15話 魔導師の末路
アルルベイシャンは、もともと一国の偉大なる魔導師であった。その影響力は、発言一つがその国の方針を決められるほどであった。さらに彼には、愛する娘である、エイルファがいた。彼は、自分の妻と娘を、この身を捧げて守り切ると誓った。
しかしある日、自分の妻の訃報が耳に入った。何でも、買い物中に建物が倒壊したと言うのだ。ただその時、一緒にいたまだ幼いエイルファは、母が身を挺して守ったおかげで、奇跡的に無傷だった。そんな妻を誇りに思いながら、守れなかった無力さに打ちひしがれていた。
そんな彼のことを見て、同僚たちは何とか励まそうと試行錯誤したが、何をしても彼を元気付けることができなかった。
話を変えるが、彼のことをよく思っていない連中もいる。その国の政治家たちだ。
彼らは自分の決定が彼の一任で変わってしまうことに強い不愉快を感じていた。なので彼らは噂を流したのだ。
彼の子は悪魔である、と。
もちろんアルルベイシャンは否定したが、あの建物の倒壊で無傷なのは悪魔の力だ、あんな幼い子が母親を失って普通でいるはずがない、と言われ続け、アルルベイシャンは娘と共に国外追放となった。当時悪魔の存在自体は死刑だったが、国王がアルルベイシャンを信じて国外追放に留めたのだ。
そしてアルルベイシャンは娘と2人きりで魔の森と呼ばれる場所に住み着くことになる。
アルルベイシャンは建物の知識はなかったが、素材を作ることはできたので見よう見まねでレンガを作り、適当に積み上げていった。そして家づくりは無理だと悟り、地下室に住み込むことになった。
しかし、娘はまだ幼いので、なんとかして健康を維持しようとしたが、すぐに何かの病気にかかってしまった。その度に魔法で癒してきたが、娘の体はもうボロボロだったのだ。12回目の病気の発症で即死してしまった。
また1人愛するものを失ってしまったアルルベイシャンは、ついに狂ってしまった。娘に本物の悪魔召喚をして生き返ってもらおうとしたのだ。しかし彼の高い技術と負の概念が蔓延した場所では、悪魔召喚に最適な環境であった。
その結果、この世に出してはいけない者を出しそうになってしまった。しかし顕現する瞬間に封印魔法を施し、娘もろとも永遠に封印されることとなったのだ。アルルベイシャンはその時の愛娘の目が忘れられない。
そうして封印した娘を彼はひっそりと棺に入れた。そして、これは自分以外誰にも触れさせないと心に刻み込んだ。
そんなこんなで数百年が経った。
彼は死んでもなお幽霊として意識をこの世に残していた。
そんな中、人間と思われる4人組の男たちがアルルベイシャンの家にやってきた。
アルルベイシャンは歓迎しようとしたが、男たちは幽霊である彼を見るなり交戦体制に入り、その結果誤ってアルルベイシャンは彼らを殺してしまった。そして男たちを探しに来たヤツらも来て、幽霊である彼を見るなり攻撃に入り、やはりアルルベイシャンに殺されてしまった。そうしてアルルベイシャンは人殺しに慣れてしまたのである。
そしてある日屈強な男が単身で入ってきた。あまり人間と関わりたくないアルルベイシャンは、自分の家を迷路のようにしたが、この男はまっすぐ自分のところにやってきた。
そうして死闘を繰り広げ、何とか勝利したアルルベイシャンは、目の前の男が己の従弟だと知った。それに罪悪感を感じ、その身に宿ることで、少しでも罪悪感を紛らわそうとした。
その頃になると、アルルベイシャンの家は死滅の迷宮と呼ばれ、恐れられたのだ。
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今気づいたんだがこいつの粉砕重射全く当たる気配ねぇなぁ。さっきのたうち回ってたのに全く当たらなかったし。
(クソエイムってことでいいんだよな…?)
そう思って思い切ってめっちゃ接近してみても全く当たらない。
(これなら行けるな)
確信して今度は腹パン入れてやろうと決意する。そして...
「さっきから怖ええんだよ!」
と、本音を喚き散らしながら思い切り本気のグーパンを腹に入れた。今度はさっきの尖った岩のトラップもなかったようだ。
「うっ」
たまらずアルルベイシャンは呻くが、この程度で動揺することは無い。
「まだまだぁ...と危ない」
さっきの尖った岩トラップで距離をとりつつ、次なる手を考える。
(魔法はこの者にはあまり良くないらしいの...昔習ったあれをやるか...久しぶりじゃの...)
守は距離を取られて不満だが、さっきの尖った岩トラップはさらに痛かったので、ここは我慢した。そうして様子を見ていると、目の前の敵が杖を捨て、見事な剣をどこからか取り出した。
「行くぞ若者よ、この剣を以て貴様を殺す」
そして明らかに変わったアルルベイシャンから達人とも呼べる気迫が込められた一刀が守を襲った。