第四十九話 国宝級の紙切れと邪教リターンズ
獣人の国ガランハッドの王レオナルドと統率者討伐で協力することを約束し、一日が過ぎてからの翌朝、俺たち四人は玉座へ来るようにレオナルドから指示を受けた。
「いったいなんの話ですかね? 心変わりしてやっぱり協力しないとかだったらさすがのボクも怒りますよ!」
「それに関しては大丈夫じゃねえか? 国の主が一度言ったことを簡単に反故にするとは思えない。昨日の話し合いでもレオナルドからはその信念みたいなものを顕著に感じたぜ」
「あわわわっ! 呼び捨てはまずいっすよマコトさん! レオナルド様ッス! マコトさんも言ったように相手は国の主っすよ!?」
それもそうだな、軽率だった。以前の俺ならヴィークに言われずとも敬称を付けていたはずだ。これもガイツの侵食による影響なのだろうか。
ガイツは力を使うほど自身に近付くと言っていた。前回の統率者戦で雷操作を使いすぎた俺はより一層ガイツへ近付いているのかもしれない。
「気を付けないとな……」
それからは会話も少なく、俺たちは静かに玉座へと向かった。改めて辺りを見回す。獣人の国ガランハッドは、これまで訪れたどの国や町とも異なる雰囲気だ。
見慣れない物に目を惹かれてキョロキョロとするその姿は田舎者丸出しだろう。そんなことをしていると気が付けば既に玉座へ辿り着いていた。
昨日と同じように国王レオナルドがドッシリと絢爛な玉座へ腰掛けていた。
「よくぞ来たッ! 待っていたぞッ!」
「それで王様、話ってなんだ?」
「ちょ、ちょっとマコトさん!? 無礼っすよ! もっと丁寧にするッス!」
ヴィークの言った通りに敬称は付けたのだが、まだダメらしい。もっと丁寧にしろと叱られてしまった。協力関係なんだから堅苦しくない方が良いと思うんだけど。
「ガハハハハハッ!! 商人よッ! 気にすることはないッ! 我輩たちは共に苦難を乗り越え合うのだからなッ!」
「レオナルド様がそう言うのでしたら……わかったッス!」
レオナルドの言葉もあって、今この場にいる者は対等になった。目的を果たすことが最優先であり、そこに主従はいらない。
「おっと、うぬらを呼び出した用件であったなッ! ……ここ最近、獣人が誘拐されるという事件が頻発しているッ! うぬらにはその手掛かりを探ってほしいのだッ!」
「獣人族が誘拐されている……ですか。そういえばガランハッドへ向かう途中でリオンさんを助けたんでしたっけ。……もしかしてこういったことが他にも多発していると?」
「小さな騎士よッ! その通りであるッ! 今までは手掛かりが一切無かったため動けなかったが、娘のリオンが未遂とはいえ被害に遭ってしまったとなれば国の主として……いや、父親として手を尽くさないわけにもいかぬだろうッ!」
玉座の間にリオンの姿は無い。こんなこと被害者であるリオンの前で話せるわけもないか。
「小さな騎士っ……!? ま、まあ良いです……どうせボクはチビで矮小な存在ですからね……」
イーズは身長のことを気にしているのか、レオナルドに小さな騎士と言われたことが不服なようだ。とはいえ、イーズの体躯はお世辞にも大きいとは言えない。百四十センチ後半くらいが関の山だろう。
「けど誘拐の犯人だった盗賊団の長であるクマキチは死んだ。もう誘拐が起きる心配は無いんじゃないか?」
「我輩もそう考えていたッ! しかしッ! 昨日の夜に再び誘拐事件が発生したのだッ! 他の獣人族が住む国でも同様の被害が起きている聞くッ! それに発生頻度や被害者の数から考えても組織的な動きで間違いないであろうッ!」
事態は俺たちが思うよりも複雑に入り組んでいて、ややこしいことになっているらしい。
「組織的な動き……まさか!?」
「ええ、マコトさん。きっと僕も同じことを考えています」
「ほう……。うぬら、さては何か知っているな?」
「今回の件と関連性があるのかは不明だ。けど思い当たる節はある。誘拐事件なら人族の国でも起きてたんだ」
そう、教国でも同様の事件が起こっていた。そして俺とシロはジークから教国で発生していた誘拐事件の調査および、その犯人である教国に巣食う邪教の壊滅を依頼されていたことがある。
「うぬらに問うて正解だったようであるなッ! 解決しろとは言わんッ! ただこの国を見て回り、気になったことを報告してくれれば良いッ! どうだッ! 頼まれてはくれまいかッ!」
レオナルドが統率者の討伐に協力してくれるため、戦力の心配はしなくても良くなった。つまり、ガランハッドで出来ることはもう何も無いのだ。引き受けても問題はない。
それに、もし誘拐事件が邪教絡みなのだとすれば、俺にも無関係ってわけじゃない。
「冒険者として報酬分は働かないとな。やるぞ、シロ」
邪教関係者の話が本当ならば、教国で誘拐された者は既に生贄となって殺されているはずだ。俺は助けられる立場にいた。けど助けられなかった……いや、助けなかった。掴めたはずの腕を掴まなかったんだ。
「報酬と依頼の難易度は同等でなければいけませんからね。もちろん受けましょう」
「そういうことならオイラも協力するッス! 御者としての責任があるッス!」
「邪教の件なら騎士団にも報告が来ています! 騎士の誇りに懸けてボクも尽力させていただきますよっ! ……まだ見習いですけど」
偶然にもこの場には共に邪教の調査へ赴いた三人が揃っている。そこへイーズの力も加わるとなれば以前のような失敗はしないはずだ。
「勇ましきうぬらに敬意を表するぞッ! では早速、調査に取り掛かってもらおうッ!」
そういうと、レオナルドは懐から一枚の紙を取り出し、ご機嫌な様子で目を細めながら俺へ手渡した。
その紙の中央には太陽のようなたてがみを生やした獅子の模様が描かれており、左上にはレオナルド=ガランハッドの名が記されていた。
「それは国王である我輩の名のもとに全てを許すという許可証だッ! 言ってしまえば我輩と同等の権力を一時的に授けるということでもあるッ! うぬらはそれに値する者だと判断したッ!」
「つい昨日まで他人だった人間を随分と信用するんだな……」
「……娘の危機を救ったッ! 動機としては充分であろうッ!」
「家族……か。……なら俺もそれに応えるよ」
一時的にガランハッド国内限定で国王レオナルドに次ぐ権力を手にした俺たちは、玉座の間から立ち去ると城下町へ繰り出した。
「しかし何から手をつければ良いのでしょうか……。ボクたちはガランハッドに特別詳しいわけでもありませんし……」
「情報を探るなら一般の国民よりも店を構えている商人の方が色々と知ってるッス!」
「本業が言うなら間違いねぇな。片っ端から店を回って情報を集めるぞ!」
獣人族と人族は不仲である。なので人族の俺たちが質問をしても素直に答えてくれるか疑問だ。それにレオナルドから与えられた許可証は一枚。よって手分けをして情報収集を行うことが出来ないのだ。時間は掛かるが、これが最も確実な方法のはずだ。
それから俺たちは四人で固まりながらガランハッドを練り歩き、情報収集に勤しんだ。店を構えている店主を中心に尋ねているが、やはり邪険に扱われてしまう。
そんな時は国王の権力の出番だ。あの許可証を見せると渋々だが知っている情報を話してくれる。その情報が確かなものであるかは不明だが、今の俺たちはそれに縋るしかない。
「……ふぅ、かなり歩き回ったな」
「ええ、さすがに少し疲れました」
「というか獣人族の皆さん、ボクたちのこと嫌いすぎですよ!」
「仕方ないっすよ……魔王だけじゃなくて誘拐事件だって起きてるっすから。不安の種が多くてみんなピリピリしてるッス!」
加えて国民は誘拐犯の情報を一切知らないらしく、人族が犯人だと決め付けている者も多かった。というよりも国民全員がそう考えているようだった。けれど、その気持ちも理解できる。同族が犯人などと考えたくはない。
「分かったのは誘拐の起こる時間は夜が多いってことくらいか」
一目につかないよう警戒しているのなら、視界が制限される夜間がベストなタイミングである。教国で起こった誘拐事件も夜の発生が多かった。
「あっ! そういえばクマキチたちは誘拐したリオンさんをどこへ運ぶつもりだったのでしょうか?」
「ああっ! すっかり失念してたぜ!」
クマキチが率いる盗賊団の馬車は進んできた方角から考えても獣人の国ガランハッドを確実に通っている。リオンたちを誘拐してどこへ連れて行くつもりだったのか。それは結局のところ分かっていない。
粗方の聞き込みを終える頃には砂漠の熱が冷め始めていた。もうすぐ夜になるのだ。レオナルドから与えられた許可証のおかげで聞き込みが難航することもなく、かなりスムーズに行動できたように思う。俺たちの人望では三日と掛かりそうな仕事だった。
「それじゃ宮殿に戻るか。もう得られる情報は無いだろ」
「それよりもボクはお腹が減りましたっ! 空腹ですっ!」
「さっき食べたばかりだろうがッ! お前は一日に何回の食事を摂れば気が済むんだ!」
イーズは一時間に一回は必ずと言って良いほど何かしらを口に入れていた。屋台があれば立ち止まり、懐から金を出しては買い食いに精を出す。それを非難するつもりはないが、限度ってものがあるだろう。
「誘拐事件の情報に加えて、統率者についての情報も得られたのは幸運でした」
俺たちが得た情報によれば、南に現れた統率者はトロール種であるらしい。しかも王都で戦ったオーク種の統率者と同じく、黒い表皮に覆われているという。
光輝たち勇者が相手にしている統率者の特徴は知らないが、もしかすると統率者は黒色が共通点なのかもしれない。
「心配なのはトロールがオークよりも上位の種族ってことッス! オーク種の統率者でも凄まじい強さだったと聞いたッス! それよりも上ってなると……震えてくるっすねぇ!」
最終的に黒いオークを倒せたのは光輝たち勇者の力があったからである。覚醒したシークが黒いオークを圧倒していたのは事実だ。けれど、無傷で復活を果たした黒いオークを前にしてシークの肉体は限界だった。
光輝たちが来てくれなければ俺たちはあの場で全滅していたのだ。
「次は始めから全力だ……出し惜しみなんてしてやるものか……」
次の戦いでは始めから百パーセントの力で統率者を殺しにかかると俺とシロは決めている。リーダーを潰せば残りはなんとかなるはずだ。
統率者の新たなる情報を手に入れた俺たちは更なる脅威を前に気を引き締める。そして同時に僅かな不安も胸に抱いていた。




