探索者学校の生徒達
「まぁ、皆がフレンドリーなのは、もちろん理由がある……ぶっちゃけて言うと、ダンジョン探索はチームを組んでするモノだからさ。この学校の敷地内ダンジョンも、3名以上でないと入れない仕様なんだ。
なので、みんな単位取得のために校内ダンジョンの同行人を捜しているって寸法さ。ただし、元からチームを組んで入学して来る連中は、一般生徒を下に見てるから注意しろよ。
例えば、ほら……あの革ジャン着た連中とか」
「ああっ、いかにもな人達ですね……」
そいつ等は、パッと見で周囲を威嚇しているのかなって見た目の革ジャン集団だった。全部で4人だろうか、酷い奴だとモヒカンだったり赤髪だったりしている。
それから白夜は、次はこっちと右前方の一団をそっと指差した。彼らは、地元の大ギルド『相良会』のギルド長の息子とその取り巻きだそうで、特に同級生を格下に見てる連中だとの事。
他にも目立っているのは、30代の男女で纏まって座っている席だった。あそこは企業の会社員の集まりで、社員を探索者に育て上げるプロジェクトらしい。
それで会社に利益をって寸法らしいが、最近はそんな風潮も流行なのだとか。たった2週間先輩の白夜だが、意外に社会情勢や噂話に鼻が利くようだ。
本人は、情報収集も探索者の大事な能力の1つだと力説している。例えば前もって探索するダンジョン情報を、知っているのと知らないのでは効率は段違いなのは確かにそうかも。
感心して話を聞いていた朔也だが、そんな事をしていると講義の時間になったようだ。開始のチャイムと共に、講師の先生が講堂に入って壇上へと歩いて行く。
勾配のある机の並びのお陰で、一番後ろの席の朔也も教卓と先生の姿を見る事が出来た。ただし、白夜の説明では机に接続したタブレットから、授業の内容は入手が可能なのだそう。
それを見ながら講義を受けるのが一般的だが、データだけ取得して授業中にお喋りをする者も多いらしい。もっとも講義の妨げと判断されたら、容赦なく講堂を追い出されて単位を貰えない事もあるそうな。
それを分かっているので、大抵の生徒は大人しく講義を最後まで受けるのだとか。何しろ教師役は、少なくともB~C級の元探索者が担っているのだ。
そんな人物に実力行使など、命が幾つあっても足りやしない。
最悪なのは停学や退学になってしまって、払い込んだ授業料がパーになってしまう恐れがある事だ。そうなると、せっかく入学したのに何をしてるのって感じである。
そんな訳で、今の所は授業の妨害などは発生していないとの話。朔也も安心して、リアルタイムで教師の授業の言葉を耳にする事に。
「ええっ、今回の講座は『広域ダンジョン』について話して行きたいと思います。ダンジョンは幾つかの種類に分類されるのは、先の講座で話しましたね。忘れた方は、動画の方で再チェックをお願いします。
さて、広域ダンジョンの定義ですが……字面の通り、探索に時間が掛かる広いエリアを有するダンジョンを評してそう呼びます。
大抵はフィールド型で、攻略にバイクや乗り物を使うチームも存在します」
ダンジョンにバイクや乗り物を持ち込むとは、朔也は全く考えもつかなかった。確かに禁止はされていないし、長距離移動には有効かも知れない。
《カード化》スキルを有する朔也の場合だと、召喚ユニットで騎乗タイプとかいればクリア出来る気がする。例えばカーゴ蜘蛛とか、乗って移動も可能ではある。
後は馬型のモンスターとか、何かしらありそうだ。教卓ではなおも中年の男性講師が、広域ダンジョンの苦労について語っている。
自身も恐らく体験したのだろう、何日も掛けて間引きする苦労とか力が籠っていた。後はレイド作戦で、数チームが協力して探索したりもするそう。
多い場合だと、10チーム以上で10層以上を1日掛かりで間引きするそうだ。そう思うと、“ワンマンアーミー”と呼ばれた祖父の偉大さも少しは垣間見えて来る気もする。
恐らく祖父だと、広域ダンジョンの間引きも1人でこなせたりしたのではなかろうか。間引きの大事さは、探索者でない朔也もちゃんと理解している。
講師の先生は赤松と言うそうで、現役時代は斥候役だったそうだ。そんな情報も、朔也の弄っているタブレットには表示されていて面白い。
確かにどことなく、隙の無い佇まいは一流の証なのかも知れない。もっともそれは、ここにいるまだ何物でもない生徒達との比較ではあるけれど。
そんな赤松先生の話は、いつの間にか広域ダンジョンの説明に移っていた。具体的な近隣地域の広域ダンジョンの名前も、幾つか出て来て興味を惹かれる。
ちなみに、広域ダンジョンは高ランクが多いそうなので、初心者にはお勧め出来ないとの事である。迷子にでもなったら遭難の恐れも出て来るので、斥候役は必須だとも。
そこから話は少々脱線して、チームに置ける斥候役の有難味になって行った。赤松先生も、現役時代は色々と苦労したのだろう……そんな話が聞けるのも、探索者学校の良さには違いない。
そんな感じで、あっと言う間の1時間の講義は終了を迎えてしまった。朔也的には面白かったけど、他の生徒達にしても満足そうな雰囲気が漂って来ている。
やはり他の学校と違って、学ぶ意欲は格段に高いのだろうか。探索者活動において、情報のある無しで自分の生死が左右される事態だってあるのだ。
講堂を去って行く先生を見ながら、そんな事を考える朔也である。
「どうだった、最初の授業は……意外と1時間なんて、あっという間だろ? 普通科の学校と違って、ここで得た情報は探索者活動に直接関わって来るものばかりだからな。
生徒達も、身に染み込ませる熱量も違って来るのは当然だよな」
「そうだね……面白かったと思うし、元探索者の先生の話とか為になったかな? 先生の数も多いのかな、沢井君?」
向こうは名前で呼んでいいと言って来たので、朔也も下の名前呼びをお互いしようと言う事に。さっそくの友達に浮かれていると、ちらほら周囲に人が集まって来た。
どうやら白夜の言う通りに、ここの生徒は大半がフレンドリーらしい。或いはチーム員として査定されていると思うと、ちょっと気が引き締まる朔也である。
それから定番の質問が幾つか、一番多いのは何で2週間遅れでの入学なのかと言う疑問だった。それから、探索経験やらスキルを既に所有しているのかと言う問い。
生徒の中には、若干だが既にスキル持ちの探索者見習いも存在するそうだ。そんな連中は稀ではあるそうで、この学校に入学して初めてダンジョンに入る者が過半数との事。
年齢的にもそれは当然だろうし、別にスタートラインが同じなら気にする事は何も無い。ところが、入学前にスキル書を使用してスキルを取得する、金持ちやエリート連中がいるそうなのだ。
不公平だとは言わないが、スキル書も1冊20万以上するし一般の人には簡単に手は出せない。ダンジョン探索にしても、慣れた者と一緒にしたいってのが生徒たちの本音なのだろう。
「それで、百々貫君は探索経験はあるんだって? ひょっとして、スキルも何か持っているとか……うわっ、実は有名な家のご子息ってパターンっ!?」
「それならあそこにもいるよ、南原家のご子息が……ダンジョン波乱期の英雄の系譜の1人だね、今は協会の理事長に就任していてそのお孫さんかな?
ここの生徒の中じゃ、とびっきりのビップの1人だね」
「この期はそう言う意味じゃ、凄い人物は多いよね……確か畝傍ヶ原家のお孫さんと、それから二宮家のお孫さんもいたんじゃなかったっけ?」
畝傍ヶ原家の名前が出て、朔也は思わずドキッと胸を高鳴らせてしまった。ただし、よく聞くとそれは華恋叔母の三女の烈歌の事らしい。
ここでも天才少女と噂されており、新時代の超新星とか生徒の間では話題になっているようだ。それだけの期待の新人が、同じ期に揃うのはかなり珍しいとの事。
確かに畝傍ヶ原家だけでなく、南原家と二宮家の孫が勢揃いするとは凄い偶然である。或いは何かの必然かも、朔也には分からないけど。
そんな事を話している内に、2時限目の始まる時間になってしまった。10分休憩はいかにも短い気はするけど、使われる施設はほぼ1か所に集中しているみたいだ。
朔也も確認した所、次の講座もこの講堂で大丈夫らしい。ただし、別の場所に移動した生徒達も何割かいて、講堂内の密度はさっきより若干薄まっている。
今回の教師役は、30代の女性で名前を峰岸と言うそうだ。この先生も元探索者で、現役時代はバリバリの前衛職だとの解説が書かれてあった。
意外に思いつつ、接続したタブレットから講座内容をダウンロードする。今回は『チーム編成の大切さ』と言う内容で、探索者の役割やその重要性を語るみたい。
白夜も先程と同じ席についており、一応真面目に講座を受ける格好をしている。朔也も同じく、単位を稼いで真面目に最短で卒業をしないと。
何しろ、ここの授業料を払っているのは恐らく新当主の盛光である。余計な負担をかけて、それを弱みに握られるのは勘弁願いたい。
向こうは大金持ちなので、そんな事など屁でも無いとは思うのだが。朔也としては、なるべく借りは作りたくはないってのが正直な心情。
「……前衛はもちろん大切です、敵をブロックして近接戦闘の苦手な後衛陣を守ったり、直接攻撃で敵の数を減らすのが主な役目ですね。
そのために装備はガッチリ着込む者が多く、移動速度は余り早くないのが難点です。とは言え、革装備では強力な敵と接近戦は心許ない。
この辺は、実際に敵を目の前にするとハッキリ分かると思います」
確かにそうだ、朔也も“高ランクダンジョン”で初めてミノタウロスを見た時は肝が思い切り冷えた。革装備などで、奴の持つ大斧の攻撃はとても防げるモノではない。
各所で同意の声や頷きが起きており、どうやら前衛職は総じて思いは一緒みたい。頑丈な鎧は頼りになるけど、それは重くて移動速度はどうしても犠牲になる。
斥候役は逆に、チーム内では戦闘の補助役で重い鎧は不要である。その代わり素早い動きで、罠の感知や敵の接近に神経を張り続ける技術が必要になって来る。
時には単独行動で、チームに先行して安全の確保などをする必要も出て来る。全く華やかな職では無いけど、チームの縁の下の力持ちとして必要な人材だとの説明である。
これには隣に座る白夜も、大きく頷いて同意の素振り。ちなみに前衛や斥候職のスキル書は、確率的に結構出やすいそうである。
逆に後衛職は、意外と数も少なく貴重な存在なのだそう。特に魔術師系やら回復系は、スキル自体が稀少でそれを覚える人の数も少ないのが現状みたい。
なので後衛職と一括りに言っても、ボウガンや弓を装備したり、単なる荷物持ちで探索に同行する者も多いそう。それでもチームとして機能すれば問題は無いのだが、なかなかバランスの良いチーム作りは大変みたいだ。
そうなんだと他人事の朔也は、自分の召喚ユニットのチーム編成に思いを馳せていた。MPコスト内で、ある程度は自在に編成可能な朔也は恵まれているのかも。
ただまぁ、そんな探索者はこの中にもほぼいないだろう。
――そんな事を考えている内に、2限目の講座も終わりを迎えていた。




