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第三話 少ない手段と足りない力

 異世界エルドラに来てから二週間が過ぎた。


 俺が今いる場所は城の中庭だ。

 俺はここで毎日のように雷操作の修行をしている。もちろん今もだ。


 俺はいつもの木から三メートルほど離れて、その木に人差し指を向けた。

 いつもの木とは、俺が初めて球状の雷を放った木である。

 今ではすっかりと表面だけ黒く焦げている。


 「放電(スパーク)!」


 俺はそう言うと人差し指に魔力を集中させ、電気を生成する。


 「雷撃(サンダーボルト)!」


 その次に、その電気で球状の雷を形成していく。

 バチバチッと弾けるような音がし始めたら放つ。

 二週間前は放出するまでに一分ほど掛かっていたが、今では十数秒で行えるようになった。


 球状の雷、改め雷撃(サンダーボルト)は俺がバスケットボールを全力投球したくらいのスピードで飛んでいった。


 そして、木に当たると霧散して消えた。ここまではいつもと同じである。

 違うのは木を三分の一ほど抉っているところだ。


 「よっし! 成功だッ!」


 俺はこの二週間、虫しか殺せないであろう雷撃(サンダーボルト)の威力を上げるべく、色々と考えていた。

 そのうちの一つが速度を上げるというものだ。

 速さが上がれば破壊力も上がるという寸法である。単純だが効果的だろう。


 なので、俺は雷撃(サンダーボルト)を放つ直前に魔力を爆発させて、加速をつけることにした。

 その結果があの木である。反動で少しよろけてしまったが、慣れれば大丈夫だろう。


 これでようやく攻撃手段を一つ確保できた。

 放出するまでの時間をもっと短くできれば実戦でも十分に通用するはずだ。


 「今日は戦闘訓練の日だし、そろそろ自分の部屋に戻るか」


 今日は週に三回ある戦闘訓練の日だ。

 かなり疲れると思うので、今のうちに休んでおきたい。


 「騎士団長のフォルディさん、強過ぎんだよ……スパルタだし」


 この二週間で何回か戦闘訓練をしたが、怪我はするし疲れるしで心身ともにボロボロだ。

 それもこれも教官役の騎士団長がスパルタ過ぎるせいだ。


 「でも、光輝と手合わせできたのは収穫だったな」


 俺は戦闘訓練で光輝と模擬戦をした。

 その時にわかったのだが、ステータスのFだとかAだとかは現時点での戦闘力ではなく、今後の伸び代だろうということだ。

 才能と呼んでも良いかもしれない。


 その証拠に俺と光輝の実力は互角で引き分けた。

 両者とも素手だったので、聖剣の勇者である光輝が剣を使えば、もちろん光輝が勝つだろう。

 俺はそんなことを考えながら部屋へ戻った。


 時間が経てば経つほど勇者たちと実力が離れて、長所の無い俺は置いて行かれる。

 そのためにも色々とできるようになっておかなくてはならない。

 なので、俺は知識を蓄えるためにも本を読んでいる。部屋にいるときは大抵そうだ。


 ちなみに今、読んでいる本は城の図書館で借りた魔法に関する書物だ。

 この世界に来てからずっと読んでいる。


 この本を読んでわかったことは、魔法スキルを所持していないと魔法を使えないということと、魔法スキルを所持していたとしても使える魔法は持っている魔法スキルによって変わるということだ。


 例えば、火魔法のスキルを持っている者は火魔法を使うことができる。

 逆に持っていない者はどんなに努力しても使うことはできない。


 幸いにも俺には雷操作のスキルがある。何かしら参考になればと思ってこの本を読み始めたのだったが、俺に雷魔法は使えないので魔法名のページはあまり意味がなかった。

 雷操作と雷魔法は別物ということなのだろうが、解せぬ。


 だとしても、詠唱だとか魔力の応用だとか収穫はあった。

 俺はこれを基に放電(スパーク)雷撃(サンダーボルト)を生み出すことができたのだ。


 まず俺がなぜ技名を付けたかというと、詠唱を真似てみたのだ。

 詠唱とは、魔法のイメージをより正確にするために行う動作で、詠唱をするとしないとでは発動までの時間や威力などが段違いらしい。効果は先ほどの木を見て実感できた。


 ちなみに魔力を爆発させて加速をつけた球状の雷が雷撃(サンダーボルト)だ。これは魔力の応用に分類される。

 それと、加速をつけずに浮遊しているだけの球状の雷は雷撃(サンダーボルト)ではない。ここがかなり重要だ。


 それと、この本で知ったのだが聖魔法は勇者にしか使えないらしい。

 俺は勇者ではないので、聖魔法を使えないのだ。ぐすん……。


 そんな現実を思い返し、憂鬱な気分で本を読んでいると、部屋の扉がコンコンと小気味よい音を立てながらノックされた。


 「どうぞ……」


 ノックの主が誰かは検討がついている。その人物を思い浮かべて胃がキリキリと痛む。

 こんな状態の俺にまだ追い討ちをかけるのか。


 「まったく……部屋で読書とは良いご身分ですね」


 ガチャッと扉を開けるなり俺に嫌味を吐いてきたのは、クールビューティーなメイドさんだ。

 未だに名前すら知らない。


 「あの、俺って一応勇者ですよ?」


 「そうでした、あなたは旅人……ではなく勇者でしたね。これは失礼しました」


 「ぐぬぬ……」


 俺が勇者ではないことは既に広まっているようだ。不味いことになってきた。


 「……それで用件の方は?」


 「ああ、戦闘訓練が始まるのでお呼びに参りました。穀潰しのためにわざわざ足を運んだのです……感謝してください」


 な、なんなんだこのメイドは。なぜこれほどまでに俺を嫌うのだ。日本にいた頃も女子から少々嫌われていたが、ここまで攻撃的なのは初めてだ。


 しかし、勇者じゃない俺は何も言えない。俺はメイドの言葉に答えずに訓練場へ向かった。

 いつか必ず見返してやる!


 訓練場には既に光輝と智恵美さんと天導さんの三人がいた。騎士団長を含めると四人か。

 ちなみにこの訓練場はかなり広く、東京ドームの半分ほどの大きさだ。


 「これで全員だな。あー、それと今回からいつもより少し厳しい訓練になると思うが……頑張ってくれ」


 前回でも十分厳しかったが、この騎士団長はさらに厳しくなるなどと、ふざけたことをぬかす。

 前衛を担当する予定の光輝なんて、この話を聞いて今にも死にそうな顔をしている。


 「最初はコウキとマコトの模擬戦だ。それと、今回から武器を使用する! 各々で好きな武器を選んでくれ!」


 騎士団長のフォルディさんが近くにいた兵士に視線を送ると、兵士が色々な種類の木製の武器を持ってきた。


 マジかこのオッサン……。武器を持った光輝に俺が勝てる訳ないだろ。しかし戦いたくないと駄々をこねるのも、それはそれで不味いので大人しく従うしかない。

 これが前門の虎、後門の狼というやつだろうか。うん、きっと違う。


 「僕は……これにしようかな」


 光輝は長さ一メートルと少しほどの木剣を手にした。

 光輝は聖剣の勇者だ。やはり剣を武器に戦うのだろう。


 「マコト、お前さんはどうするんだ?」


 フォルディさんが武器を選べと俺に問う。

 しかし、生憎と俺は武器についての知識はさっぱりだ。剣や槍などの有名な武器の名称などは少しわかるのだが、構えなどの実戦で使う類の知識がない。


 それに俺の戦い方は主に雷を発射するというものだ。武器を装備していたら手が塞がってしまう。

 ならば、俺の武器はもう決まったようなものだ。


 「あー、俺の武器は……(これ)かな」


 それは人類が生まれながらに持っている武器……(こぶし)だ。

 今は雷操作の練習に集中したい。剣や槍などの武器は必要になった時にでも練習するとしよう。


 「……そういう熱いのは嫌いじゃないが、相手は勇者だぞ。大丈夫か?」


 遠回しに俺が勇者ではないとフォルディさんは言った。この人も知っていたか。

 まあ、当然だよな。勇者に稽古をつける人だ。知らない方がおかしな話である。


 「むしろ、俺に武器は邪魔なんで……」


 「そうか、そこまで言うなら……もう何も言うまい」


 納得したのか、もう俺を止めることはなかった。

 フォルディさんの俺へ向ける視線に哀れみの感情が含まれている気がするが、きっと気のせいだ。


 俺と光輝は訓練場の真ん中に行き、互いに五十メートルほど離れた。


 「ルールは無し! 危なくなったら止めに入るから殺す気でかかれ」


 先ほどから光輝の俺を見る目がフォルディさんと同じだ。

 きっと俺を馬鹿にしているのだろう。許せん。


 「構えッ!」


 光輝が剣を構える。それだけで俺に緊張が走った。

 現時点で俺が打てる手は、雷撃(サンダーボルト)だけだ。

 放電(スパーク)はあくまで雷撃(サンダーボルト)を使うための準備段階に過ぎないので、手数には入れていない。


 なら、俺はその少ない……否、一つの手数だけでこの場を切り抜けるしかない!


 「始めッ!」


 試合のゴングは鳴らされたのだ。覚悟を決めろ。

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