14.デート本番
桃ちゃん曰く不可抗力で原さん達に色々と知られてしまった私と詩音先輩の関係。
けれど原さん達はただ話を聞くだけではなく、とても応援してくれた。
具体的に言うと、洋服。
詩音先輩に宿題を告げることで頭がいっぱいいっぱになってしまって、そこにまで気が回っていなかった。
絶世の美男子だなんて言われるほど顔の整った詩音先輩と歩くのだから、目いっぱい可愛くした方が良いと助言をくれたのが原さん。
ならばと、どういう服が良いのか雑誌を見せてくれたのが三宅さん。
不器用すぎる私でも簡単にできる髪型を教えて練習に付き合ってくれたのが蒼井さんだ。
桃ちゃんは一緒に服を買いに行ってくれた。
「詩音のためじゃないからね! 私が先にデートするって事実が欲しかっただけだから!」
なんて少し拗ねていたけれど。
とても可愛くて優しくて、やっぱり私には勿体ないくらい素敵な友達だ。
皆に背中を押してもらって、何とか私は待ち合わせ場所に立っている。
初めてのワンピース、初めてのパンプス、初めての待ち合わせ。
お小遣いをたくさん消費して、勇気をたくさん使ってここにいる。
ドキドキそわそわしてしまって約束より1時間も前に来てしまった。
待ち合わせ場所として有名らしい駅前の噴水広場。
隅に座れる場所があって、腰をかける。
やっぱり中央にいるよりはこうして隅っこにいる方が私は落ち着いた。
「ねえ、あの人めっちゃカッコ良くない?」
「うわ、ヤバ……芸能人?」
「というか日本人じゃないよね? 目、色違うし」
「ハーフかな?」
ざわざわと人の集まる広場が揺らぐ。
詩音先輩のことだと、すぐに気付いた。
まだ約束の時間まで30分以上もあるから人違いじゃないか、なんてそんな冷静な思考は飛んでしまう。
思わず立ち上がってぐるぐると見回す。
ぼやけた視界ではどうしたって誰が詩音先輩なのかを判別できない。
それでも早く見たくて急いてしまうのは、よっぽど楽しみだったんだろう。
諦め悪くきょろきょろと見回す私に、ようやくそれっぽい人影が近づいて来るのが分かった。
白いシャツに、黒いズボン。
とてもシンプルな服装だけど、すらっとした長身にすごく似合っていてカッコいい。
……きっと、似合っていなかったとしてもカッコいいだろうけれど。
陽の光に当たった白いシャツが尚更きらきら反射して詩音先輩が輝いて見えた。
「理子」
詩音先輩はすぐに私を見付けてくれたようで、真っすぐに走って来てくれる。
やっと顔が見られる距離になって、逆に私は少し恥ずかしくなって俯いてしまった。
私服姿の詩音先輩。
また新しい詩音先輩に会えたことが嬉しい。
けれどそれ以上に、私には少し刺激が強かったみたいだ。
普段と雰囲気の違う詩音先輩がカッコよくて、カッコ良すぎて戸惑ってしまう。
これ以上カッコよくなられてしまったら、私が沸騰して溶けてしまう。
そんな考え方がバカみたいだとは思うけれど、それでもけっこう本気で考えてしまうくらい詩音先輩は眩しかった。
だって、詩音先輩が笑うのだ。
ほっとしたように目を緩めて。
未だ0.5の視界の私でも分かるくらいに。
これでドキドキしない方が絶対におかしい。
真っ赤になってしまって、うまく顔をあげられない。
照れてしまって言葉が出てこない。
そうして固まっていると、不意に自分の手が持ち上がった。
驚いて視線を手に向けると、詩音先輩の手と自分の手が繋がっている。
「遅れてごめん」
そう言われて慌てて首を振った。
「あ、あの! 私が勝手に早く来てしまって」
「……いつから、いた?」
「えっと、30分くらい前……から」
「…………次は2時間前に来るね」
「え? だ、だめですよ。それは待ち合わせ時間の意味が」
「だって理子を30分も1人にした、から」
「……詩音先輩。ありがとう、ございます」
休日の詩音先輩も優しい。
しゅんと落ち込んだ様子の先輩に、少し心が解れる。
やっぱり可愛い、のかもしれない。
きっとそう言ったって喜ばれない事は分かっているから内緒だけれど。
ふっと笑った私に、詩音先輩が笑い返してくれる。
「やっとこっち向いた」
「あ、えっと、ごめんなさい?」
「ううん。勝手に拗ねてただけ」
「拗ね……?」
「けん制、30分も出来なかった上に、顔じっくり見れなかったから」
ぎゅっと手の力が増して、言葉が少しゆっくりになって、私の全身が熱くなる。
ボンッと音を立てて爆発してしまいそうだ。
「め、眼鏡、ありがとうございます。一緒に行ってくれて」
「全然。宿題、だから」
「はい」
「まあ、正直ご褒美だったけど」
「はい?」
「さ、行こうか」
手は繋がれたまま。
人からの視線も向けられたまま。
私達は事前に話して決めていた眼鏡屋さんへと向かって歩き出す。
「眼鏡、良いのあると良いね」
「は、はい。私に何が似合うかな」
「たくさんあると思うよ。たくさん」
「ありがとうございます」
ぽつぽつとやっぱり私達の会話は途切れがちで、沈黙も多い。
握り合った手は少し汗ばんで滑りそう。
デートだと意識してしまえば、やっぱり緊張でいつも以上にちぐはぐな私。
けれどそんな時間の全てが楽しいと思えるのだから不思議だ。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「この子の眼鏡、探したいんですけど。度数から測ってもらえますか?」
「ありがとうございます! ではこちらへどうぞ」
ほどなくしてお店に着くと同時に、その手は離れる。
詩音先輩が先導して店員さんと話してくれた。
その間、私はぼんやりと離れた手を持ち上げて見つめる。
もう少し、繋いでいたかったな。
ものすごく我儘な考えが浮かんで慌てて振り払った。




