9話 認められない
(そういえばこいつって魔王軍のやつなんだな…)
行き先も聞かずについて来てしまったが、とりあえず今ある情報だけで推測するしかない。
(魔王軍のやつがなんで俺に話しかけたかは分からない。どこに向かうかも分からない。何が目的かも分からない)
結局のところ、何も分からないのだ。
(こういう時は話しかけるが吉なんだが…)
何を隠そうこいつからはなんか話しかけづらいオーラが出ているのだ。あと先ほどの多重人格?のせいでちょっとこいつについてよく分からないし。
(それに知らん人にやすやすと話しかけられないんだよな…)
さらに相手の名前すらをすっかり忘れてしまったので、話しかけようにも話しかけられないのだ。
そんな思考をしていると、声がかかった。
「ついたぞ。最終試験だ。生きるか死ぬかの、な」
そう言われて見てみると、目の前にでっかい魔物がいた。それはもうでかい。自分の2、3倍はあろうかという巨体に、なんかちょっと赤黒くてグロい体。生前なら漏らす自信があるレベルの魔物がいた。
「お前にはこいつを殺してもらう。まあできなかったら死ぬだけだが」
「はあ!?いきなり過ぎ…ってちょっと待ってや!」
突然こんな奴と戦えと言われて文句を言いたいが、あっという間に去っていってしまった。そして代わりに巨大な魔物が恨めしそうに自分を見てくる。
「突然敗北イベント始まったゲームの主人公の気持ちがよくわかるなぁ」
なんて呑気なことを考えていると、ソイツは咆哮を上げた。それがこの戦いの始まりのコングとなった。
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視点:拓人
(突然火事が起きてしかも消火されなかった。しかもその理由が魔王軍の攻撃か…)
つい最近火事が起きてしかも消火がされていなかった。しかもその理由が魔王軍の攻撃だと言うのだ。
(そうだとしたらちょっと許せねぇな…)
あそこの近くは守の部屋なのだ。もし何か起きたらちょっとガチ切れする自信があった。
「なあ紗羅、今日だよな」
「ええ、そうね…」
「結局場外に出る暇なかったな」
今日は部隊長がクラスメイトに話すことがあると言って呼ばれているのだ。おそらく内容は守についてだろう。
そして集合場所…王城の何かわからないが豪華な部屋にクラスメイトが集まった。
「今日は皆さん集まっていただいてありがとうございます。初めに…単刀直入に言います。昨日、守君の遺体が見つかりました…」
その言葉に、全クラスメイトが言葉を失う。当たり前だ。クラスメイトの1人の死亡がハッキリと伝えられたのだ。
「この件については全てこちらの責任です。ですので…」
「嘘だ!!!そんなわけが無い!!あいつが…守がそんな簡単に死ぬわけがない!」
「…そうよ!今もきっと…どこかで生きているでしょ!きっとその死体は偽物よ!」
どうしても認めたくなかった。
受け入れなければならないのに、心がそれを拒む。
受け入れなければならないのに、口が嫌だと叫んでいる。
そしてそれは紗羅も同じだった。
今まで空くことのなかった心の隙間がぽっかり空いた気がした。
「おいちょっと落ち着けって」
「うるせえちょっと黙ってろ!」
周りが声をかけてくれるもそれは雑音にしか聞こえない。
「守は家が火事になっても生きて出てきたんだぞ!車に跳ねられても生還したんだぞ!地震で家の下敷きになっても生きて出てこれたんだぞ!そんな守が1週間ちょっとで死体で見つかるかっての!あいつはこれまでどれだけの動植物の本を読んできたと思っていやがる!きっと今でも食べれる植物を見つけてどこかで生きてるだろ!」
言いたかったことをまくしたてた。俺にとってあいつはかけがえのない友で、親友でなんだ。
それなのに…
「…いえ、あの体は確かに守君の死体でした。魔力の波長も同じでしたし。それに、この服は確かに守君のものです」
そう言って渡されたのは…確かに守の服だった。ここまでされたら認めるしかない。
「うそ…」
隣では紗羅が絶句している。彼女も悟ったようだった。
しかし俺はただただ、後悔するしか無かったのだった。
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俺は今に人生最大の難関に直面している。
なぜって?だって目の前にやばい化け物がいるんだもん。しかもあのバケモンを倒せだってよ。
まず内包された魔力量が半端じゃない。なんであんなにあるのか知りたいぐらいだ。少なくとも俺の3倍はある。
そしてさらにやばいのは、あいつは今本当の姿じゃないということを悟ってしまったからだ。何となくわかってしまったが、あのグロいボディはおそらく仮の姿っぽいイメージ。実際はもっとかっこいいんだろうなぁ。
そんなこんなで考えてはいるものの、実際どうやってここを乗り切るかが鬼門だよなぁ。理由は知らんが全然動いてないからゆっくり思考できる。
…なんて思っていた時期が俺にもあった。
「グオオオオオオ!!!」
突然殴りかかってきたのだ。
避けようとしたが、さすがに気づくのが遅れてわりともろにくらった。
「がは!」
そして5mぐらい吹っ飛ぶ。
「くっそ…痛ってぇ」
ここまで痛かったのは中学の頃車に轢かれた頃以来か…なんてことを考えていたら次が来てしまった。
そして振り下ろされる鉄球のような拳が自分の腹に直撃した。