65話 フェルという国
というわけで買い出しだ。幸いお金はまだまだ金貨20枚ほど余っている。いやまじであのころの報酬はデカすぎた。これがなければかなり危なかっただろう。
「えっと…肉屋はここか。まぁまぁ大きいな」
かなり探すことを覚悟したが、看板にでっかく肉のイラストが描かれているので分かりやすかった。大きさはまぁそんなに大きくは無いがそれなりに売ってはいるだろう。
「失礼しまーす」
とりあえず入ってみる。スーパーなどならともかくこんな一般的な家のような場所だとなんか失礼しますの一言くらい言ってしまいたくなるものだ。
「へいらっしゃい!何をお探しで?」
正直に言おう、なかはガラガラだった。いやまぁね?港であんなことがあったから人が少ないのはわかるが、さすがに1対1だと緊張する。
「えーっと…生肉とかってありますか?」
「あー生肉ね〜。もしかしてこの国は初めてかい?」
「あっはい」
どういうことだ?
「この国は見ての通り危ない森に囲われてるだろう?だから本当のごくごくたまにしか生肉は入ってこないんだよ。しかも高い。だからこの国では肉屋に関しては輸入品がほとんどで海からやってくるから加工済みが大半なのさ」
「なるほど...いやでも牧場とかって...」
まず思いつくのは牧場などによる人工的な施設だ。それなら保存状況とか気にしなくてもいい気がするが...
「ああ、昔はやってたらしいんだが...今は禁止されているんだ。なんでも、悪魔が出るのだと」
悪魔と聞いて一瞬背筋が凍った。そうだ、フィーアに出会ってから感覚がバグってきているが悪魔は本来なかなか危ない種族だ。ベルゼを見ていたらわかるが人間の常識は通用しないし強さも段違いである。
「ほえ〜じゃぁ加工済みの...そうだなぁ、干し肉をありったけくれるか?」
そう言いながら金貨を5枚ほど見せびらかす。うん、やはりこの古代遺物は便利だ。個数も含めて思い浮かべればしっかりとりだせる。しかも中で混ざりあうこともないっぽいから今度食べ物でも入れとくか。
「ほえぇ、お金持ちなんですね〜わかりました!ちょっと待っててください!」
店員さんが店の奥に引っ込み、少し経つと両手にも抱えきれないほどの干し肉を箱に入れてやってきた。
「金貨3枚で在庫がこれだけですね。もし良ければ台車などお貸ししますが…?」
「いえ、大丈夫です」
そう、俺にはこれがある!
そう心の中でドヤりつつ!干し肉をどんどん古代遺物の中で入れていく。
「マジックボックスですか!なかなかいい魔法装備持ってますね!」
...いやこれは古代遺物って言おうとしたが、踏みとどまる。たしか古代遺物は世界にふたつと無いものだ。あまり言いふらすのは良くない。
「まぁそういうことですね。では、ありがとうございました!」
干し肉を全て入れ、代金の金貨3枚を支払って店を出る。
「まぁまぁ手に入ったけど...まだ足りなさそうだなぁ」
そうしてレクスは各肉屋をハシゴすることになるのだった。
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というわけでこの街のほとんどの肉を買い占めた。ただやはり生肉はほとんどなかった。ほんの少しあったが、それもたまたま近くにいたらしいウサギ肉らしかった。これで足りるだろうか?
ちなみにこれのせいで各冒険者や家庭の間でしばらく肉の流通が極端に少なかったらしい。いやはや誰のせいだろうか。
「フィーア、これで足りそう?」
事前に伝えられていた路地裏へまわると、フィーアが美味しそうな表情で待っていた。そばには串焼きの串がまとめてある。なるほどそういうことか。
どうやらフィーア自身も金を持っていたようだ。
「んあ、おかえり...ってほとんど干し肉かぁ、これはちょっと時間かかるけど...まぁ行けそう」
そして早速準備に取り掛かる。
「反転...時間逆行」
フィーアがその権能を使うと干し肉が...特に変わりがないようだ。
「どゆこと?」
というか今更なんだがフィーアのそのスキルは一体何なのだろう。
「うん、成功だね。まぁ多分明日にでも全部生肉になってると思うよ」
らしい。フィーアによれば生肉の状態から今の状態になるかでかかった時間のおおよそ半分から5分の1くらいの時間が必要のようだ。
「なるほど、じゃぁ今は暇ってことか」
「んー、まぁそうなるね」
なるほどなるほど...
「じゃぁちょっと観光するか!」
「いいね!」
ついにやりたかったこと...観光をする時が来たのだ!
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とりあえず飯だ。たしかルーダルさんは飯が美味いって言っていたはずだ。まだこの国に入って肉しか見ていないので名物などいろいろ食べてみたいのだ。
「じゃぁまずは...有名な食い物でも食べに行くか」
実は肉を買っている時によく見つけていたのだ。その食べ物の名は...
「”黄昏フルーツの盛り合わせ”。この辺でしか採れないフルーツを使った料理らしい。噂によればなかなか癖のあるけど病みつきになるらしいぜ」
風の噂程度だが、そんなことが言われていた気がする。日本にいた頃の珍味といえばコオロギ食やら蜂の子やらあった気がするが、こっちではどんなものだろうか。
「へぇ〜。レクスは食べたことあるの?」
「いんや?これから初めて食べるけど」
まぁそりゃこの国も初めて来たしな。
「ほ〜ん...じゃあ出発しようか。この場所は特殊結界で隠しておくから心配しなくていいよ」
それならここは放置で良さそうだ。
「なら早速出発しようか!」
そしてレクスとフィーアは中央街へと行くのだった。