1-②
「ロザリー、大丈夫なの……? あんなこと言っちゃって……」
王子がお付きの者に引っ張られてロザリーの元を離れると、すかさず友人が近づいてきた。ロザリーは嬉しそうにうなずく。
「ええ! だってとっても嬉しかったもの! 私、ああいうシチュエーションに憧れてたの。みんなの前で王子様に求婚されるなんて!」
「憧れと現実は違うでしょ! 一体どうする気? 殿下のあんな突拍子もない申し出に乗っちゃって。はいと答えた以上、今更撤回できないわよ」
「あら。撤回する気なんてないわ」
「まったくロザリーは……! ご両親にも相談せずに勝手に決めちゃってどういうつもりなの」
友人は呆れ顔でロザリーを見ている。しかし、ロザリーには気にならなかった。
ロザリーはもともと夢見がちな少女だ。
小さな頃に買ってもらった絵本を今でも大切に持っており、その中で姫君が王子様からプロポーズされる場面を繰り返し読んでは、自分にもこんなことが訪れないかと夢見ていた。
それが想像していた通りのシチュエーションで、誰もが振り向くような美少年の王子に求婚されて、すっかり舞い上がってしまったのだ。
「確かにロザリーは綺麗だけどね……。でもそれだけで妃になってほしいだなんて殿下も一体どういうつもりなのかしら」
友人はロザリーを見ながら怪訝な顔で言った。
友人の言う通り、ロザリーはとても愛らしい少女だ。ミルクティー色の柔らかな髪に、常に涙で潤んでいるようなキラキラした黒い目。桃色の唇には、いつも楽しそうな笑みを浮かべている。しかし、愛らしいだけで妃が務まるはずがない。
「心配しないで! 私うまくやってみせるから!」
「うまくいくのかしらね……」
友人はすっかり困惑していたが、ロザリーの方はこれからの未来に胸を躍らせるばかりだった。
***
「おい、ロザリー! どういうことだ!? パーティーでリシャール王子からプロポーズされたって!!」
「あっ、レオンも聞いた? そうなの! 私、殿下に妃になってほしいなんて言われちゃって」
教室に着くなり、ロザリーの幼なじみのレオンは怖い顔で言った。しかしロザリーは彼のそんな様子を気にも留めず、頬に手をあてて嬉しそうに答える。レオンはわなわなと拳を振るわせた。
「ああ、しっかり聞いた。お前、殿下のプロポーズを断らなかったどころか、ノワールクラスに来てほしいと言われてあっさり行くと答えたそうだな。一体どういうつもりだ。上位貴族たちに混じって恥でもかきたいのか?」
「やだ。そんなわけないじゃない。私は新しい場所で、王子様や有名貴族の方たちと仲を深めるの」
「何言ってるんだよ。いつもぼんやりして俺がいないと何もできないくせに」
レオンは眉を吊り上げて怒っている。ロザリーはなぜそこまで言われなければならないのかわからず、不満げに言った。
「そんなことないわ。私はレオンがいなくてもやっていける。レオンがいつも勝手に口出ししてくるんじゃない」
「お前は自分のとぼけ具合に気づいてないんだ。ああもう、なんで俺のいないところでそんなおかしなことになってるんだよ……」
「だってそれはレオンがパーティーをサボるから……」
ロザリーが言うと、レオンの顔が苦々しく歪んだ。レオンはああいった集まりが嫌いで、昨日のパーティーも「ノワールクラスの生徒も集まるパーティーなんて冗談じゃない」と欠席していたのだった。