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お昼のひと時



 初登校でドキドキしていた朔也さくやだが、何とか講義を3時間受け終わる事が出来てまずは一安心。タブレットの扱い方も何となく分かったし、単位も無事に取得出来た。

 同級生との第一コンタクトも、まずまず成功して良い感触で終われたと思う。友達っぽい人も出来たし、明日以降も希望が持てる初日だった。


 この『探索者支援学校』だが、土日は完全休みとなっているそうだ。敷地内のダンジョンのみ、申請すれば探索は可だけど人数制限もあるみたい。

 その辺は、入学案内のパンフレットを読み込んで覚えておかなければ。元が真面目な朔也は、新たな学園生活を精一杯頑張るつもり。


 水曜日の今日は、実技系の授業が無かったけどそれは珍しいそうだ。大抵は1時間は、運動着を着ての剣術や体育系の講義が入っているそう。

 なので運動着は必須で、どの先生に習うかは決めておいた方が良いとの事。取り敢えずは剣術を習いたい朔也としては、ちょっと楽しみではある。


 それから午後に一緒にお試し探索してみないかと言う、白夜びゃくやの誘いを泣く泣く断って。現在は運転手の棟田むねた薫子かおること3人で、ハンバーガー屋さんでの昼食中。

 何しろ、朔也はろくに服や日用品を館に持って来ていなかったのだ。下着などの着替えは新品が用意されていたけど、さすがに限界がある。


「そんな訳で、この後は朔也様の服やシューズや日用品の買い物をして、それから館に戻りましょう。しかし、お昼をこんなチェーン店で本当に良かったんですか?」

「ええ、ウチの学校……前の中学校ですね、校則って言うか寮の規制が厳しくって。こんなお店とか、今まで入った事が無かったんですよ。

 ハンバーガーも、安いのに意外と美味しいですよ」

「それは良かった、仲間の差し入れにも買って帰ろうかな……館務めだと、こんなジャンクフードも滅多に食べれないんですよね。

 朔也様の協力者も、少しずつ増やして行かないといけませんからね」


 ハンバーガーを賄賂わいろにするつもりの薫子の発言に、棟田は面白そうな顔付きに。朔也が皆さんの雇い主は新当主なんじゃと問うと、それは当然そうですとの返答が。

 ただし、今まで祖父の鷹山ようざんつかえていた執事やメイド達からすると、はいそうですかとは切り替えられない模様である。この先の畝傍ヶ原(うねびがはら)家をうれう者達は、勝手に派閥みたいなモノを作っているそうな。


 僕は百々貫(とどぬき)姓ですからと、朔也としては関係ないって逃げようとするのだが。そんな寂しい事を言わないで下さいと、棟田と薫子は本気で朔也を御輿みこしに担ぎ上げる気満々のよう。

 冗談めかしているが、祖父の遺産カードの収集に参加しているって事は資格アリって意味である。今の所は、一番人気は次男の利光としみつ叔父の子供たちらしい。

 ただし、ポッチャリ次男の春海はるみは当然除く。


 可哀想ではあるが、探索者経験があるのに素人の朔也との対人戦特訓で負けているようでは話にならない。そんな話をしながら、一行は食事を終えて近くの洋服屋へ。

 買い物もバッチリ手伝ってくれる執事やメイドの存在は、正直言うと朔也には有り難かった。何しろ彼の所持金は、探索で稼いだ数万円程度しか無いのだ。


 全額負担してくれる上に、薫子など遠慮のない意見でこれは似合うとかこれは駄目とか言ってくれる。そんな感じで、あっという間に数着の洋服を値段を気にせず購入に至った。

 それから、靴やジャージの類いも同じ感じでささっと購入。日用品の類いも、近くの百均っぽいお店で大量害を決め込む流れに。


 ここに至って、遠慮しても仕方がないと悟った朔也は、欲しい物をどんどん買い物籠へと放り込んで行く。文房具やスナック類は、幾らあっても邪魔にはならない。

 それからノームのアカシア爺さんに、お土産用のお酒の購入を薫子にそっとお願いする。さすがに未成年の朔也には、そのハードルは高いので仕方がない。


「うん、スマホのカバーも買えたしお酒とお摘まみも買ったし……学校で必要な品も、大抵は買い揃えられましたか、朔也様?

 まぁ、不足があれば明日以降の帰りにでもまた寄ればいいですもんね」

「そうですね、お世話になりました……いっぱい買い物すると、何て言うかストレス発散になって楽しいですね」


 そう言う朔也を笑う棟田は、少年の心情を思うと思わず内心で同情してしまう。確かに突然に宿舎から連れ出され、知り合いのいない館に閉じ込められたのはストレス以外の何物でもない。

 そのうえに危険なダンジョン探索を言いつけられて、毎日“夢幻のラビリンス”へと潜っているのだ。ストレスどころか、神経のすり減る経験には違いない。


 しかも朔也は、従兄弟たちの中でも最年少でめかけの子と言う弱い立場である。少しくらい肩入れしたって、批難される筋合いは無いと棟田は思う。

 隣の同僚である薫子も、まさにそう思っているのだろう。先ほどの賄賂の話など、冗談めかしているけれど半ば本気には違いない。


 それならば、自分も半分はお金を出して支援するかなと棟田は内心で考える。御輿としては頼りなさげな少年だが、何かを起こしてくれそうな予感はする。

 それはまるで、前当主の鷹山ようざんかもし出していた雰囲気にも似ていると棟田は思うのだった――




 館に戻ったのは3時過ぎで、朔也は大急ぎで探索の準備をする事に。今日の夜は対人戦特訓は無いけど、何やら家族会議が開かれるらしい。

 恐らくは、脱落した従兄弟たちに関してでしょうと、薫子は呑気な物言いである。それより今後、入り口にランキング表が張り出されるかもとの気になる情報が。


 そんな事をされたら、ますます従兄弟たちの嫉妬の矢印がこちらに向いてしまう。何しろ入り口のメンツの言葉では、朔也のカード取得率はトップクラスなのだそう。

 あまり目立ちたくはないが、祖父の遺産カードを取得している時点でそれは無理な話なのかも知れない。とは言え、まだ18枚くらいは残っている筈なので、そちらを頑張って獲得して欲しい。


 さっき買った服や何やらを軽く整頓しながら、そんな事を考える朔也である。それからこの1週間で、すっかり着慣れた探索着を着込んでカードデッキの確認。

 従兄弟たちと出会わさないよう、それだけを願いながら館の廊下を進んで行く。そして3階の執務室に到着、中を確認すると老執事の毛利もうりと、若い執事とメイドの姿のみ。


 その事実にホッとしながら、いつもの帰還の巻物とMP回復ポーション2本を購入する。その間にも、執事やメイド達の初登校への興味は止まらない様子。

 どうでしたかと、感想を求められる朔也はちょっと照れての返答。


「いやまぁ、普通に楽しかったですよ。講義は探索の為になる感じだし、明日の実技では剣術を教えて貰えるのかな?

 それから、学校所有のダンジョンも気になりますね」

「そうですな、朔也様はこの“夢幻のラビリンス”の探索任務もありますから。なかなか学業のみに専念とは、行きそうにないのは残念ですが。

 ぜひ頑張って、色んな技術を身につけて頂きたいモノです」

「それより友達は出来ましたか、朔也様? 学業も大事ですけど、やっぱり学園生活で大事なのは友好範囲の拡大でしょう!

 《カード化》スキルがあれば探索はソロでも平気でしょうが、やはり探索の基本はチームですからね。可愛い女の子がチーム員にいれば、探索意欲も上がろうってもんですよ!」


 そう言って1人興奮している若い執事の金山は、自分の事のようにワクワクしている模様。話し掛けてくれる人はいましたけどと、朔也の返事はやや引き気味である。

 女生徒も確かに多かったけど、同期はほぼ年上ばかりである。20代や30代もいたし、そう言う意味では色んな年代の友達を作れる可能性はある。


 ただし、白夜が言うように最初から派閥を引き連れて入学して来た者も一定数いるようだ。そんな人たちとは相容れないかもだが、幸い残りの人達はフレンドリーみたいである。

 何日か通えば、チームに誘ってくれる人たちも出て来る気がする。実際に、白夜も午後の敷地内ダンジョン探索に誘ってくれていたし。


 それに同行出来なかったのは残念だが、また機会もあるだろう。“夢幻のラビリンス”探索は、最悪でも夕方過ぎにも回せば良い話である。

 老執事の毛利に確認した所、この執務室は夜の8時までは開放しているとの事である。それ以降となると、毛利たちも持ち場を離れてしまって探索は不可能になるらしい。


 49日の我慢とは言え、毎日のダンジョン探索はかなりのハードスケジュールである。しかも学業との二股ともなると、若い朔也でも大変には違いない。

 その辺を心配する毛利だが、朔也としては頑張るとしか返答は出来ない。期間内は本当に頑張って、学業とカード収集を両立させるしか方法は無い訳だ。


「あまり無茶はしないで下さいね、朔也様……週末は学校も休みだし、その時にダンジョン探索はガッツリ行えば良いだけですから。

 取り敢えず平日は、デッキ整備と経験値稼ぎと割り切って下さい」

「そうさせて貰います、疲れがたまり過ぎて探索中に大チョンボなんてしたくないですから。今日も精々、4層に辿り着くかどうかって感じの予定かな。

 成果については、期待せずに待っていてください」


 そんな朔也の言葉に、グットラックと送り出してくれるいつものメンバーである。考えてみると、この人達もずっと執務室に詰めて従兄弟たちの面倒を見てる訳だ。

 ハードなお仕事には違いなく、見えないところで苦労もしているのだろう。何しろ従兄弟の大半は、我がままに育った坊ちゃん嬢ちゃんばかりみたいだし。



 そんな事を考えながら、朔也は最終チェックをこなしてゲートを潜って行く。そして周囲を確認するに、今日の“夢幻のラビリンス”は久々の丘陵エリアだった。

 ここは確か2度目だっただろうか、あまり巡り合う機会が無いのはレアなエリア扱いなのかも知れない。それとも巡り合わせの妙なのかもだが、データが少ないのは確かだ。


 つまりは注意して進まないと、変な事故が起きそうで怖い。その辺を踏まえつつ、朔也は仲間のユニットを順次召喚して行く。

 まずは斥候役のカー君に、盾役は定番のコックさんと箱入り娘を選択。昨日の事件から再召喚が可能になっており、その辺は回復が早くて助かった。


 それから遠距離攻撃役の、青トンボと人魂のソウルを召喚する。後はアタッカー役で、エンとその相棒に獅子娘さんをチョイスする事に。

 新入りカードのフェンリル(幼)だが、さすがに喋るユニットは怖くてホイホイ出せない。強いのは分かっているが、C級なのでコストも20MP掛かる。


 出すとしても、3層以降となるだろうか……朔也の所持カードにも、C級が増えて来て喜ばしい限りである。ただまぁ、MPコストに苦労する問題はいつまでも付いて回る気が。

 それでも、朔也ももう少しでレベルが2桁に達する所まで来ている。





 ――さて、今回の探索でレベル10に達するや否や?








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