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1-③

「今めちゃくちゃ後悔してる。昨日のパーティーだけでも出席するべきだった」


「そうね。これからは出た方がいいわよ。私みたいにノワールクラスの生徒から突然求婚されるなんてことがあるかもしれないし! レオンは見た目はかっこいいから、きっと有名貴族のご令嬢たちの目を引くはずよ」


 とんちんかんなことを言って楽しそうにしているロザリーを見て、レオンは深い溜め息を吐く。そして真剣な顔になって言った。


「とにかく、今からでも王子に断れ。断言するけど、お前は絶対にノワールクラスに行ったら泣くことになる」


「わからないじゃない」


「わかる。お前がノワールクラスに適応できるはずがない」


 レオンは迷いなくそう断言する。ロザリーはまったく納得がいかなかった。


「いや。私は断らないからね。せっかく夢のシチュエーションが実現したんだから」


「冷静に考えろ。十六歳まで普通に生きて来たお前に未来の王妃なんて務まるはずがない。大体、リシャール王子は本気で言ってるのか。王子には──……」


「ロザリー! ロザリー・フォートリエ嬢はいるか?」


 レオンの声を打ち消すように、堂々とした声が教室中に響いた。ロザリーが声のした方に目を向けると、扉の向こうに従者を引き連れたリシャールが立っている。ロザリーはすぐさま彼のほうに駆けていった。


「リシャール殿下!」


「ロザリー、会いたかったよ。準備が整ったから早速迎えに来たんだ。行こう。君は今日からノワールクラスの生徒だ」


「まぁ、嬉しいです。殿下」


 ロザリーは花のような笑顔を浮かべて言う。リシャールはその顔を見て、にこりとうなずいた。楽し気な二人をよそに、教室は生徒たちのざわめきで包まれている。


「お待ちください、殿下」


 困惑しながらも王子とロザリーに近づこうとしない生徒たちの中から、一人レオンが歩みでてきた。リシャールは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐさま感じのいい笑みを浮かべてレオンを見た。


「何かな?」


「失礼ながらロザリーは王家に嫁げるような器ではありません。夢見がちで大抵ぼんやりしていますし、しょっちゅうドジを踏みます。結婚すればいずれ殿下を困らせることになるでしょう。避けたほうが無難かと」


 レオンは真面目な顔でリシャールに忠告する。真剣な様子で悪口のような言葉を吐かれたロザリーは思い切り顔をしかめた。


(ひどいじゃない。レオン。リシャール殿下にむかってなんてことを言うの……!)


 しかしレオンの言葉を聞いてもリシャールは表情を崩さない。そしてロザリーに目を向けると、優しい笑顔で言った。


「君は大らかで愛らしい性格なんだね。ますます好きになった。確かに突然王家に嫁ぐのは難しいかもしれないが、それは卒業するまでにノワールクラスで妃としての技量を身に着ければいいだけの話だ。私はぜひ君に来て欲しい」


「リシャール様……!」


 ロザリーはリシャールの寛大な言葉にすっかり感動してしまった。見つめ合う二人を、レオンは苛立たしげな目で睨んでいる。


「……殿下、話を聞いてからとても気になっていることがあるのですが」


 レオンは感情を押し殺したような低い声で言う。


「何だい?」


「殿下はロザリーを本当に妃にするつもりなのですか? 殿下には既に……」


「ああ! すまない。準備の関係で九時までにはロザリーをノワール館まで連れて行くことになっているんだった。質問はまたの機会にしてくれるかな?」


 レオンが言葉を発しようとした瞬間、リシャールに遮られた。


「ちょっ、待ってください。殿下! 大事なことなんです!」


「行こう。ロザリー。ノワール館へ」


「はい、リシャール殿下!」


「おい! ロザリーも待て!! そいつには──……」


 リシャールはレオンの言葉から逃げるようにロザリーの手を取って教室から連れだそうとする。ロザリーも手を引かれるままついて行った。


 後ろからはレオンのきゃんきゃんわめくような叫び声が聞こえて来たが、ロザリーは振り向かなかった。王子様に連れ出されるなんて物語の主人公みたいだわ、とすっかり非日常的なシチュエーションに胸躍らせていた。

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