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第6話 次の依頼

 翌日の昼を少し過ぎた頃、アルバはトゥールの元へ訪れていた。報告書の提出と報酬の受け取りのためだ。


「おや、今回は早かったですねアルバさん」

「まあな、あいつのせいでじっくり考えることもできん。取り合えず必要なところは埋めたから、不足は無いはずだ」


 不貞腐れた表情で数枚の紙をトゥールに渡すアルバ。そこには「人型妖魔なりすまし及び熊型妖魔討伐について」というタイトルが記されていた。

 いつもは自身の観察結果や考察なども含めて丸二日ほどかけて作成しているアルバだったが、アシアラが事あるごとに質問攻めにしてくるので、面倒くさくなった結果必要事項のみの記載となってしまった。


「僕としては、あんまり余計な事書かれるよりありがたいですけどね。協会のお偉方に目をつけられたくもないので」


 そう言いながら、記載内容の確認と報酬計算のために奥の部屋へ行こうとするトゥールに、アルバが余計な一言を投げる。


「トゥール、お前が腰を抜かしていたとこだけは忘れずに書いておいたからな」

「……嫌味な人だ」

「お互い様だろう」


 そんなトゥールはすぐに戻ってきた。特に書類上の不備もなく、依頼完了書と共に報酬が受け渡される。

 アルバは即座に金額を確認すると、頷いて袋にしまった。


「で、次の仕事はあるか?」

「もうですか? 戻ってきたばかりなのですから、少しゆっくり……そうですね、アシアラちゃんに街でも案内してあげればよいでしょうに」

「二人分の食い扶持がいるんだ、今は少しでも手持ちが欲しいんでな。……それに、服とかも必要だろう、女の子だしな」


 言いながら少しずつ声のサイズが小さくなっていくアルバをみて、トゥールはクスクスと笑っていた。普段冷静な面しか見ていない男が照れている姿は、何か説明の出来ない面白さがあった。


「そういうことでしたら、簡単な依頼がいくつか来ています。少し確認してきますね」


 そう言いながら奥へ引っ込む背中も笑っていた。


「……笑うんじゃねぇよ、くそったれ」


 アルバは周囲の誰にも聞かれないように、小さな悪態をついた。


~~~~~~~~~~~~~~~


「アシアラ、明日は朝早く出発するから準備しとけ」


 アルバは宿に戻るや否や、そう言い放った。ベッドでだらだらと横になっていたアシアラは、驚いたようにアルバのいるドアの方を見る。


「お、お帰りなさいアルバ。……出発?」


 事態が飲み込めず目をぱちぱちとさせるアシアラに、アルバは手元の資料を渡す。そこには妖魔討伐の依頼内容が記されていた。

 街の南西。それ程遠くはない村からの依頼であり、往復でも一日かからない程度の距離にある。


「もうこの街から出ちゃうの? まだ全然見回れてないのに」

「そう思うなら昨日行けばよかったじゃないか。俺が報告書いているのなんて面白くもないだろうに」

「……そうだけどさ」


 少しだけ頬を赤らめるアシアラだったが、それは窓から入る夕日のせいで、アルバは気づくことは無かった。そもそもアシアラ自身がその感情について良く分かっていなかったが、何となく恥ずかしい気持ちになった。

 その照れを隠すように、渡された資料に顔を落とす。

 そうして、その日の夜は更けていった。


 翌朝はお世辞にも良い天気とは言えなかった。確かに厚く重い雲ではあったが、それでも雨が降るというようなものではなかった。

 アルバ自身、昨日は出発の準備をしろとは言ったものの必要最低限の備品を腰の袋に入れる程度のものでしかなく、アシアラも村から出てまだ三日しか過ごしていないため、ろくな私物も無かった。つまり、準備らしい準備など無い。


「目的の村って近いのかしら?」

「資料に地図があるだろう」


 アシアラの手には昨日アルバから渡された資料が握られている。それをパラパラとめくり、地図のページで手を止める。

 そして眉をひそめてじっと見つめた後、ぼそりと呟いた。


「……読めないわ」

「そうか、それは残念だったな」

「いじわるな事を言わないでちょうだい」

「心配するな。お前の村より随分と近い場所にある」


 そんなアルバの言葉であったが、アシアラは信じられないという顔をした。それも無理もない。曇天で暗く照らされた道はとても細長く、その途中が何か所か小高くなっていることもあってどこまでも続いているような錯覚を覚える。


 考えていても暗くなるばかりなので、アシアラは気分転換もかねて気になっていることをアルバにぶつける。


「アルバ、教えてほしい事があるのだけど。質問してもいいかしら」

「構わないさ。目的地までの暇つぶしだ」


 アルバは特に目を合わせるでもなく答える。アシアラはまたパラパラと資料をめくると、一枚の紙をアルバに渡した。

 そこには、今回討伐対象となっている妖魔について書かれていた。猪型と書かれていると共に被害についてが記されていた。


「この猪型っていうのは、強いのかしら」

「いや、強さで言うとこいつらは一番小さくて弱い。同じような大きさでも種類によっては集団で行動していたりで大変な場合もあるが、今回は違うようだ」

「楽勝ってこと?」

「まあ、正直そうだな。それでも村人からしたら貴重な作物を荒らすし、退治しようにも中々手を出せないっていうのが現状だけどな」

「ふ~ん、じゃあ今日中に街に戻れそうね」

「そうだな。まあ、大丈夫だろう」


 そんなやり取りをしているうちに、視界の端に目的の村が見えた。


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