婚約破棄された令嬢は身近な溺愛に包まれる
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「エリザベス! お前との婚約はただいまを以て破棄とする! 貴様のような何を考えているか分からない無表情女など、願い下げだ!」
このグラストン王国の第一王子アークロイドは婚約者であるエリザベス ロイシュタイン公爵令嬢に対し婚約破棄を宣言した。
王子のその腕には、庇護欲をそそる可愛らしいピンクブロンドの男爵令嬢がぶら下がっていた。
本日はグラストン王立学園高等科の卒業パーティが、この学園内の大広間でとり行われている。アークロイド王子は本日卒業を迎え、その婚約者であった一つ年下のエリザベスはあと一年学園に在籍することとなる。
エリザベスは、王子の言葉に顔色一つ変えるでもなく王子と彼の腕にぶら下がる見知らぬ令嬢を見つめている。
やがて王子の話の区切りがついたとみて、彼等に対して美しいカーテシーを見せこう切り出した。
「ただいまのお話、承知いたしました。王子殿下のお幸せを心より願っております」
そう言い終わると、これまでの無表情が嘘のように見る者を魅了せずにはいられない美しい笑顔を浮かべた。
思わず王子が息を呑む。
(ああ、これで私は自由だわ! 素の表情を見せても行儀作法の教師に叱られないし、特定の友人を作ってはいけないと言われていたけれど、ロマンス小説や舞台を観て感想を話あう仲間を作ってもいいのよね。放課後は、噂のステキカフェで新作甘味を味わえるのね。そして私が考案した便利道具が実現可能かどうか魔術研究科の先生に聞いてみても咎められないのよね。あーサイコーだわこれからの学園生活!)
エリザベスは、麗しい笑顔を惜しげもなく披露しながら、傍観していたクラスメイトの一人に近づく。
「クラリス様、よろしければ私とお友達になってくださらない? 先日発売されたローザリン先生の新刊について語り合いませんこと?」
クラリスの目が瞬時にして輝く。
エリザベスは、クラリスが休み時間に本を読んでいるのを見て、ずっと語らいたいと思っていたのだ。
「エリザベス様もお読みになりましたの? ええ、ええもちろんですわ。私がエリザベス様の友人とは大それたことですけれど、ローザリン先生の物語を語り合えるなんて・・・今度の先生原作の舞台もぜひご一緒したいですわ!」
「ええ、もちろん。ぜひご一緒しましょう。楽しみですわね」
クラリスは女神に祈るかのごとく指を組み、エリザベスをキラキラした瞳で見つめた。
エリザベスは、その場から少し離れた所にいる三人の令嬢にも声をかける。
「スザンヌ様、エルザ様、マリー様、先日貴女方が行かれたというカフェの期間限定スイーツについてお伺いしても?」
呼ばれた令嬢達は、きゃーっと歓喜の悲鳴をあげエリザベスに近づき興奮しながら話し出す。
エリザベスは、今まで話してみたくても立場上叶わなかった人達に次々と話しかけた。今まで学園で見たこともないような生き生きとした表情で。
それを見ていたアークロイド王子は憤慨した。
「何事だ! エリザベス! 今まで笑ったことなどなかったくせに!」
王子が叫んだ。
その叫び声に、傍のピンクブロンドの男爵令嬢は耳を塞いだ。
エリザベスは王子を振り返り理由を述べた。
「それは、王子妃教育で表情の変化を人前で見せることを禁じられていたからです。
口を開いて笑みを見せるなどもってのほかでしたわ。
特定のお友達を作ることも王子殿下の婚約者となった時から許されませんでした。
王子殿下の婚約者として相応しくあるよう行動制限もありましたからオシャレなカフェにスイーツを食べに行くこともできませんでした。
ああ・・・でもこれからは自由なのです。
王子殿下!婚約を破棄していただいて感謝しますわ。
みなさま、これからはどうぞ私と仲良くして下さいませ」
エリザベスは、喜びを隠しきれず一気に捲し立てた。
周囲は、エリザベスに同情したし、嬉しそうなエリザベスを見て喜んだ。
あっけに取られたのはアークロイド王子である。
今までの能面のような婚約者だったのが美しい顔を綻ばせ、まるで別人のように周囲に溶け込み始めている。
ふと、傍にいたピンクブロンドのアーネット ガスター男爵令嬢がアークロイドに耳打ちした。
その言葉を聞いたアークロイドは、再びエリザベスを呼ぶ。
「エリザベス! 貴様・・・アーネットに嫌がらせしていたとはまことか!」
会場が一瞬にして静寂に包まれた。
当の本人であるエリザベスは、アークロイドの方を見て小首を傾げた。
その可愛らしい仕草に周囲の男性は頬を赤らめる。
直撃を食らったアークロイドもまた同じであった。
「王子殿下、嫌がらせとはなんのことです?」
「しらばくれるな! アーネットが貴様に嫌がらせされていたと申しているのだ!」
エリザベスは再び首を傾げた。
「恐れ入りますが、王子殿下のお隣にいらっしゃる御令嬢のことでしょうか?
お名前も存じ上げないのですが・・・」
アーネットは悲劇のヒロインよろしく悲鳴をあげた。
「エリザベス様! 酷いですわ! 私のことを池に突き落としたのをお忘れですか?教科書を破いた事も!」
エリザベスは考え込んだ。
「それはいつの事でしょう?」
「二週間前のことですわ!」
「池に突き落とされたのがですか?」
「そうです」
「おかしいですわね。二週間前というと私は王子殿下と王宮で隣国の王子夫妻のお相手をしておりましたわ。なので三日ほど学園をお休みしておりましたから私には貴女を池に突き落とすことはできませんわ」
「取り巻きにやらせたのでしょう!」
「取り巻きとは?」
エリザベスはアーネットに厳しい目を向けた。
「随分と低俗な言葉遣いをされますのね。先ほども申しましたが、私には親しくお付き合いしているお友達はおりませんでしたの。
そもそも、貴女とは同じクラスになったこともありませんよね。
私、貴女のお名前も存じ上げません。
なぜ、私が貴女のことを突き落としたり教科書を破る必要があるんですの?」
エリザベスは、胡乱な目でアーネットを見る。
「そ、それはロイド様を私に取られた腹いせに・・・」
エリザベスはため息をこぼした。
「貴女は、王子殿下を愛称でお呼びになるのね。
私は、礼儀作法の教師に婚約者であっても正式なお名前でお呼びするよう言われておりましたの。
婚約は破棄されましたからもうお名前をお呼びすることもございませんが。
それに腹いせと言われましたが、私は、王子殿下を取られるなどの心配はしたことがございませんのよ。
婚約がつつがなく継続されれば結婚するのですもの取られようがありませんわ」
エリザベスは、アークロイドに視線を向ける。
「王子殿下、二週間前の池の件は私が関わっていないことをご理解いただけましたね?」
アークロイドは渋々頷く。
「あっ、間違えていましたわ。三週間前です」
アーネットは取ってつけたように訂正する。
「いつであっても、私が貴女を池に突き落とすことも教科書を破ることも不可能ですわ。私には『王家の影』が数名つけられております。私の行動は彼らの監視下です」
アークロイドは息を呑んだ。
彼は忘れていたのだ。自分と婚約者であるエリザベスに『王家の影』がついていることを。
自分の行動が、『王家の影』を通じて父母である国王夫妻に筒抜けなことを。
エリザベスが、大きく言葉を発する。
「『王家の影』の皆さんに問います。私は彼女のいうように嫌がらせをしましたか?」
しばしのち、どこからか紙が一枚エリザベスのそばに漂ってきた。
その紙を掴もうとしたエリザベスの手を彼女の隣にずっと控えていた男性が掴んで止めた。
紙は床にパサリと落ちる。
エリザベスの手を取ったまま男は口を開く。
「恐れ入ります殿下、発言をお許しいただけますか?」
「構わん、申せ」
「紙をすり替えたなどと疑いをかけられたくないので、王子殿下の一番信頼している側近の方に、その紙を拾って皆に見えるよう広げて掲げていただきたい」
アークロイドは傍に控えていた宰相の息子である、イザックに目配せする。
イザックは紙を拾うと、広げて周囲に見えるように掲げた。
その用紙には。
「エリザベス様は潔白です」
と大きく記されていた。
エリザベスは嬉しそうに大きくありがとうと礼を述べた。
「さて」
エリザベスの隣の男性は、アークロイドとアーネットに視線を据える。
「今まではエリザベスの意向があり黙って耳を傾けておりましたが限界です。
殿下! 公爵令嬢であるエリザベスに対し、婚約破棄だけでも許し難いのに嫌がらせの濡れ衣まで着せるなど覚悟の上のことなのでしょうね」
「ま、まてクロフォード、そんなに怒るな」
クロフォードと呼ばれた男は、ギロリとアークロイドを睨みつける。
「我が公爵家が、どれほど王家に忠誠を尽くしてきたとお思いか。
本来公爵家の跡取り娘であるエリザベスを王子妃とするため婚約者としたにもかかわらず、この仕打ち。
ロイシュタイン公爵が知れば黙ってはおりますまい」
「わかった! クロフォード、お前の事情はわかった。
公爵家の養子であるお前が跡取りになるためにはエリザベスが王家に嫁がなくてはならないのだろう?
婚約破棄はなかったことにしてエリザベスは私の側妃として・・・」
クロフォードはアークロイドを射殺さんばかりの形相で睨め付ける。
「『王家の影』の皆さん、今までのやり取りを国王陛下とロイシュタイン公爵に報告願う」
全ての言いたいことを呑み込み、クロフォードはエリザベスの腰を引き寄せる。
エリザベスは、怒れるクロフォードに代わりアークロイドに挨拶をした。
「王子殿下、側妃の件はお断りいたします。もうお会いすることもございませんがどうぞ息災にお過ごし下さいませ。さようなら」
そう残すと、クロフォードに導かれるように生徒達の間を通り会場を後にした。
会場に取り残されたアークロイド王子は、愕然とした。
『王家の影』に己の所業を報告されたら・・・。
隣でホッとした表情を見せるアーネットに怒りが湧いた。
だが、どうすることもできない。
彼は、自分のとった行動を悔やむことしかできなかった。
クロフォードに連れられたエリザベスは、彼との歩幅の違いとその歩くスピードに転びそうになっていた。
腰を抱かれたままなので転びはしなかったが。
「エリザベス、すまない」
クロフォードは、気が急いてしまい早足になっていたことをエリザベスに詫びた。
そして断りも入れずに彼女を抱き上げた。
いきなり景色が反転しエリザベスは驚く。
「一刻も早く義父上に申し入れたいことがあるんだ」
そう告げると、足早に馬車へと向かう。
馬車に乗っても、彼はエリザベスを自分の膝から下ろすことなく抱き抱えたまま公爵邸に向かった。
エリザベスは、自分の置かれた状況に顔を朱に染め挙動不審になる。
「あ、あの、私重いでしょ? 一人で座れますわ」
「いや、一人にはできない。あんなことがあった後だ。ショックがあとから来て気を失うかもしれない。私が支えているから安心するといい。それにリザは羽毛のように軽いよ」
クロフォードはエリザベスを抱える腕の力を少し強めて、逃がさないと意思表示している。
「羽毛って・・・枕かぬいぐるみ扱いされているようですわね」
「ああ、リザはぬいぐるみのようにふわふわで私の心を癒してくれるよ」
わけがわからない・・・。エリザベスは膝から下ろしてもらうことを断念せざるを得なかった。
公爵邸に到着して馬車から降りる時にもクロフォードはエリザベスを抱き抱えたままだった。
出迎えの家令にロイシュタイン公爵の在宅の有無を確認する。
執務室にいることを確認すると、エリザベスごと公爵の執務室に足を向けた。
クロフォードは公爵の執務室の扉を蹴り飛ばして開く。
エリザベスの父、クロフォードの義父であるロイシュタイン公爵はやれやれとでもいうようにため息をついて二人を出迎えた。
「義父上、お約束通りエリザベスはいただきます」
「いただきますって、リザの気持ちは確認したのかい?」
クロフォードは、ハッとした。
「・・・まだでした」
しゅんと項垂れる。犬の耳と尻尾の幻覚が見えた。
「あの・・・どういうことです?」
エリザベスは、父と義兄であるクロフォードに訊ねる。
顔を見合わせた二人は、揃ってエリザベスに向き直ると父が説明し始めた。
「エリザベスがアークロイド王子の婚約者に選ばれる前のことなのだが、クロフォードが私にエリザベスと婚約したいと申し込んできたのだよ。
エリザベスはまだ幼かったのでもう少し様子を見てからと保留にしていたのだが、その隙に王家からアークロイド王子の婚約者にと話が来てしまい、立場上断ることもできずクロフォードには申し訳ないことをした。
王子妃教育が始まると表情豊かだったエリザベスが何の感情も表さない無表情になっていった。確かにエリザベスは王子妃として申し分ない知識と教養は身につけたし、何ならアークロイド殿下より優秀だった。
しかし、私は君の情緒の欠落が心配でね。クロフォードに相談したんだ」
そこからは、クロフォードが引き継いだ。
「私も、快活だったリザが見る影も無くなってもどかしかった。
ロイシュタイン公爵に相談された時、私はこう申し出たんだ。エリザベスのそばにいさせてほしいと。
ロイシュタイン公爵は、家の子はリザだけだから公爵家の跡取りの養子になるかと申し出てくれた。
国王陛下の許しも得て、私は君の義兄となった。
無表情だったリザも打ち解けてくれて、家の中では明るく振る舞ってくれるようになってとても嬉しかったよ。
ただ、私は君に求婚の申し込みをしていたように義兄になりたかったわけじゃない。
君を近くで見守ることは、嬉しい反面苦しかった。
君が学園に入学して、王子が男爵令嬢に心を移してからはどうやってリザの心を守りこの手に取り戻すかばかりを考えていた」
エリザベスは、息を飲んだ。
こんなにも自分を想ってくれる人が側にいたことに嬉しい驚きを感じた。
「今日、リザをエスコートできて嬉しかったけど、君のお願いを聞いて王子の独壇場に口を挟まなかった間は地獄のようだったよ」
「ごめんなさい。でも見守ってくれてありがとう」
エリザベスはクロフォードを優しく見つめた。
「ところで私、いつお兄様と出会っていたの?王子殿下との婚約前ってことだけど・・・」
「ああ、それは・・・」
クロフォードは一瞬言い淀んだ。
「リザ、君は父上と一緒に良く王宮に来ていただろう?」
「ええ」
「その時、一緒に遊んだ子を覚えてる?」
「覚えてるわ。可愛らしいお姫様よ。私の憧れのお姉様」
エリザベスは、幼き日の憧れのお姉様を思い起こし眼をキラキラさせる。
その姿を見てクロフォードは躊躇いつつ告げる。
「・・・それが私だよ。あの頃は訳あって女の子として育てられていたんだ」
エリザベスは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「へっ・・・?」
令嬢らしからぬ声が出た。
そしてしばらく沈黙が流れる。
「え〜っっっ〜」
「ちょっと待って、あの時のお姉様がお兄様って・・・アークロイド王子との婚約が決まってから、お姉様に会えなくなったのって・・・」
クロフォードはバツが悪そうだ。
「アークロイドは私の弟にあたるんだ。私の母は現国王の寵姫だったんだが私を産んですぐに亡くなった。
その頃側室である育ての母が急な病で娘を亡くしたんだ。側室の周囲が寵姫の子を側室の娘として育てたいと国王に申し出た。
寵姫の子では王家の中でも軽んじられるが側妃は身分的にも高い家の出だから、その申し入れが了承され、私は王子として生まれながら王女として育てられることになった。だから後から生まれた正妃の息子アークロイドが第一王子となったんだ。
やがて側室であった育ての母も私が十歳になる頃に亡くなり私の処遇も難しくなった。
正妃様にはアークロイドの敵とみなされ毒殺もされかけた。
そんな頃、エリザベス、君と出会って心惹かれるようになったんだ。私は王族の地位はいらなかったし、公爵にエリザベスと婚約したい、いずれはエリザベスを支えて公爵家のために尽くしたいと申し出たんだ。
公爵も乗り気になってくれた頃、王妃が公爵の後ろ盾欲しさにアークロイドとエリザベスの婚約を画策し国王はそれを承認した。
そのあとは、先ほど話した通りさ。
エリザベス、君はアークロイドと婚約後、王子妃教育で辛い目に遭っていたね。私は結婚は叶わなくても君を見守りたいと思い長かった髪を切り公爵家の養子となった。
だから姫としては君に会えなくなったんだ」
「そんなことが・・・」
「黙っていてごめん」
「そんなこと」
こほんと咳払いし父である公爵が話に入ってきた。
「まあ、とにかく婚約破棄になったわけだ。どうする?エリザベス。クロフォードとこの公爵家を継いではくれないか?」
エリザベスはクロフォードを見る。
「お義兄様はそれでよろしいのですか?」
クロフォードは笑顔で頷く。
「もちろん。エリザベスが了承してくれるなら、いや了承してくれなくても私は君とともにいる」
エリザベスは、少し躊躇ったが了承しなくてもともにいると言ってくれたクロフォードの言葉に決心した。
「お話、お受けいたします」
その言葉を聞いたクロフォードは破顔し、父公爵は瞳を潤ませ子供達を見つめた。
「そうと決まれば王家の横槍が入る前に婚約を整えよう。婚姻はエリザベスの卒業後、クロフォードは今まで通り私の補佐をしながら仕事を覚えてくれ」
「わかりました」
これで我が家は安泰・・・そう思っていました翌日までは。
翌日、王家からの使者がロイシュタイン公爵家を訪れた。
国王陛下からのお召しで、ロイシュタイン公爵、並びにクロフォード、エリザベスに登城するようにとのことであった。
謁見の間には国王陛下がおり、待ちかねたように出迎えた。
「よく来てくれた。エリザベス嬢、アークロイドが大変申し訳ないことをした」
謁見の間には、人払いがされているとはいえ一国の王が令嬢に頭を下げているなど驚愕である。
「国王陛下、どうぞ頭をお上げくださいませ」
エリザベスは慌ててしまった。
頭を上げると、国王は公爵に向かい合った。
「ロイシュタイン公爵、公の所にも『王家の影』から報告が行ったと思うが・・・情けない限りだ。
アークロイド王子の王位継承権を剥奪した。あやつには国を任せることはできない」
ロイシュタイン公爵は眉間に皺を寄せた。
「王位継承権の剥奪とは、思い切った事をされましたな。彼は公式には唯一の王子ですが・・・アークロイド王子を早く結婚させてその子供に王位を譲るのですか?」
アークロイドの卒業パーティーでの振る舞いと、公衆の面前での婚約破棄が未来の国王として相応しくないとされ貴族達の不信感を買ってしまったとのこと。学園卒業の晴れの席が、醜悪な三文芝居で汚されれば、貴族の親達も黙ってはいない。
公衆の面前での婚約破棄に加え、公爵令嬢が一男爵令嬢に嫌がらせしていたなど虚偽を正当化するかのように断罪する世継ぎの王子。王家との婚約から解放された公爵令嬢が晴れやかな笑顔を見せたことから、王子妃教育の厳しさが垣間見られ王家への不信感は増すばかりであったそうだ。
今後は、 王子妃教育に関する教師への監査も入れるようにするそう。
「もう一人の王子の存在を公表することにした。世継ぎはクロフォード、お前だ」
「謹んでお断りさせていただきます。私はエリザベスと共にロイシュタイン公爵家を継ぎますので」
「お前に拒否権はない。お前はまだ正式なロイシュタイン公爵家の養子ではないからな」
「何ですと!」
公爵が驚く。
「養子縁組届け出は、受理せず止めてある。なのでクロフォードの籍は王家にある」
クロフォードの顔は青ざめた。
「何、私も子の親だ。子供の幸せを願っておる。クロフォードの一番の願いは叶えよう。クロフォードの婚約者にはエリザベス ロイシュタイン公爵令嬢を迎える」
「ちょっと待ってください。それではロイシュタイン公爵家の後継者がいなくなってしまいます」
「何、問題はあるまい」
「ロイシュタイン公爵家に養子を迎えろと?」
「そうだ。公爵は元気だからあと二十年位は現役で活躍できるだろう。ロイシュタイン公爵家は、クロフォードとエリザベスのもうけた子供のうちの一人に後継に入ってもらおう」
一同は目を丸くした。
「君達には期待しているよ。王家と公爵家、その両方が血統を持つ子に継いでいってほしいからのう」
ほぉっほほほ、と国王は高笑いをした。
学園の残り一年は王太子の婚約者として過ごしたが、エリザベスは自由に振る舞うことができた。
クロフォードが、それを絶対条件にしたのである。
王子妃教育で培ったポーカーフェイスも捨てさせた。
エリザベスは、自然体にしていても場をわきまえた振る舞いができたから。
クロフォード自身も好きで王太子になるわけではなかったが、この立場であれば今までのエリザベスの努力を活かすことができるから納得した。
こうして、期せずして王太子と王太子妃になった二人。
その結婚式は祝福に満ちたものだったという。
やがて、国王と王妃となり思いやりと信頼関係で結ばれた二人の治めた国は豊かで笑顔が溢れた。
エリザベスは五人の子をもうけた。
長男は王太子、次男はロイシュタイン公爵家の後継者となり、長女は隣国の王太子と恋に落ち大恋愛の末隣国の王太子妃となり、三男は長兄を支える宰相に、次女は文官として働いた後同僚の侯爵と恋愛結婚をした。
こうして婚約破棄された令嬢エリザベスは、身近で彼女を見守り続けたクロフォードに生涯に渡り溺愛されたのであった。
読んでいただきありがとうございました。
長編の作品を制作中ですが、まだアップできるところまでは来てなくて、気分転換に書き上げた作品です。
また近々お目にかかれますように。
短編 投稿しました。