11.スーパーアイランド命島(2)
「まずはこの、スーパーアイランド『命島』についての説明からだね。此方にどうぞ」
「失礼します」
教室の扉に映し出された電子看板には『命島資料室』と書かれていた。教室の中からも木の香りがする。
「ここはね。子供達に命島について語るだけでなく、島の歴史もまとめられているの。今後この部屋は博物館として運営される予定よ。昔の学校の写真もあってね。ほら、全然違うでしょう?」
葛西に指さされた方を見ると壁には古びた写真の映像が映し出されている。どうやらこの部屋、四方がディスプレイになっているらしい。
「窓もディスプレイになってるの。こうやって窓モードに切り替えられるわよ」
葛西は扉の近くに取り付けられたコントローラーパネルを操作する。
「わあ!」
真見は目の前に広がるグラウンドを見て手を叩く。真見の反応に満足した葛西は再び窓をディスプレイモードに切り替えた。
映し出された写真には真見がよく知る古き良き学校の姿があった。大きな時計に朝礼台、白いコンクリート造りの建物だ。
「部屋を暗くするよ」
葛西のはしゃいだ声と共に教室の明かりが消える。同時に目の前に島の立体映像が浮かび上がった。真見は目を瞬かせながらも歓声を上げた。
「すごい……!」
「綺麗でしょう。これが日本の未来をけん引する島。命島の姿よ」
葛西が誇らしげな表情を浮かべる。
「命島の面積は約24平方キロメートル、東西に長い島です。地図区分では神奈川県に属します」
葛西の声色が自然と授業を行う教師に変わる。その豹変ぶりに驚きながら真見は島のホログラムを眺めた。命島が半分に線引きされた映像が浮かび上がる。
「東側のエリアはセル社の本部や社宅、学校が立ち並ぶ開発エリア。西側のエリアは元々島に住んでいた人たち、自然を保存する自然エリアに分かれています。二つの世界観に分けたのはセル社の開発方針からです。後に観光資源として活用するために極端な世界を創りだしました」
映像からそれぞれのエリアの風景が映し出される。
「そもそも命島は廃島になる予定の島でした。人口減少のためやむなく当時の村長が島を、有害物質やごみの埋め立て地にしようと話を進めました。……が島長の死によってその話は無くなり、暫くの間島は平穏を取り戻すのです。そんな滅びを待つだけの島に現れた救世主が……セル社でした」
葛西がホログラムの命島に触れると、セル社の大きなロゴが現れる。真見は目を細めて映像を眺めた。
「セル社がこの島を買収したことで命島は生まれ変わったのです。廃島から一転、日本の未来を担う島へと変貌しました!」
「日本の未来を……担う島」
胸躍るような言葉の並びに真見は目を輝かせる。
「神野さんは『スーパーアイランド計画』を知っていますか?」
授業中に指名されたかのような錯覚に囚われ、真見は思わず姿勢を正す。
「はいっ!最先端技術によって近未来都市を造り出す計画のことです」
真面目な回答に葛西は微笑みを湛えた。
「素晴らしい!完璧な答えですね。今、日本はかつてないほどの窮地に陥っています。人口減少に高齢社会。経済活動の弱体化、貧困……。それらの問題を解決すべく考案されたのがこのスーパーアイランド計画です!」
葛西のすぐ後ろにある壁にでかでかと「スーパーアイランド計画」という文字が平面に映し出される。
「ここで生まれた技術や社会システムはゆくゆく東京、日本全国へと広まっていく予定です。よって政府からも支援され、官民連携で島の開発を行っています。だから最新技術に触れることのできる神野さん……子供達はラッキーね」
そう言って葛西が一段と輝いた笑顔を見せた。
「島の子供達は日本の未来を先取りできます。世界中の誰も体験していないことを貴方達は体験することができるのです。その経験を生かして未来を創り上げる人材がこの島から輩出されるでしょう」
「未来を先取り……」
熱に浮かされたように真見は呟いた。何の取り柄のない自分が特別な何かになれた気がしたのだ。
(浮気調査だけじゃない。この島での生活で私の未来も、世界も変わるかもしれない)
未来の自分の姿を思い描き、真見の心臓は高鳴った。
「ここまでは大丈夫かな?それじゃあ次に。島での暮らしについて説明しますね」
葛西が軽く島の映像に触れると島は消えてしまう。葛西が正面の壁に触れると映像が映し出された。
「島ではあらゆるサービスを難解な手続きなしで済ませることができます。お店でもキャッシュレスが普通。顔、虹彩認証で済ませることができます。それは島民登録の際あらゆる生体認証を登録しているからです」
葛西の解説と同時に簡単なイラストが現れる。身体のあちこちから矢印が伸び、あらゆる身体の部位から情報を得ていることが分かった。
「行政手続きは全てセル社本部で済みます。最新の医療サービス、商業施設もセル社のビル周辺に集まっています。ドローン宅配サービスも展開しているので家にいながら買い物をすることもできます。勿論、元から島にあったお店や病院も利用することができます。全て支払いシステムは整っていますからね」
動画では蜂の姿をしたドローンが手に買い物袋を持って住民を訪問する様子が映し出される。
「……かわいい」
真見がほっこりしているのを見て葛西は満足げな表情を浮かべる。
「かわいいわよね。私なんて毎度夕ご飯を運んでもらってるの」
「へえ、そうなんですね」
(今度うちも頼んでみよう)
真見は島での新しい暮らしに胸躍らせた。もっと見たことのないもの見てみたいという好奇心が湧いてくる。




