15.自己紹介とテクノロジー(3)
(アイドルグループに所属してそうな人だなあ……)
真見は目を擦りながら華やかな外見をした佳史を眺めた。自由な服装が認められた学校では珍しくグレーのブレザーにスラックスという学校の制服っぽい服装をしている。
「それにしても神野さんは鋭いんだね。探偵顔負けだ」
「え?」
自分を表現するものとは程遠い賛辞に真見は戸惑う。その様子を見て佳史はふっと笑った。
「瑠璃の脚の筋肉を見て短距離走者だって考えたんだよ。観察力と思考力が凄いんだね」
「いえ、そんな。私はただ……」
直感が鋭いだけなんです。という言葉を飲み込む。佳史の言葉から微かに否定を許さない響きを感じたからだ。
(温和な雰囲気なのに。何だろう。この逆らえない空気は)
「そんな神野さんに是非とも『命島広報部』に入ってもらいたいな」
そう言って佳史はにっこりと笑った。
(何だ……。部活動の勧誘か……)
「それって……何ですか」
瑠璃の背中から真見が問いかける。
「セル社公認の部活動みたいなものさ。主に命島学校の出来事を記事に纏めるんだ。といってもまだ世間で公表はされずこの島内部の情報誌に過ぎないけどね。最新のテクノロジーを体験することができて社会体験もできる。一石二鳥の活動さ」
「へえ……。楽しそうですね」
「そうでしょう!表立った出来事だけじゃなくて裏で起こった出来事も調査してる」
「裏で起こった出来事?」
真見が疑問を持つのも束の間、佳史が手を振る。
「じゃあ僕はこれで。中等部の皆は所属してるから親交も兼ねて活動に加わってくれれば嬉しいな」
「考えておきます」
佳史が立ち去った後で瑠璃が振り返った。
「広報部に入るの?」
「……天笠さんも相模君も入ってるんでしょう?だったらお邪魔させてもらおうかな……」
真見が二人の様子を伺うように答える。瑠璃はじとっとした目を向けてきたが良は手を叩いて喜んだ。
「いいね!そしたらクロと島周辺の調査もできるよ」
「泳ぐのは苦手だけど……。文章を書いたり、情報を纏めるのは得意かも。あのイルカのロボットも広報部の活動?」
良が大きく首を縦に振る。
「うん。セル社の開発したものの試験運転を体験できたりするんだ!僕は島周辺の環境調査を手伝ってる。因みに瑠璃は幽霊部員だよ。サボってるんだ」
良が瑠璃の方を見てくすくすと笑う。瑠璃が躍起になって言い返した。
「私は陸上競技に忙しいから。でも、これからは顔出すようにする」
そう言って真見の方をちらりと見る。真見を牽制しているようだ。
(天笠さんって絶対に相模君のことが好きだよね。……私のことをライバル視してる。早いところ誤解を解かなくっちゃ。解かなくっちゃだけど……)
真見は引き攣った笑顔で両手を小さく上げて首を左右に振るも、瑠璃には伝わっていないようだった。
「中等部の次の共通科目は……確か社会だったかなー」
レクリエーションルーム前の廊下で良が呟く。
「その次、私はスポーツ科学だから」
「僕は生物海洋学」
真見は聞き慣れない科目に首を傾げる。
「その科目って何?」
「そっか。神野さんは命島学校の授業のこと分からないよね。この学校に固定の教室はないんだ。皆授業の度に移動する。共通科目はその学年で学ばなければならない科目。自由科目は生徒が学びたいことを深く学ぶことのできる授業のことだよ。他にもたーくさん科目があってリモート授業が受けられるんだ。ゲーム制作を学んでる生徒もいる」
「へえ……。進んでるんだね」
真見は今まで自分が通っていた学校を思い出す。
狭い教室に多くの生徒が詰める。整然と並べられた椅子、机。同じことを強要される空間。個人的な考えは淘汰され、正解だけが求められる授業。酷く閉鎖された印象が浮かぶ。
感覚の鋭い真見がどれだけその空間に苦しめられたか分からない。様々に入り混じる匂いや音、教室の眩しい明かり……。全てがストレスだった。
一番辛かったのは人の感情だった。教室に不快な感情が渦巻くと忽ち真見の心にも不快感が広がる。誰かの陰口が聞こえた時も同様。無視しようと思っても真見の心を蝕み、体に不調をきたすのだ。保健室に通った時期もある。
真見は人の感情を人一倍感じやすい性質だった。それによって自分の心を疲弊させてしまう。特に負の感情に対する疲労は凄まじかった。ねっとりとした泥が真見の心にまとわりつくような、息苦しさを感じるのだ。
相対した相手の感情が流れ込んでくるような感覚を真見は物心ついたころから感じ取ることができた。それによってずっと振り回されてもいた。
(誰に言っても信じてもらえない。それはそうだよね。人の内面のことなんて誰も解明できないもの。例え、テクノロジーが発達していったとしても……)
「神野さん?どうかした?」
良が心配そうに真見の顔を覗き込む。突然距離を縮められた真見は思わず一歩後ろに下がった。
「……何でもないです!それより、授業。授業行こう!」
隣をちらりと見やるとやはり瑠璃が目を細めてこちらを見ている。真見は首を横に振って他意はないこと示した。
瑠璃は小さなため息を吐くと3人は廊下を歩き始める。
「神野真文」
目の前に待ち受けていた子供が呟いた。
「ひゃっ!な……何?」
真見は3人の中で誰よりも驚いて隣にいる瑠璃の背中に隠れた。
見れば先ほど、真見の自己紹介で目が合った生徒の一人だ。確か葛西から「環」と呼ばれていた。前髪が長く、顔がよく見えない。不気味さの漂う子だ。
(どうしてお父さんの名前、知ってるんだろう)
不機嫌そうな瑠璃の背中から真見は恐る恐る生徒の様子を伺った。




