第26話 高慢ちきな共闘者
男はよほど腹が減っていたのだろう。肉をほおばっているというのに、同時に腹を鳴らすという器用なことをやっている。
そして案の定、少ない干し肉はあっという間に男の胃袋へ消えていった。ついでに、持ってきた水も半分ほど消費されてしまった。
「いやあ、助かった。どうにか動けそうだ」
すっかり生き返ったというように、男は腹を何度かさする。そのたびに、長く赤い髪が揺れた。先ほどまでぐったりと倒れていたとは思えないほどに声が大きい。狭い小屋のなかで、耳が痛くなるほどだった。
「街も近いのに、なんでこんな小屋で倒れていたんだ」
「この辺りの妖魔を狩っていてな。小屋で少し休むつもりが力尽きたという訳だ。さすがに丸三日寝ずに戦ったのはやりすぎた。後は熊型を一匹、片づけるだけだったんだが」
がはは、と大声で笑う男。この声のせいで逃げられたのではないかと思えてくる。それにしても、アルバ達と同じく熊型をターゲットにしているらしい。
アルバはこの依頼の受付の時に言われたことを思い出した。トゥール達の街からも依頼を受けた者がいる可能性があるということだった。この男が、そうなのだろう。
できれば報酬を独り占めできればよかったのだが、すでにお互い村の近くまで来ているのだ。こうなってしまっては、出し抜いて先に狩るというのはあまり得策ではないだろう。
「俺はアルバ。あんたも熊型を狩りに来たのか。俺たちも同じ依頼を受けてきているんでな、どうせなら一緒に戦わないか?」
「干し肉の分くらいは働いてもらいたいわね。私はアシアラ、よろしく」
空腹のためか、アシアラは少しだけ言葉にとげが生えている。ともかく、アルバとしては少しでもリスクを減らして戦いたい。
この男は丸三日戦い続けられるほどタフだという。その言葉がどれだけ真実なのかは分からないが、男がかなりの実力者であることは、目を見て分かった。
「あんたら、同業者か……」
じっと、まるで品定めでもするように二人を見つめる男。特にアシアラを見て、眉間にしわを作る。
「冗談だろ? あんたはともかく、そっちのガキが妖魔と戦うなんざ想像がつかないぜ」
「なっ……失礼ね! これでも何匹も倒しているんだから!」
男に挑発されて、アシアラは頬を膨らませる。確かにアルバもアシアラも小柄であり、その見た目からは強さを測りずらいところはある。
「心配はいらない。こいつが言うように、俺たちもそれなりに妖魔を狩ってきている。熊型くらいなら十分仕留められるさ」
「だと良いんだがな。あんたも妖魔狩りにしちゃあ随分と小さい。正直、熊型くらいの大きさの妖魔と戦っている姿が想像できないんだよ」
「私はともかく、アルバまでバカにして!」
「落ち着けアシアラ」
つかみかからんとばかりに怒るアシアラを、アルバが手で制した。確かにこの男はアルバ達に比べてかなり背が高い。とはいえ、妖魔狩りとして協会に出入りしている人間の中で特別に大きいわけではない。
「まあ、足手まといにならないんだったら、一緒に戦ってやってもいいぜ」
そういいながら、男は立ち上がってローブのホコリを払う。助けてもらった立場でありながら、妙にえらそうな物言いだが、その理由は一目でわかった。
ローブに隠れているというのに、その体の厚さは尋常ではない。干し肉を食べている時にも鍛えられた腕が見えてはいたが、座っていたためにそれ程気にならなかった。
立ち上がったことにより、全体像がはっきりとわかる。まさに筋骨隆々だ。どれ程鍛えればこれだけの肉体になるというのだろう。
アシアラは先ほどまでカンカンに怒っていたというのに、男に気圧されてしまったのか、口をつぐんでいた。
「凄い筋肉だな。確かにあんたから見たら、俺たちは頼りないかもしれない」
完全に委縮しているアシアラとは違い、アルバは冷静だった。別に敵ではないのだ。むしろ、同じ妖魔を狩る目的があるのだから心強い。
「さっきも言っただろ。足手まといにならないんだったら、別にいいよ。さっさと倒して街に帰りたいからな」
「ちょっと、私たちも名乗ったんだから、あんたも名前くらい言いなさいよ!」
アシアラは絞り出すように、精一杯の虚勢をぶつけた。それに対する男の返答は、さらにアシアラの怒りの炎に薪をくべる結果となった。
「俺は弱いやつに教える名前はないんでな。知りたかったら認めさせてみろ」
小屋を出て林道を歩いている間、アシアラと男はずっと口喧嘩をしていた。その言い争いにすっかり疲れた頃、三人は目的の村に到着した。




