66話 食レポ
中央街に行くと、目的の店はすぐに見つかった。
なぜなら大きく『黄昏フルーツはここしかない!』と書いてある看板が掲げられていたからだ。とてもわかりやすい。
予算は金貨10枚ほど。まぁ金貨は1枚あれば2週間は暮らせそうだしその計算で行くと多少割高でも大丈夫だろう。
枯渇するとさすがに怖いが。
「いらっしゃいませ〜」
時間が時間だからかほとんど並ぶことなく入ることが出来た。まぁ今の時間帯は日本で言う午後4時頃だから当たり前と言えば当たり前だが。
「2名様ですね、こちらへどうぞ〜」
そしておそらくこの世界に来た中でトップレベルに丁寧な接客をされている気がする。いやまぁこの世界のレストランなんてほとんど入ったことないが。
「こちらメニューになります。ご注文がお決まりになりましたら、こちらのベルを鳴らしてください」
そう言って店員は店の奥へ入っていった。
まぁとりあえずメニューを見よう。
「思ったより色々あるな...」
黄昏フルーツ目的で来たのだが、この店はサラダ料理から肉料理まで合計20種類ほどの料理がメニューに乗っていた。その中にはもちろん『黄昏フルーツの盛り合わせ』も入っている。
「レクスはどうするの?私はもう決まったけど」
早いな。まぁそんなもんか。なら俺は...
そして決まったのでベルを鳴らす。
「はい、ご注文がお決まりでしょうか」
「えっと、ドラゴン肉のステーキと黄昏フルーツの盛り合わせをお願いします。フィーアは?」
「私は肉野菜ブレッドだけで」
「かしこまりました。ご注文を繰り返させていただきます。そちらの方がドラゴン肉のステーキと黄昏フルーツの盛り合わせ、そちらが肉野菜ブレッドですね。少々お待ちください」
そう言って再び店の奥へ引っ込む。そしてお値段なんと金貨1枚と大銀貨2枚。ちょっと...いやまぁまぁ割高なお店だった。まぁそりゃドラゴン肉なんてもの扱っているならお高くはなるだろう。
「それにしても初めてだな、このレベルの接客」
今までは串焼きの時も肉を買いに行った時もおっちゃんと気軽に会話していたが、このレベルの店になるとそんなことは出来ない。日本にいた頃の店よりも高いんじゃないかと思うレベルだ。まぁ日本の高級料理店なんて行ったこともないが。
「おまたせしました。こちらドラゴン肉のステーキと肉野菜ブレッドでございます。黄昏フルーツの盛り合わせは少々お待ちください」
「ありがとうございます」
ドラゴン肉のステーキは少々大きいが、それなりにイメージ通りだ。ステーキとともに野菜も添えられており、ステーキから溢れ出る肉汁を吸っていて美味そうだ。
そして肉野菜ブレッドはなかなかボリューミーなものだった。日本で言うホットドッグに近いだろう。ただかなり大きい。ベルゼがいれば一口だろうが、普通に食べようとしたらそれなりに大変だろう。
それにしても美味い。肉はぶっちゃけ日本にいた頃よりもこっちの方が美味いかもしれない。噛めば噛むほど美味しさが溢れ出てくる。ああ、白米が欲しい。
そしてフィーアはと言うと、肉野菜ブレッドに噛み付いていた。だが下品さはなくどこか上品さを醸し出しながら食べていた。
「フィーアってこういう店来たことあるの?」
「大昔にね、3000年以上前だったかな」
とんでもなく大昔だった。そういえばこやつ龍神とかいうすごい存在だったな。忘れてた。
「ふぅ、美味しかった」
「おまたせしました。こちら黄昏フルーツの盛り合わせでございます」
そしてステーキも無事完食。そしてそれと同時に運ばれてくる黄昏フルーツの盛り合わせ。タイミング完璧だ。
見た目は完全にでっかいパフェだ。カットされた様々なフルーツが生クリームのようなものとともに盛られており、色とりどりで美味しそうだ。そしてフィーアを見るとあくどい笑みを浮かべている。なんだ、欲しいってったってあげないぞ。
「よし、いただきます」
鑑賞し終わったのであとはじっくりいただくとしよう。そして一口目、口に激震が走った。
「酸っぱ」
結構な酸味、それと共に来る若干の甘み、味はレモンとみかんといちごを足して三で割ったような感じだろうか、そして食感は完全にキウイのそれだ。
続けて二口目、またもや激震が走る。
「甘ぁ」
今度はかなり甘いものだ。先程酸っぱく感じた中に感じた甘さの正体だろうか、とにかく甘い。生クリームのようなものと合わさって敵無しの甘さになっている。なるほど、様々な果物の組み合わさりで舌が飽きないようになっているのか。
そして見た感じ3色しかないので次が最後の種類だ。ちなみに酸っぱいのが黄色で甘いのが赤色だ。そして最後のが橙色だが一体どんな味だろうか。
「...苦い...のか?」
食べたことの無い不思議な味だった。苦いような甘いような、なんだか不思議な味だ。
そしてその3つの果物の組み合わさりでこれは成り立っており、確かに病みつきになりそうだと思った。
そんなこんなでいつの間にやら完食していた。生クリームもどきもまんま生クリームであり、甘く美味しかった。
正しく日本で食べたことの無いフルーツであり、初めての味にじゃっかん興奮しそうだ。
「ふえ〜美味しかったねぇ」
フィーアもちゃんと完食している。なんならほとんどパンくずも散らばっていない。こいつまさか育ちめちゃめちゃいいんじゃないか?
「よし、じゃあ行こうか」
こっちも全て食べ終わったので店を出よう。長居しても迷惑なだけだしね。
「ご馳走様でした〜」
そういって店を出る。いい感じに時間も潰せたし、フィーアが何か小細工していた肉の様子でも見に行くか。
「いやぁ楽しみだねぇ」
それにしても悪魔界か、おそらくというかほぼ確実にベルゼの故郷みたいな場所だろう。どんな感じなのだろうか。
「ま、行ってみればわかるか」
そんな軽い気持ちでいるのだった。