18話 雑魚と最強
この世には様々な種族がある。代表的なものならば、人間種、魔人族、獣人族などがある。少々特殊かつ上位な種族ならば、吸血鬼、悪魔族、天使族などもある。そして共通することは、“世界”の始まりに近い者…つまり原始に近しい者が強い。
そして今現れた者は…
「やあやあ初めまして!俺はマルヴァス。左翼派序列5位のマルヴァスだ!早速だけど…さよなら」
悪魔界でも原始に近い、トップクラスの実力者であった。
「チッ!寄りにもよって左翼5位かよ!」
オセルトはそのあまりにも自然な殺気に己の身の危険を感じ、背筋が凍る。しかし守は何も考えず能天気に声をかける。
「初めまして!石松です!よろしく!」
しかしこんな脳天気な挨拶は、彼の逆鱗に触れたようだ。
「へえ…人間ごときがこの俺にタメ口聞きやがって…殺す!」
そう言うと同時にガキンッという金属音が鳴った。今回はマルヴァスの拳とオセルトの剣がぶつかり合った音だ。
無警戒だった守は可愛いな女の子だなぁなんて事を考えていたので、オセルトがいなければその拳をもろに受けていただろう。アルルベイシャンとの戦いが終わり、完全に気が抜けていた守はもう一度気を引き締めた。
「気をつけろ!さっきのやつと同じと思うな!」
そう言われてとにかく回避を優先したのだが…
「俺の速さに追いつけてねぇぜ?」
と言われた時にはまたガキンッという音が鳴った。守は全く反応できていなかった。
(まじかよ…速すぎだろ…)
そう思っていると、頭の中に響くような声があった。
『マモル!少しずつ下がりながら戦うぞ!外へ出るんだ!』
「…お前らそんなに逃げてぇのか?」
そして何故かマルヴァスはマモル達の狙いに勘づいた。
「まじかよ…」
頭の中に響くような会話はマルヴァスの前では秘匿できないようだった。
そうしている間にも、少しずつオセルトの劣勢が明らかになっていく。そして遂に…
パキンッ
「なっ!」
オセルトの持つ剣が折れてしまった。
対して、マルヴァスは無傷。圧倒的な絶望盤面だった。
「フハハハ!!やはり俺が!この世界を支配するのだ!」
「ここまでか…」
剣を失っていなければオセルトは勝てるとは言わなくともいい勝負ができただろう。しかし今は無力な守に剣を失ったオセルト。もうこちら側には打てる手がない。
「さあ!死ね!」
そうしてこちら側に来たその時…
『へえ?キミごときがボクのオモチャを壊そうだなんて…図々しいね?それにその程度で世界の支配ができるとでも?』
謎の声が聞こえ、そしてマルヴァスの動きが止まった。
(今の声…聞いたことあるような…)
「なぜお前がそこにいる!…やめろ!俺の肉体だぞ!」
『上司相手にお前呼ばわり…キミもうダメだね。強いだけじゃ悪魔界では生き残れないんだよ?』
そういった直後、悲鳴をあげようとしたのか、マルヴァスは口をあんぐりと開けたまま停止し、そのまま倒れた。
「助かった…のか?」
「…さあ?」
こういう時に気を緩めると痛い目見ることはさっきわかったので、油断せずに様子を伺う。
すると、倒れた体が浮き上がり、そして動き出した。
「…!こいつまだ生きて…」
「やぁやぁ!ボクの名はベルゼ。悪魔界で︎︎“審判”をしている存在とはボクのことさ!」
先程とは明らかに雰囲気が変わった少女(?)はすごく友好的なようだ。
(この声やっぱどこかで聞いたことあるような…)
敵対者ではないと悟ったオセルトも、ここは脱出を優先した。
「マモル、ソイツには敵対する意思が無いようだ。とりあえずここから出るぞ」
「ウンウン、わかってくれてボク嬉しいな〜」
そうして謎の悪魔と共に迷宮の外…地上へと戻った。
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久々の地上!!天気がいい!!
「このベルゼってやつは大丈夫なのか?」
「コイツが信用できるか知らんが、魔王様ならば大丈夫であろう。護衛も厳重にしておくから安心するがいい」
「も〜安心してよ〜手をかけるつもりはないからさ〜」
クッこの可愛さで仕草も可愛い!!オタク心が突き動かされる!!!
「で?ここからどのくらいの距離に城はあるんですかね?」
「すぐそこだ。転移門」
そして一瞬で着いた…いやこれアリかよ。
「はあ…本当は情報の大切さを教えるためにこのゲームをしたんだがな…まさかこんなことになるとは…」
「おっきたか!オセルトとマモル!…っとお嬢さん!」
そうして出迎えてくれたのはセルフィカルトだった。
「お久しぶりです!」
「おうおう!元気にしてたか?」
「いえ…すっごく大変でした!」
ふむ…今は荒いモードか。
「ハッハッハ!まあいい。とりあえず率直に伝える…魔王様が貴様らをお呼びになった。明日の朝、またここに来い」
「了解しました!」
(おお…遂に会えるのか…)
そうして期待と不安を抱えながら、明日を迎えるのだった。