19.トモダチ(1)
社会科の授業を受け終えた真見は放心状態になっていた。スーパーアイランド計画のスケールの大きさに固まる。
「じゃあ、僕は海洋生物学の授業行ってくるから。これで!」
良の言葉に真見は我に返る。
「あ……うん。じゃあね」
元気に真見と瑠璃に手を振る。駆け足で教室を出て行くところから余程次の授業が楽しみらしい。
「じゃあ。私もこれで」
眉を顰めた瑠璃が素っ気なくその場を離れようとした時だった。真見は慌てて瑠璃を止めた。
「あの……!少し話しても?」
真見は勇気を振り絞って瑠璃の服の袖を掴んだ。瑠璃は首を傾げながらも立ち止まってくれた。
「何?」
心地いい木の香りのする廊下。瑠璃が腕組をして真見を見下ろす。真見は緊張で肩を強張らせた。
(言わなきゃ。誤解を解かないとずっとギスギスした空気になったままになっちゃう。そんなの耐えられない!)
「その……私、相模君のこと、何とも思ってないから!感謝の気持ちはあるけど!」
「……」
瑠璃は目を丸くさせる。
「天笠さんは相模君のこと好きなままでいてくださいっ」
真見が照れくさそうに、早口になって言う。瑠璃は目を丸くさせたまま驚くべき発言をした。
「どうして私が良のこと好きって分かったの?」
「……え?」
真見も瑠璃と同じ表情になる。冗談で言っているのかと思ったが瑠璃の顔は真剣だった。
(あれだけ態度に出ていたのに分からない人の方が少ないんじゃないかな。もしかして……天笠さんって天然?)
瑠璃の鋭い刃物のような第一印象とのギャップに脱力した。真剣な表情のまま瑠璃は続ける。
「やっぱりあんた。只者じゃないね……」
「ふふっ」
真見は堪らず吹き出す。真見が笑いをこらえきれない様子を瑠璃が不思議そうに見つめる。真見は慌てて謝った。
「あはははっ……。ごめん、つい。面白くて……」
「何が面白いの。まあ、いいや。私は良が好き」
瑠璃が光を受けながら、堂々と言い張る姿に真見は思わず口を噤む。瑠璃の表情は爽やかで、少しも照れていない。……いや元から表情が顔に出ないタイプなのだろう。逆に真見の方が気恥ずかしくなって顔を赤らめてしまう。
「だから神野さんが良のこと狙ってなくて安心した」
そう言って唇を両端に引き延ばす。
(……笑った)
真見は瑠璃の笑顔を見て息を呑んだ。良が太陽のような笑顔だとしたら、瑠璃は静かな輝きを放つ月のような笑顔だった。笑顔を見てひとまず誤解が溶けたことに安堵する。
「でも良のこと好きになりかけたでしょう」
真見の心臓が高鳴る。
「そ……そんなことないよ!命の恩人だし、嫌いになるわけないけど。あ!好きってそういう意味じゃないよ」
慌てる真見に瑠璃が小さく笑う。
「いいよ。ごめん。良って誰からも好かれるからさ。ライバルが多いんだ」
真見は人懐っこい良の姿を思い浮かべる。初対面でも良の温和な声色は人見知りする真見でも安心して応じることができた。
「分かる気がする……。私にできることがあれば手伝うよ、天笠さん」
真見の申し出を聞いて瑠璃が少し驚いた表情を見せる。
「瑠璃でいいよ。あんたのことは真見って呼ぶからさ」
腕組しながら笑う瑠璃を真見は呆然と眺めていた。




