3-①
ロザリーがノワールクラスに編入して一週間が経った。
最初のときこそ厳しい視線を感じたものの、教師に紹介された後は皆親切で、ロザリーはそれなりに楽しく学園生活を送っていた。
不慣れなノワールクラスで困らなかったのは、リシャール殿下が常にロザリーのそばにいて、わからないことがあると教えてくれたのが大きい。
ノワールクラスにはブロンクラスにはない暗黙の了解も多く、家の関係を元にした生徒同士の力関係も複雑だった。けれどリシャール殿下が常に力を貸してくれたので、ロザリーは大きな失敗をすることなく済んでいた。
しかし、リシャール殿下が公務で欠席した時、ロザリーは自分がどんな場所に迷い込んでしまったのか思い知ることになる。
「ロザリー・フォートリエさん。ちょっとよろしいかしら」
ロザリーが休み時間、席で次の授業の準備をしていると、黄緑色のボブカットの少女に声をかけられた。ロザリーによく困っていることはないかと声をかけてくれる感じのいい生徒だ。
しかし、今の彼女は普段の朗らかな表情とは違い、とても冷たい目をしている。
「はい。なんでしょう?」
ロザリーは少し怯みながらも言葉を返す。見ると、彼女の後ろには数人の少女が並んでいた。皆、一様に厳しい顔つきでロザリーを見ている。
「ここでは話せませんから、休憩室まで来て下さる?」
「え……? もう授業始まっちゃいますけど……」
「あら、そんなこと気にしなくていいですわ。教師たちは誰もデルフィーヌ様に逆らえませんもの。ね! デルフィーヌ様!」
黄緑髪はそう言って、後ろを振り返る。数人の少女の中から一際目立つ、長い紫がかった黒髪のとても美しい少女が顔を出した。彼女は整った顔に冷たい笑みを浮かべてロザリーを見据える。
「ロザリー・フォートリエさん。授業よりもずっと大事な話がありますの。来てくださいますわね?」
「えっと……」
「ね?」
「は、はい……」
黒髪の少女の静かな迫力に、ロザリーは思わずうなずいてしまう。そして重い足取りで彼女たちの後をついていった。
一体何の話をされるのだろう。明るい話ではないことは間違いない。ああ、せめて人のいる場所で話してくれればいいのに……。
連れて来られたのは、校舎の奥にある、休憩室の中でも一番敷居の高い場所だった。
以前リシャール王子に連れられて、ロザリーも少しだけ入ったことがある。ここはノワールクラスの生徒の中でも、位の高い家の生徒しか利用が許されない場所のはずだ。
ロザリーが落ち着かずに辺りを見回していると、黒髪の美少女、デルフィーヌが口を開いた。
「あなた一体どういうつもりですの?」
「え?」
「あら、とぼける気? リシャール様にべったりくっついて、一体どういうつもりか聞いているの」
デルフィーヌは氷のように冷たい目でロザリーを見ながら言う。周りの少女たちも厳しい目つきで彼女の言葉にうなずいている。ロザリーは目をぱちくりした。
「ええと……、リシャール殿下は編入したての私が困らないようにそばについていてくださっているだけで……」
「そんな言い訳が通用すると思っているの? リシャール殿下は、このアルノワ公爵家のご令嬢であるデルフィーヌ様の婚約者なのよ!!」
「えっ?」
黄緑髪の少女が真っ赤な顔で会話に割って入った。ロザリーは目を見開いてデルフィーヌを見る。彼女は冷たい顔でロザリーを見ていた。