第四十二話 全員の帰還と勇者の決断
「ふい~、やっと帰ってこれたな」
後発の俺たち五人はヴィークのおかげで夕日が顔を沈める前に、王都へ帰還することが出来た。当のヴィークは俺たちを王都へ送り終えると、レガーを連れて帰ってしまった。どうやらレガーの方が限界だったらしい。
「ボクたちが野営地にいたのは一週間くらいの短い時間でしたけど、なんだかとても長く滞在したような気分です」
イーズたちよりも後から来た俺も同じような心情だぜ。いつ終わるとも知れない地獄の中で、常に神経を尖らせていた。
持久戦ということもあって雷轟電撃格闘術は使えないし、黒犬と白猿が無かったら本当に死んでいただろう。
現在も俺の隣に無表情で立っているシロだって、今回ばかりはきっと俺と同じようなことを考えているはずだ。
「帝国も酷いよね~、いくら王都と協定を結んでるからってこんな捨て駒みたいなマネするなんてさ~」
「まったくです、僕とマコトさんだっていつ死んでいたか……。」
さすがのシロも今回の件は疑問に感じているらしい。まあ、無理もないか。
「それでは王城に行きましょう! ボールドさんやシークさんはそこに医務室に運ばれているはずです」
智恵美さんが俺たちを先導して前を歩く。城の医務室か……。俺はあまり行ったことなかったな。実戦的な訓練が始まる前に城を抜け出したため、訓練中に怪我をするということがなかったのだ。
「お疲れ様です、今戻りました」
「おかえりなさいませ、勇者チエミ様。お話はコウキ様とヒジリ様より伺っております。どうぞお通りください」
王城の兵士は俺たちがいるにも関わらず、城の内部へ通した。ちょっとザル過ぎやしないか? きっとこれが勇者の信用というやつなのだろう。
兵士と俺は一度だけ目が合った。しかし俺が城を失踪したことなど忘れているかのような態度だ。これはこれでありがたいのだが、なんだか少し寂しいぞ。人間とはワガママなものである。
王城に入ることが出来た俺たちは智恵美さんの案内で医務室へ向かう。医務室は訓練場の近くにあるようで、過去に俺も何度か通った道を歩いている。
「着きました、ここです」
医務室は他の部屋の扉と違い、白く綺麗な両開きの扉になっていた。智恵美さんはその扉を開くと中に入った。俺たちもそれに続くように中へ入る。
「あっ、みんな帰って来たんだね!」
医務室のベッドの横に置かれた椅子に聖さんが座っていた。俺たちの姿を見ると安堵したように息を吐く。
「二人なら無事よ、命に別状は無いわ。……まあ、あたしはほとんど何もしてないけどね」
「とは言いつつも、ボールドさんに包帯を巻いたのはマリアさんだけどねっ! 凄く手際が良いから助かっちゃった!」
「ちょ、ちょっと! やめなさいよ!」
シニーたちには強気なマリアだが、聖さんには弱いようだ。顔を赤くしてプルプルしている。
「で、二人のことだけど……。きっとシークさんは明日中に目を覚ますはず。……でもね、ボールドさんの方は正直なところ分からない。シークさんの手だって魔術的な力が込められているのか、治せなかった」
聖さんは横で眠っているボールドさんとその隣のシークを申し訳なさそうな表情で見つめている。
「聖女さんが気に病む必要はねえ、教官の命があるのはあんたのおかげだ! それに仇なら討ってもらったぜ!」
「シニーの言うとおりです。あの場にあなたたちが来てくれなければ、ボクらだって危なかったんです……」
黒いオークが動き出す頃には俺とシロも切り札を使える余力なんて残っていなかった。黒いオークを圧倒していたシークも魔王の策略によって瀕死になってしまった。
光輝たちが救援に来てくれなければ間違いなく全滅していたのだ。
「なあ、聖さん。光輝はどこにいるんだ?」
医務室に光輝の姿は見当たらない。光輝たちと俺たちより先に王都へ帰還した聖さんなら何か知っているはずだ。
「あ~……王様のとこだよ、私たちが召喚された場所ね。王様に呼び出されちゃって……。それと聖で良いよ、光輝くんと智恵美もそう呼ぶし」
「わ、私のことも智恵美で大丈夫ですっ!」
「そうか、じゃあそうするよ」
そんなことよりも今は光輝が心配だ。ただの状況の報告とかなら良いが……何か胸騒ぎがする。
「実はね、私たち……勝手に王都を抜け出して誠くんたちのところに行っちゃったんだよ。光輝くんが呼ばれたのはきっとそれかも」
胸騒ぎの正体はそれか。あの作戦は王都へ進軍している大量の魔物を少しでも削るためのモノだ。全滅させるためじゃない。というか出来るなんて考えてもいないのだ。
だから勇者の安全のためにも、あの場に光輝たちが出向くことは有り得ない。三人全員なら尚更だ。まあ、そのおかげ俺たちは助かったんだが……。
「あっ、みんなもう帰って来てたんだね」
医務室の扉を開けて光輝が中に入ってくる。その表情は少し疲れているようにも見えた。
「おう、さっき帰ってきたとこだ。それよりも王様に呼ばれたんだってな……」
「ああ、ちょっとね……別に大したものじゃないよ。勝手な行動は慎んでくれみたいな感じの話だったからさ」
勇者たちは魔王を倒すための希望だ。そりゃ王様も困るよな。
「素直に聞き入れるつもりは無いけどね。あんな人の指示で動くつもりはさらさらない。あの人は誠が失踪した後……何もしなかった」
俺が城を抜け出した後に一悶着あったらしい。光輝は随分と王様を嫌っているようだ。あいつは人の悪いところよりも良いところを見ている。そんな光輝が誰かを嫌いになるなんて珍しいこともあるものだ。
「じゃあ俺と行動の指針は同じなんだな。誰かの指示で動いてちゃ助けられる命も助けられない」
もちろん、一番の目的は光輝たちを日本へ帰すことだ。けど可能ならばエルドラの人間を死なせたくはない。それがこの世界で助けてもらった人に出来る唯一の恩返しだろうから。
「誠ならそう言うって思ってたよ。そうだね、それなら僕たちと行動するよりも広い範囲を動けるかも」
俺の冒険者として行動するということに納得してくれたようである。蟠りを残すよりも、お互いに納得のいく別れ方なら心が軽くなるってもんだ。
「とりあえず今後の方針を立てませんか? 無事に帰還できたとはいえ、魔王の侵攻は始まったばかりです。それにボクたちは五匹存在する統率者の一匹を倒したに過ぎません」
そういえば統率者って五匹いるんだっけな。カインさんもそんな感じのことを言っていたような気がする。
「あんな魔物が残り四匹……。しかも統率者ってくらいだから今回みたいに大量の魔物を率いてくるよな。……はぁ……嫌になるぜ」
シニーの溜息はもっともだ。俺だってまったく同じ心境なのだから。
「そ、それに統率者は世界各地で同時に現れます。今こうしている間にも被害は出ているでしょう」
智恵美たちは勇者だ。もちろん統率者の存在も把握している。俺なんてここ最近で統率者の存在を知った。我ながら恥ずかしい話である。
「よしっ! 僕たちは手分けして世界中に散らばるよ。情報が入り次第、現地へ赴こう。騎士団の方は上からの指示を待ってほしい、勝手に動くと規律違反になるらしいからね」
無駄足になっても意味がないからな。統率者が現れた場所の情報が出るまで無闇に動かない方は懸命だろう。
騎士団の方もジークが指揮を執ってくれるなら何も気にすることは無いのだが……。まぁ、あいつはあいつで忙しい。無理な話か。
「でも良いのかよ、光輝たちは勇者だ。そんな自由に動けんのか?」
「それなら安心してよ! 僕は王都とは縁を切ることに決めたからさ、これでどこへだって行ける」
光輝が医務室へ戻って来た時、妙に疲れていたのはこの件で揉めたのかもしれない。
「聖も同意してくれてる、智恵美はどうする? これが簡単な問題じゃないのは僕だってよくわかってる。無理に付き合う必要は無いよ」
人々を守るために光輝は難しい道を選んだ。そうだ、光輝のこういったところに俺は憧れた。振り返ってみれば、俺の選択には常に光輝が姿があった。
光輝ならこうする、その考えが俺の行動に対するコンパスのようなものになっていたのかもしれない。
「……今回の戦いで私たちの力がどこまで通用するのか把握できました。光輝くんの案に私は賛成です。あ、でも皆さんとは暫く会えなくなるわけですか」
勇者組は今後の方針を固めることが出来たようだ。そうなると必然的に俺たちの行動も決まってくる。




