16.新時代(1)
「突然何?創」
真見の前に立っていた瑠璃が腰に手を当てながら呆れた声を出す。
「もう小学部のみんな行っちゃったよ」
良は少年の背後を指差して笑っていた。
「ゲームデザイナー神野真文の子供だろ!」
真見は瞬きを繰り返した。確か葛西から「環」と呼ばれていた生徒のはず。声が微かに上擦っている。
「……うん。そうだけど」
「俺さ神野デザイナーのゲーム、全部プレイした!一番尊敬するゲームデザイナーなんだ!」
前髪から覗く丸い瞳がキラキラと輝いているのを見て真見は少しずつ瑠璃の背から姿を現した。
「そ……そうなの……?」
真見は創の熱量に戸惑った。
(早口……。どうしよう全然おしゃべりが止まらないよ)
お構いなしで創はぺらぺらと喋りつづける。
「『ライフ・アフター』のクリーチャーなんてマジ凄かった!本当に存在しているみたいだし。それだけじゃない、ゲージ、アイテムのデザインなんかも本当にセンスが良くて……。銀の拳銃を持つ主人公がカッコイイんだ!」
「ありがとね……」
少年が真文のことを語る度に真見は肩身が狭くなる。
(お父さん、凄いことしてるのに。それに引き換え私は……何もない)
「それとさあ!あの……」
「創!」
困った顔をした真見の横から良がすっと間に割り込む。
「もう授業が始まるよ。早くしないと巡回ロボに掴まる」
「それはやだな。じゃあ!またあとで神野デザイナーのこと聞かせろよ!」
創がはち切れんばかりに手を振るので真見も小さく手を振り返した。
「ゲームが好きなんだね。創君」
真見の疲れ切った表情に良が笑う。
「創、ゲームの腕は凄いんだよ。最近世界大会で1位を取ったみたい。僕、ゲームはさっぱりなんだからよく分かんないけど」
「あの子が?」
真見が遠くなっていく小さな背中を見送る。
(お父さんのゲームけっこう難しいのに)
「授業行くんでしょう?……早くしてくれる?」
瑠璃の鋭い視線に気が付いて真見は慌てて良から距離を取った。
「ご……ごめんね!行こう」
3人は朗らかな日差しが差し込む廊下を歩く。
「それじゃあ適当な席に座って」
遅れて教室に入って来たのは葛西だ。驚く真見に茶目っ気たっぷりの笑顔を見せる。
「葛西先生、社会科の先生なんだよ。命島学校のとりまとめの先生でもあるんだけど」
良が隣から解説してくれる。
「私達と同じ。この島の住民。大人になると都市部に出て行くんだけど葛西先生はこの島に戻って来た」
瑠璃も良の隣から顔を覗かせながら言った。
「へえ。そうなんだね」
「そうよ。スーパーアイランド計画は島の人口増加効果もあったの。それじゃあ、授業を始めましょう」
真見達は横一列に並ぶように席に着いた。
「先生は一つ、質問したいことがあります。皆さんは今、どんな時代だと思ってこの時代を生きていますか?」
てっきり教科書やノートを開くものだと思っていた真見は動きを止めた。そう言えば教科書もノートも何もない。ただ目の前に立って話す葛西に視線を移す。
「日本の歴史には縄文時代、安土・桃山時代というように、その時代を表現した名称が付けられていますが……」
そう言って真見の方にゆっくりと視線を合わせる。
「今の時代に名前を付けるとしたらどんな名前になると思いますか」




