第四十話 順番決めと伝説の冒険者
「マコトさーん、魔石の回収終わりました」
光輝たちと話しているとシロとイーズがこちらに戻ってくる。
「おっ、早かったな。いやー、にしてもボールドのポーチ借りて正解だったなっ!」
「いくら入れても重さが変わらないので助かりましたよっ! ですが途中で重量制限になってしまったのか、五百匹中四百匹の魔物が限界でしたね。入団試験で初めてこのポーチを見た日からどれだけ入るのか気になっていたので、ボクの人生における不思議が一つ解消されました」
「充分過ぎるぜ。あとでボールドにはたっぷりと礼をしねぇとな!」
俺はシロとイーズに魔石の回収を頼んでいたのだ。さすがに普通の麻袋でこの数の魔石を回収しては骨が折れるなんてものじゃないので、その際にボールドの異空間ポーチを少しだけ拝借することにした。
「……っ! 伝説の冒険者アキヒロッ!?」
シロの姿を見た瞬間に突然、智恵美さんがらしくない叫び声を上げる。聖さんと光輝も智恵美さんの叫び声に慣れていないのか少しだけ肩を震わせた。
「きゅ、急にどうしたの……?」
光輝が心配そうに智恵美さんに視線を向ける。当のシロは状況が把握できず無反応だ。
「……?」
いや、これは自身が言われたなどとは思っていないのだろう。
「す、すみません……取り乱しました。そこの白い人が伝説の冒険者アキヒロに瓜二つだったもので……。いえ、すみません忘れてください」
伝説の冒険者アキヒロ……か。俺も王城の図書室で知識を蓄えている時にも何度か出てきた名前だ。
「詳しく聞かせてくれ、何かヒントになることがあるかもしれない。……実を言うとな、シロは記憶喪失で自分の過去のことを何も覚えてないんだ」
アキヒロの顔を俺は知らない。だが、智恵美さんは知っている様子だ。その智恵美さんがシロをアキヒロと断定するように叫んだ。
今まで考えたことも無かったが、白髪と灰色の瞳などを抜きにして観察してみると、シロの顔が日本人チックに見えなくもない気がしてくる。
「シロさんの名前って誠が考えたの……? なんと言うか……ペットじゃないんだからさぁ」
光輝が何か言っているが知ったことではない。俺に名付けを任せた周りの連中が悪いんだ。
「こほんっ……。まずアキヒロという名前は確実に私たちと同じ日本人です。ですが、私たちのように勇者として召喚されたのなら伝説の冒険者ではなく、伝説の勇者と呼ばれるはずです」
なるほどな。考えたこともなかったけど確かにそうだ。俺のように城を抜け出して冒険者業に勤しんでいたなら話は別だが、アキヒロ以外の名前が出てこないことを考えると、単独で召喚されたことになる。なら、国からのサポートも絶大なはずだ。勇者に専念しない理由が無い。
「そこで、私は一つの可能性を考えました。……勇者として召喚される以外にもエルドラへ行くことが出来るという可能性です」
それを聞いた瞬間、俺の脳内を電流が走ったように痺れた。なぜ今まで思いつかなかったんだ。
「違う方法で来れるなら違う方法で帰れるということか……」
「そういうことです。その可能性に気付いてからアキヒロの文献を片っ端から読み漁りました。ですが、どれもおとぎ話染みた内容の物ばかりで目ぼしい情報は皆無でしたけどね。私がアキヒロの顔を知っているのは文献にアキヒロの精巧な肖像画があったからです」
望むような情報は得られなかったのか。まあ、俺がアキヒロを知ったのも暇潰しに読んだ冒険譚の主人公がアキヒロだったからだしな。
「これが全てですね。アキヒロの肖像画は王都にありますから、気になるようなら王城へ来てください」
「結局、戻るしかないわけか……。でも、良いタイミングかもな。魔王たちと本格的に戦うなら個人の力じゃ限界があるし、国との連携も必要か」
仮に俺を王城へ連れ戻すために意図的に誘導したのなら、智恵美さんは恐ろしい人だ。けど、肖像画の確認はしなければならない。
ただの偶然なら良いが、そうでなければシロの過去に、もちろん未来にも関わる重要なファクターとなり得る。
ということで、俺たちの王城行きが決まった。しかし次の問題がある。
「誰が先に王都へ戻るっすか?」
そう、馬車の荷台は一度に俺たち全員を乗せることが出来ない。定員は四人……ギリギリ五人までいけるだろうか。
ここにいるのは十一人。光輝のように荷台の屋根に乗ったとしても二回は往復しなければならない。しかし、馬車はけっこう揺れる。消耗し切っている俺たちが屋根の上で長時間の移動に耐えるのは厳しいところだ。
ちなみにヴィークは御者なので数える必要は無い。
「教官とシークは決定として、誰か護衛が必要だよな……」
シニーの意見に俺も賛成だ。それに、ボールドとシークを最優先で馬車に乗せることは、この場にいる全員が考えている共通の認識だろう。
「二人は僕が責任を持って王都まで護衛するよ。それと、僕は屋根に乗らせてもらうね。そうすれば荷台に一人分の空きが出来るし、さらに次の馬車に乗る人は全員が荷台に乗れる」
光輝も俺と同じことを考えていたようだ。そうなると先行メンバーはボールドとシークに光輝か。光輝は屋根に乗るからあと三人乗れるな。
「あと聖も来た方が良いね。ボールドさんとシークさんの治癒をしてもらわなきゃ」
それもそうだな。シークの容態は安定して来ているが、ボールドは危機的状況にある。誰かがそばで治癒しなければならないのだ。
「そっか。……ならマリアさんにも来てもらわなくちゃね! 回復魔法が使える人は一人でも多く必要よ!」
「あたし……? まあ、確かにこの場に留まってても出来ることなんて無さそうだし……。シニー、あんたも来なさい。護衛よ、護衛」
「じゃあ決まりかな。何か異議のある人はいる?」
これが妥当だろう。余力の残っている三人の勇者が分散することで偏り無く互いの危険を減らせる。
「出発するっすよ~」
残った俺たちは遠くに走って小さくなる馬車を眺めていた。気が付けばもう夕方だ。
タイミング的にも丁度良いので、俺は気になっていたことをカルムに尋ねることとした。
「なあ、カルム。さっきから聞きたかったんだが……あの白衣の女は知り合いか?」
「やっぱり気付いちゃうよね~……。単刀直入に言うと、あの女は魔王だよ」
白衣の女が統率者よりも上の存在だとは分かっていたが、まさか魔王だとはな。やはり魔王は複数体いるのだろう。
「ちょっと待ってくださいっ! 勇者として聞き逃してはならないことを聞いてしまいました!」
今日の智恵美さんはなんだか騒がしいな。魔王が複数いることなら既に把握していると思うが。
「魔王って憤怒の魔王以外にも存在するんですか!?」
そうか、智恵美さんたちはガイツの存在を知らないんだ。
「一般的に知られているのは憤怒の魔王だけだね~。あの女……異端の魔王は裏で暗躍するタイプだからね、存在を知っている者は極僅かだよ~。きっと憤怒の侵攻が隠れ蓑になってるんだ」
「なぜ、カルムはそれを知っている……?」
騎士見習いであるはずのカルムがそんな重大すぎる情報を知っているはずがない。まさかとは思うが、カルムは魔王側の存在なのだろうか。
その考えに至った俺は静かに拳を握り締める。
「……もしかして、おれっちがあっち側だと思ってる? なら安心してよ~。おれっちはアイツらが大ッ嫌いだからさ」
カルムはのんびりとした穏やかな表情をしている。しかし、それとは裏腹に憎悪に近いものが見え隠れしていた。
「イーズは……寝てるね」
あれだけ戦った後も莫大な量の魔石を回収したのだ。疲労が溜まっても無理はない。シロもその隣でぐっすりである。
まったく……。のんきな奴らだ。
「ここだけの話さ、おれっちは人間じゃないんだ」




