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探索者学校初日



 弁護士の吉井さんに相談したところ、前の中学校の転入手続きはこなしてくれるそう。何と言うか、畝傍ヶ原(うねびがはら)家のパワーは社会的にも半端無いようだ。

 朔也さくやが今日から通えと言われた『探索者学校』だが、正確な名前は長過ぎて誰も興味がないそうな。要するに、ごく短期間で探索者のノウハウを生徒に教えてくれる機関らしい。


 短期間と言うのは、およそ4ヶ月のよう……つまりは、学校と言うより教習所って感覚が近いのかも。実技と学科で単位を取って、それを満たせば晴れて卒業との事。

 学科については、まぁ講師の話を聞けば良いので単位の取得は簡単である。ただし、実技は剣や槍などの使い方を学ぶので単位の取得は大変かもとの事。


 そんな事を、朔也は現在送迎の車の後部座席で聞いていた。説明をしているのは運転手の棟田むねたと言う若い執事で、後部座席には薫子かおるこも座っている。

 ちなみにこの車は、当然ながら畝傍ヶ原(うねびがはら)家の所有である。


「学校は既に今季が始まって2週間が過ぎてますので、取れない単位も存在します。なので朔也様は、2期に渡って在籍して頂く感じになるかと思われます。

 この探索者学校を設立した笠森かさもり家も、ダンジョン創成期の成り上がり探索者ですね。ちなみに畝傍ヶ原(うねびがはら)家も、この学校には結構な出資をしております。

 そんな訳で、多少のコネは利く感じですね」

「実技では剣術も学べるそうで、朔也様的にも良かった感じなのではないでしょうか。とは言え、ここは年齢制限が無いので生徒の年齢がバラバラなんですよね。

 平均は高校生くらいですが、明らかな成人も在籍しています。朔也様は恐らく、最年少の部類に入るので舐められない様になさってくださいね?」


 そんな事を言われても、年齢の詐称さしょうは難しいしどうしたモノだろう。いじめられたら教えてくださいと、運転席の棟田むねたはフレンドリーである。

 その点は嬉しいが、お付きの保護者に泣きつくのも世間的にはどうかと思う次第の朔也である。ちなみに棟田は探索B級ランク持ちのかなりの強者らしい。


 バリバリの前衛で、スキルも複数所有していると今朝の紹介の時に聞き及んでいる。若いと言っても20代の中ほどで、朔也よりは一回り年上である。

 これで朔也の館内の味方は、薫子と合わせて2人になった計算だ。もっとも、それは棟田が叔父か誰かの回し者でないと仮定しての話だけれど。


 最初の印象としては、話好きで明るい好青年って感じだがどうだろう。無口で感情を秘めるタイプの薫子とは、正反対なのがちょっと面白い。

 それはともかく、その後は笠森かさもり家と探索者学校の話がしばらく続いた。今や全国の主要な都市には、必ず設立されていてその実績も素晴らしいとの話。


「協会を設立した南原みなみはら家や、西日本のエネルギーを一手に担う二宮にのみや家の話は聞き及びですか、朔也様? この両家には1歩劣りますが、初心探索者の死亡率を下げた貢献度は大いに評価出来ますね。

 もちろん畝傍ヶ原(うねびがはら)家も、祖父の鷹山ようざん様の活躍を含めて世間の評価は高い訳ですが。新時代の探索者活動期に、朔也様の名前も広まると素晴らしいですね!」

「なるほど、それは確かに素晴らしい……ダンジョンの数も、鷹山ようざん様が活躍していた初期時代から確実に増えてますからね。

 オーバーフロー騒動は、現役の探索者の活躍で何とか抑えられてはいますけど。探索者の死亡率は相変わらず高いですし、探索者学校に通うと言う新当主の判断は良い案かと。

 朔也様、新しい学校で大いに学んで友達もたくさん作って下さいね!」

「はぁ、まぁ頑張ります……」


 歯切れの悪い返答をする朔也だが、この急展開に思考が追い付いていないのが主な原因だろうか。何しろ、昨日の夜に新当主に言い渡されて、今朝の初登校である。

 確かにお付きの執事はつけて貰え、しかも送迎までこなしてくれるとは至れり尽くせりである。祖父の館から15分の距離に、この町の『探索者学校』があるのは偶然では無いのかも。


 何しろ設立の際に、畝傍ヶ原(うねびがはら)家から相当な出資をしたらしい。祖父の次男の利光としみつ叔父の子供たちも、皆がこの学校の卒業者だとの事。

 とにかく4ヶ月ほど通えば、卒業生には探索者ランクが与えられるそうだ。ダンジョン探索の知識も身につくし、独学で教本を読むよりはずっとマシではある。


 そう考え直すと、確かに喜ばしい変化なのかも知れない。剣術を学べるのも良い点だし、ずっと従兄弟たちに囲まれる生活からも抜け出せる。

 ただし、午後からは館へと戻って“夢幻のラビリンス”探索を行うのはマストらしい。祖父の遺言である、49日間の遺産カード収集は続行して続けるようにとのお達しである。


 かなりキツいスケジュールになってしまうが、その点は仕方がない。“訓練ダンジョン”に通う時間が作れれば良いのだが、毎日は難しくなってしまうかも。

 そんな事を考えていると、送迎車の窓から大きな建物が見えて来た。これから朔也が通う、この都市唯一の探索者学校はかなり大規模な施設となっているようだ。


 何しろ、その敷地内には祖父の館と同じく、幾つかのダンジョンを抱えているとの話である。それを生徒たちに開放して、演習場代わりに使用しているのだとか。

 学校の生徒しか入れないダンジョンとは、これまた興味深い感じはする。


 朔也が眺めている間に、棟田の運転する車は学校の敷地内へと入って行った。恐らく裏門なのだろう、割と広い駐車場にはそれなりの台数の車が止まっていた。

 中には高級車もあるようで、それなりの地位の先生や生徒がいるのだと推測出来る。もちろん、朔也はそのつもりはないけど畝傍ヶ原(うねびがはら)家もそれに属するのだろう。


 朔也が車を降りると、薫子も一緒に降りてお昼に迎えに参りますと口にした。前もって渡された携帯電話で知らせて貰えば、この駐車場でなくても迎えに行くとの事である。

 そんな話をしていると、学校の関係者がこちらへ近付いて来た。明らかに朔也を待っていたようで、講堂まで案内してくれるそう。


「初めまして、この学校の管理を仰せつかっている辻堂つじどうと申します。百々貫(とどぬき)様は中途入学となりますので、色々と大変でしょうがサポートは致しますので安心して下さい。

 授業をサボらず出席して頂ければ、4ヶ月程での卒業は見込めますので頑張って下さいね。まぁ、生徒によってはこの学校の施設を使うために、わざと卒業しない者もいますけど。

 それからチーム員の募集にも便利なので、毎期ごとにそう言う人は何名か出て来ちゃいますね」

「は、はぁ……真面目に頑張りますので、よろしくお願いします」


 辻堂と名乗った女性は、40代程の落ち着いた感じの雰囲気の人だった。教師でも事務員でも無いらしいが、この学校には詳しいとの説明である。

 朔也は執事とメイドに見送られて、大きな校舎の方向へと向かって行く。先導する辻堂女史は、建物の説明をしながら大きな建物に向かっていた。


 この『探索者学校』は年齢制限も曖昧な関係上、学校指定の制服は無いらしい。朔也は今回、前の学校のブレザーを着てすっかり学生気分である。

 前の中学では、寮生活で友達もいたしお世話になったけど、突然のお別れに悲しい気持ちも湧いてくる。寮は携帯電話が禁止だったので、今となっては連絡の手段も無い有り様である。


 その辺も弁護士の吉井さんに頼んでおいたけど、果たして上手く伝えてくれるかどうか。人任せなのはいかにも頼りないが、こればかりは仕方がない。

 朔也もいきなり多忙になって、午前中はこの探索者学校に、午後は“夢幻のラビリンス”探索とスケジュールが詰め込まれている。しかも休日も無く、49日はフル稼働との事らしい。


 ライバルの従兄弟たちに関しては、どんなスケジュールで1日を過ごしているのか定かではない。それでもここは人生の踏ん張りどころと、努力している者もいるのだろう。

 腹違いの兄の朱羅しゅらなど、恐らくはまさにそうなのだろう。気持ちは分からなくもないけど、朔也は権力者の跡取りの座など欲しくも何ともない。


 ただまぁ、棚ぼたで得た《カード化》の能力は、この後の人生でも所持しておきたいかも。昨日知り得た新事実なのだが、このスキルは祖父の死で称号:『能力の系譜』と共に、血脈を継ぐ者達に生えて来たらしい。

 それも49日の期限付きで、能力に足りない者はスキルと称号を消失してしまうとの事。具体的には、その資格とは“夢幻のラビリンス”内に散らばった祖父の遺産カードの収集である。


 それは確かに、朔也の2枚連続ゲットに従兄弟たちが色めき立つ気持ちも分かる。朔也的には良い迷惑だが、運以上に努力しての結果なのでそれを横取りは腹が立つ。

 ましてや光洋みつひろのように、殺してまで奪い取ろうなどもっての外だ。新当主は手を打ってくれたと言うけど、正直言うと監禁は甘過ぎる処置ではなかろうか。


 クズとは言え、自分の息子なので仕方がないってのはあるのかも知れない。ただ、今後もそんな奴らが出て来る時に、身を守る手段は備えておきたいってのが正直な朔也の気持ちである。

 そう言う意味では、この『探索者学校』の入学は嬉しい処遇には違いない。将来の職を探索者として決定するのは、まだちょっと考えあぐねているとは言え。

 お金を稼ぐ手段としては、正直悪くないと思えるこの10日間であった。


「さあ着きました、ここが第1限目の行われる講堂です、百々貫(とどぬき)様。テキストと一緒に渡したタブレット内に、1期で取得すべき学科と実技、それから演習の単位数が記されています。

 講義は午前中に、最大3つ取る事が可能ですね。それぞれ8時40分から、9時50分から、それから11時から12時までの1時間講義です。

 午後は1時から7時まで、学校の演習場と敷地内ダンジョンを開放しています。こちらも詳しくは、テキストとタブレット内の案内を後で読んでおいてください」

「分かりました、えっと……出席の確定はどうすれば?」


 先生が出欠席の確認を取るには、生徒数が意外に多くて驚きの朔也である。講堂内には軽く50人以上が、それぞれの席に座ってお喋りしたり講義が始まるのを待っていた。

 ざっと見た限り、確かに高校生くらいの年代の者が圧倒的に多い。ただし、それより明らかに年上の者も、少数だけど存在している模様。


 いかにも荒くれ者って風貌の者も多いが、学者然とした人もいて面白い。男女比に関しては、やはり男性がやや多くて6割かそれ以上だろうか。

 ちなみに、出欠席に関してはタブレットを机のデバイスに接続すれば良いらしい。それを教えてくれたのは、出入り口の近くに座っていた若い男の子だった。


 ラフな格好で、髪を茶色に染めてちょっとヤンキーっぽい感じである。隣の席を勧められて、転入生なのかとさっそく確認されてしまった。

 それだけ浮いているのかなと、ちょっと心配になる朔也なのだが。向こうは単に、親切心と好奇心を満たしたいだけの模様で他意はないらしい。


「俺は沢井さわい白夜びゃくやって名前で前衛の16歳、制服でこの学校に来るって珍しいな。しかも2週間たって転入して来るって、ちょっとした訳アリか何かかい?

 まぁ、深く詮索はしないけど……そっちの名前と、探索データを訊いていいかい?」

「あっ、はい……百々貫(とどぬき)朔也(さくや)で14歳です。探索歴はまだほんの少しで、一応は前衛を志望してこの学校に入学しました。

 若輩じゃくはい者ですが、よろしくお願いします」


 お互いの挨拶を見た辻堂女史は、後は彼に面倒を見て貰ってねと去って行ってしまった。それを眺めていた百夜びゃくやが、突然にお前良い所のお坊ちゃんだろうと尋ねて来る。

 なるほど、確かに送迎車付きで学校に来ている時点で朔也はそうなのかも知れない。ただし、今の時点ではただのめかけの子と言う立場でしか無いのも事実。


 答えあぐねていると、白夜はニカッと笑って安心しろと呟いて来た。この学校は、意外と訳アリだったり名家だったり、逆に半グレ集団が集う場所なのだそう。

 基本的にみんなフレンドリーだが、近付かない方が良い連中がいるのも確かみたい。その辺を教えてやるよと、白夜は俺がいて良かったろと言うゼスチャー。

 どうやら朔也を年下で良家の坊ちゃんと見抜き、親切にしようと思ったのかも。





 ――良く分からないが、どうやら友達一号が出来たようで何より。







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