警戒心を強めた。

(個人情報は出さないようにしていたはずだけど……。もしかして万野さん、あの船の周辺にいた?)

 真見の顔色が変わったのに戸惑ったのだろう。佳史は申し訳なさそうに口を開いた。

「気分を悪くさせたらごめん……。ちょっとした推理だよ。ヨシがあそこまで神野さんを気に掛けるのが気になって。シー・リサーチャーの救助者の記事と合わせて考えたんだ。それに、神野さんから仄かに湿布の香りもする」

 佳史の観察力に真見は口を開ける。それと共に昨日、佳史が『探偵顔負けだね』と言っていたことを思い出した。

「万野さんこそ探偵みたいですね。もしかしてミステリー小説がお好きとか?」

 真見が感心していると佳史が楽しそうに笑った。

「そうだね。この性格のせいで島の裏のことまで調べてる。誰に頼まれたわけじゃない。完全に自分の趣味だよ」

「そういえば、昨日もおっしゃってましたね。裏の事件も調べてるって……」

「そう。例えば神野さんが海に落ちたこととか」

 真見は佳史の言葉に固まった。挑むような佳史の目を見ることができない。

(どうして事故じゃなくて事件だと?記事を見た限りじゃ何も分からないはず。もしかして……この人は何か知っているのかもしれない)

 真見が息を呑んで佳史の様子を伺う。

「そんなに警戒しないで。最近この島で不可解なことが続いてるんだ」

 真見は良の言葉を思い出す。

『最近おかしいんだ。この島』

 言葉にできない恐怖が真見を襲う。心臓音が自分の耳元に聞こえてくるような気がした。

(私の知らないところで何かが起きてる。何かがもうすでに始まってる……)

 真見の腕が引かれ、佳史の隣から引きはがされた。突然のことに真見の目が見開かれる。

「万野先輩……。神野さんに何を言ったの?」

 真見の腕を引いたのは(りょう)だった。いつもの穏やかさは何処へ行ったのか。少し低い声に驚く。良の隣に立つ少し不機嫌な様子をした瑠璃を見つけると、真見は慌てて良の腕を振りほどいた。

 瑠璃とはせっかく和解しかけているというのに。険悪な雰囲気に戻ったら堪らない。

「何でもないよ。ちょっと昨日の事故のこと聞かれて……。ぼんやりしちゃったというかなんというか……」

 真見が困ったように笑うと良が眉間に皺を寄せた。

「事故のことを?やめてくださいよ。トラウマになってるかもしれないのに……」

 温厚な良が怒る姿を見て真見は申し訳ない気持ちになった。佳史もそんな良の姿に瞬きを繰り返しながらも素直に頭を下げた。

「悪かった……ヨシ。僕が無神経過ぎた。神野さんもごめんね。さっきのことは忘れていいよ」

 真見は申し訳なさそうな笑みを浮かべて会話を流そうとしたところを思いとどまる。

(このまま有耶無耶にしていいの?万野さんは何かを知っていそうなのに。私が弱気なせいで、知らないままでいいの?)

 服の袖の内側で握りこぶしを作ると勇気を振り絞って問いかけた。

「ど……どうして事件だと思ったんですか?」

 三人とも驚いた表情を浮かべていた。佳史は考え込むような素振りを見せた後で真見の質問にこたえるべく口を開く。

「それはね……昔この島で溺死体が見つかってるんだ。しかも一人じゃない。だから、神野さんが船から落ちたのも何かあるんじゃないかと思って」

「溺死体?」

 真見は予想外の返答に呆然とする。佳史は真見と向かい合うとしっかりとした口調で続けた。

「だから僕らは調べてるんだ。もちろん僕達だけの秘密でね」

 佳史が口元に人差し指を立てた。その表情は好奇心に満ち溢れ、生き生きとしている。その姿は事件を前に心を躍らせる探偵のようだ。

(……船で起きた事を話そう。そうすればこの違和感がなんなのか分かるかもしれない)

 もしかしたら目の前の探偵が謎を解き明かしてくれるかもしれない。蓋をしてもう考えないようにしていたあの船での出来事を打ち明けようと心に決めた。

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