5話 世界の矛盾
(なんで…俺は…骨なんだ…?)
そう。彼の体は骨となっていた。つまり骨の体を持つ、生者を憎む”不死種族”の一つ、骸骨人になっていた。
(そういえば…焼却がどうとか言ってたな…でもそうなったら骨もボロボロだろ…)
だがさっき転んだ時に骨が折れたり砕けたということもない。
それもそのはず。
今、彼の体は、ほとんどが魔力でできている。本来は形を保つことが困難なボロボロになった骨を、魔力で補強しているのだ。
そしてだからこそ、“魔力探知”を簡単に手に入れられたのだ。
(俺は…不死種族なのか...)
本で読んだ限りだと、生者を憎む悪しき存在とあったが…
(俺は…果たしてあいつらが憎いのか?)
守は本能に逆らっていた。不死種族としての生者への憎みを、抑えていたのだ。
(ああ、だから聞こえんし感じないのか。)
骸骨人には感覚器官が当たり前のようにないため、魔力探知以外の方法では、情報を得ることができない。
(とりあえず、視覚はあるし移動するか…)
不死種族は本来見つかれば即討伐対象になるので、見つかる前に人がいない場所まで移動しなければならない。
(と言っても、どこ行こう…とりあえず歩くか…)
視覚が復活しようが、ここがどこかがわからないのだ。
そうやって軽い気持ちで歩き出して…
(うわっ!)
何か柔らかいものを踏みつけた…気がした。
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視点:紗羅
(プライベートってなんなのかしらね…)
ここ最近、自分をつけてくる、鬱陶しい人間に沙羅は頭を悩ませていた。
(流石に部屋までは入ってこないけど、メイドやらが頻繁に掃除にくるから少しウザいわね…)
しかも同じところを15分ほど長々と掃除し続けるのだ。こんなのは、怪しんで下さいと言っているようなものだろう。
(私の狙いがバレてる?)
彼女だけが、近衞騎士団隠密部隊の嘘に気づいたのだ。だが、それを読んでマークしておくのは…
(ソフィア王女か、ハンス部隊長か、はたまた別の人間か…)
考えてもキリがなかった。
(ああ!もうっ!こうしているうちに守に何かがあったらどうしてくれるのよっ!)
紗羅にとって、守は大切な親友であり、ゲーム仲間であり、笑って過ごせる数少ない人間なのだ。
(こうなったら…)
紗羅はとある決意をする。
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視点:白神
(なーんで監視されているのかなぁ)
彼は白神。本名は白神洸太。かなりの読書家であり、
(なんかさぁ鬱陶しいなぁ。僕は光正さんを見てたいだけなのに)
…光正の大ファンでもあった。
(まあいっか。なんか僕がいけない事したやつみたいになってるけど、別に支障はないし。それよりも光正さんに会いたいなぁ)
どこまでもマイペースな男であり、光正以外にあまり興味を示さない男でもある。だが…
(守君はいつ帰ってくるのかな?)
そんな彼が、光正以外に目を向けた。
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(なんだこの柔らかそうなものは…)
疑問に思って、恐る恐る魔力探知を下に集中させると…
そこにはスライムがいた。
(ワオ)
スライムというのは、生き物の死体や、植物など、なんでも食べれるタイプの魔物だ。そして、巷では最下級魔物と言われている。こいつがいるだけでそこのものは何もなくなるとまで言われている。そしてスライムは体の“核”と呼ばれる部分に魔力があり、それによって周りの物質を吸収していると言われている。
倒し方は至ってシンプル。
(えいっ!)
その核を魔力が通った攻撃で刺激するだけ。そうすると核の魔力が漏れ出し、結果的にスライム体型が維持できなくなり、結果的にお陀仏する。
(…マジで簡単に倒せたな)
そうして段々とスライムボディが無くなっていく。
(ん?なんか食べてたのか)
そして黒色の何かが見えて来る。
そこには…
(…んな!!)
1人の女の子が横たわっていた。黒色に見えたのは、着ていた服だったのだ。
(なんで…ここに…女の子が?)
よく見れば、胸元をざくりとされている。
(もう…死んでいるのか…なんで俺は何も思わないんだよ…)
不死種族にとって人間の死は最高の愉悦であり、幸福なのだ。
(俺は…もう心まで死んだのか…)
悲しもうとしても、悔やもうとしても、不死種族としての本能がそれを許してくれない。
(ああ…骸骨人じゃなくて人間だったら…弔ってあげられたのかな…)
ただそこに異変が生じた。
本来なら人間の死に愉悦を感じる不死種族が愉悦を感じず、人間を憎む存在が、人間を羨んだ。それが、種族としての本能に逆らっていながらも…守の強靭な精神がその結果を生んだのだ。
そして矛盾が生じた。ただそれは”世界“が許さない。その結果、守は変わることになる。
(う…あ…頭が…痛い…)
『ユニークスキル』
世界が矛盾を正すために与えられる力。
同じものは二つと無い。
それを守に起きた矛盾を正すために、世界が守に与えたのだ。