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光洋との死闘



 その探索チームの主は、間違いなく新当主の長男の光洋みつひろに間違いなかった。初日にいきなり朔也さくやを襲撃して、カードを盗って行った盗人野郎である。

 その後に対人戦特訓でやり返してやったけど、その事を根に持っていそう。その相手のチームだが、前衛は2メートル半級の巨大な肌の青いオーガがになっていた。


 光洋みつひろは後衛らしく、その隣には何とバズーカ砲を所持しているパペット兵が。もう1体は、恐らく魔術師らしいエルフ娘が控えている。

 どいつもC級ランクの実力があるとしたら、ちょっと厄介かも知れない。あの傲慢ごうまんな従兄弟も、あの負けから何かを学び取ったのだろうか。


「取り敢えず、分かってないようだから言っといてやる……お前にこのレースに参加する資格はねぇ、それに気付かずにいい気になりやがって!

 そうだな、お前は今からここで俺の養分になって貰おうか。モンスターと一緒だ、ダンジョンの中の事なんて誰も分からないからな!」

「自分勝手な人だな……それってただの選民思考ですよ、自分の後ろ盾を頼りに威張ってるだけの、あなたはただの思い上がった愚か者です。

 その証拠に、レベル上げもカード収集も上手く行ってないんじゃないですか?」


 朔也が反論するとは思っていなかったのだろう、虚を突かれた感じの表情はちょっと間抜けに見える。そして次に向こうに訪れたのは、大いなる怒りの感情だった。

 光洋みつひろの怒りは、恐らく8割は現状を言い当てられたそれに起因していたのだろう。そしてそれは、即座に暴力へと直結して行った。


 探索着の懐から光洋が取り出したのは、何と黒光りする拳銃だった。一体どこから仕入れたのか、これだから金満一族は始末に負えない。

 もちろんモンスター相手に、拳銃は大した役には立たない……それならスキルを覚えるとか、魔法を取得した方が幾らか戦力にはなってくれる。


 ただし、対人と仮定すると拳銃もそれなりの切り札にはなってくれそうだ。威圧と言う面でも、銃口を向けられただけで怖いし、レベルアップした肉体でも耐えられるかは不明と来ている。

 朔也も思わずビビって、パペット兵達に防御を言い渡してその影へと隠れる素振り。あんなのに撃たれたら、怪我どころの騒ぎじゃ済まなくなってしまう。


 そんな光洋は、怒りに任せて召喚ユニット達に叫ぶように攻撃を言い渡した。そして始まる泥沼の争い、敵のパペット兵のバズーカ砲が近くに着弾する。

 それに気を取られていたら、意外と近くに敵のオーガ兵が近付いて来ていた。振り下ろされる大剣の一撃を、何とか盾でガードするコックさんと箱入り娘。


 赤髪ゴブが、自分の3倍以上の体重のオーガ兵に突っ掛かって行く。その勇気は褒められるけど、太い足での蹴りを喰らって呆気なく吹き飛ばされてしまった。

 さすが推定C級、そしてエルフが見舞う魔法も降りかかって来る。この頃には、自陣はボロボロで朔也も少なくない怪我を負う破目に。


 敵エルフの風の刃は、青トンボや盾役のパペット兵にも少なくないダメージを与えていた。お姫は慌てて退去しており、被害の程は無かったようだ。

 前衛で暴れまくる敵のオーガだが、エンがようやく回り込んで敵の効き手を深く傷つけてくれた。咆哮をあげて武器を取り落とす大鬼と、それを巻き込むように放たれる砲弾。


 向こうは味方が巻き込まれるとか、そう言う容赦は全く無いようだ。光洋も銃弾を放っており、その射撃音は精神的にも朔也に恐怖を与えて来る。

 その時、再びエルフの魔法が放たれて朔也の陣営に多大な被害が。赤髪ゴブと青トンボが、この攻撃により無残にも送還されてしまったようだ。


 盾役パペット2体も既にボロボロで、その代わり敵の唯一の先鋭のオーガ兵も、同じく戦場を去って行った。途端にスッキリ見通しが良くなり、高笑いの光洋は正気を手放したかの形相である。

 この時点で、朔也は逃走を決意して逃げの態勢に。こんな目に遭ったとしても、人殺しなんて真っ平である。そんな訳で、エンとパペット兵2体を送還して装甲クモを呼び出す。


 彼の防御力なら、拳銃程度のダメージは何ともない筈。その身体の上にくっ付いてる籠に乗り込んで、カー君とソウルをお供に朔也は逃走モードへと移行する。

 もちろんお姫も一緒で、彼女は時間稼ぎにと魔玉(闇)を数個ばら撒いてくれていた。これはダメージと共に、周囲に暗闇効果をもたらして撤退時にはとっても便利。


「誰が逃がすかよ、クソっ垂れなめかけの子めっ! 俺が直々に息の根を止めてやるっ、怯えながら覚悟しておけっ!

 狼どもっ、奴を追えっ……決して逃がすなよっ!」


 怒声が追いかけて来て、その頃には朔也も段々と腹が立って来た。と言うか、追っ手が掛かって帰還の巻物でも使わないと逃げ切れそうもない。

 この事実を持ち帰って、老執事の毛利や新当主に判断を仰ぐのはどうたろうか? 光洋は酷く叱られるかも知れないが、そうならない可能性もある。


 何しろ新当主の盛光もりみつは光洋の父親である……妾の子の朔也の言葉など、揉み消してしまう可能性は大いにありそう。今回からスマホカメラを使っていて、確実な証拠が手元にあったとしてもだ。

 そう考えると、本当に手詰まりでどうしたら良いモノか。もちろん反撃と言う手もある、朔也も今や手元にC級のカードを何枚か所持しているのだ。


「どうしようか、お姫さん……このまま逃げるべきかな、それとも反撃して奴をやっつけるべき? 勝とうと思えば、何とか勝てるとは思うけど」


 お姫はかなり頭に来ており、ヤッちゃえと反撃の指示に1票を投じて来た。とは言え、こちらも大事なユニットを無闇に危険にさらしたくないし、さてどうしよう?

 装甲クモに乗って逃走しながら、カードのストックを見て朔也が悩んでいると。お姫がそこの分かれ道に逃げ込めと、何か秘策があるような指示出し。


 背後を見れば、脚の速い狼系のモンスターが2匹もう追いつきそう。咄嗟に殺戮カマキリと死神クモを召喚して、そいつ等を返り討ちにしてやる。

 そしてお姫が指し示すカードを見て、朔也も彼女の作戦を理解した。なるほど、これならこちらも待ち伏せてさえいれば、余計な戦闘はせずに済むかも。


 ちなみに、追跡して来た狼は強くは無かったようで瞬殺には成功した。そしてお姫の計略に従って、脇道に【宝物庫(偽)】を設置してみる。

 初めて使うユニットだが、なかなか立派で思わず中を覗きたくなりそう。


 ただし、洞窟に設置は少々無理があって、何となく浮いた感じは否めない。それでも強欲な奴は、思わず中に入り込みたくなりそうではある。

 何しろパッと見た感じ、宝箱や豪華な装備品の並びはとても偽物には見えなかった。思わず感心する朔也だが、それより自分は隠れておかないと。


 お姫が宝物庫の天井を指差して、ここに隠れる場所があるよと教えてくれた。どうやら召喚主より、この偽物の宝物庫の構造を良く知っている模様。

 朔也が入って確かめてみると、なるほど壁にさり気なく隠された階段状の突起と、それから開くようになっている天井の仕掛けが。死神クモと殺戮カマキリは洞窟の窪みに隠れて貰って、朔也は天井に潜む事に。


 最悪、ここが万一偽物だとバレても、死神クモと殺戮カマキリで背後から奇襲は出来そう。そう思って安心していると、逃げてきた方向から光洋チームの気配が。

 追跡の狼達が倒されたのを知って、新たにリザードマン兵を2体ほど召喚して護衛役をさせている。それ以外は、厄介なバズーカ砲持ちパペット兵と魔術師エルフはいまだ健在の模様。


 あのバズーカ砲でいきなり攻撃されたら嫌だなと、朔也は天井から通路をコッソリ盗み見る。向こうは暗い洞窟を灯りをともして進んでいるので、位置に関しては丸見えである。

 これなら逆に、こちらから狙い撃ちすら可能そう……向こうは狩る側の認識なので、奇襲を受けたら一発で狩れそうだ。

 とは言え、やっぱり息の根を止めるのは抵抗がある。


 そんな朔也の葛藤を知らずに、光洋は呑気にこちらの罠を発見してくれた。最初は怪しんでいた新当主の息子だったが、ダンジョンに宝箱があるのはある意味当然ではある。

 向こうもそう思ったのだろう、後衛のパペット兵と魔術師エルフを置いて、ウキウキした表情で宝物庫(偽)の中へと入って来てくれた。お供のリザードマン兵2体も同行して、ここまでは一応予定通り。


 と言うか、お姫の待ち伏せ計画はかなり辛辣で容赦のないモノだった。宝物庫(偽)の特性として、獲物が中に入ったら閉じ込めてミミックが襲い掛かると言う仕掛けがある。

 お姫はそれに加えて、天井から【悪臭カメムシ】か【踊る大鍋(中)】を投入しろと言って来た。容赦がないなと思う朔也だが、拳銃の銃口を向けられた恨みはやはり大きい。


 そんな訳で、慌てている光洋陣営へ天井の上から新たな刺客を送り込む朔也である。選択したのは悪臭カメムシで、E級ランクなのに攻撃力はD級の強烈な奴である。

 朔也も召喚するは初めてで、その猛威は天井から覗いていてもハッキリ確認出来た。黄色い放屁が拡がるのを見て、朔也はすかさず覗き穴の蓋を締める。


 酷い騒乱は、蓋を閉めてもハッキリと伝わって来た。ついでにと、入り口で指令待ちの光洋のユニット2体も、待ち伏せしていた死神クモと殺戮カマキリに始末を命じる。

 その戦闘は、本当にあっさりと終わってしまって先ほどの死闘は何だったのって感じ。やはり召喚モンスターは、指示がないとこんなにもろいと言う証拠だろう。


 パペット兵とエルフの始末が片付いて間もなく、騒がしかった宝物庫内の喧騒も治まってくれた。そして消滅して行く宝物庫(偽)は、任務を果たした成果だろう。

 ところが、そこに倒れている筈の光洋の姿が見えずに、慌てて周囲を見回す朔也。ダンジョンは死体でも何でも吸収する特性はあるけど、これはさすがに早過ぎる。


 どうやら、使用者が意識を失うと入り口まで自動に送還するアイテムか何か持っていたようだ。老執事の毛利に安全の為と勧められた記憶があるけど、100万円以上したので朔也は購入には至らなかったのだ。

 なるほど、当主の息子ならその手の対策をしていて当然かも。こちらは毎回、5千円も掛けて帰還の巻物を買っていると言うのに。

 でもまぁ、倒れないと発動しないのなら本当に保険的なアイテムみたいだ。



 こうして何とか襲撃者の撃退は出来たけど、本当に何の見返りも無かった。こちらは怖い思いをして、MPを大量に消費しただけと言う有り様である。

 嫌な奴に目をつけられて、朔也はくたびれ儲けの自身を振り返る。何でこんな思いをしてまで、ダンジョン探索を強いられなければならないのか不思議で仕方ない。


 今回の結果次第では、元の生活に戻らせて貰うよう直訴も大いにあり得る。それが叶うかはまた別の話だけれど、こっちだって命は1つしかないのだ。

 なのに身内(?)にまで命を狙われて、めかけの子だとさげすまれてまでこんな場所にいたくなどない。そんな事を考えていると、いつの間にかゲートの前まで来ていた。


 習慣とは恐ろしいモノで、どうやら朔也は考え事をしながら“洞窟エリア”の探索を進めていたようだ。布陣はお姫にカー君にソウル、そして前衛は死神クモと殺戮カマキリと、一応バランスは取れている。

 それにしても、敵と遭遇しなかったから良いモノの、少し不注意ではあった。まぁ、この2トップなら2層の敵くらいは平気で片付けてくれる筈。


 それより、こんな様になってこれ以上探索を進めるべきだろうか。まぁ、今戻って光洋の事態を尋ねられるよりは、ここの方が落ち着くのは確かではある。

 そんな訳で、朔也は3層へのゲートを潜って先に進む事に。





 ――そして出た先だが、何故か霧に囲まれた深い森の中だった。







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