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プロローグ

 硝煙の臭いが鼻につく。


 街は赤く燃えていた。それは「惨状」の二文字がとても良く似合うものだった。しかしその光景は、遠く見える夕日と重なって芸術的なまでに美しく見える。


 建物の壁にさえぎられ、時折風が炎を巻き上げる。そうして街のところどころに炎の渦が作られた。その中で特に大きな渦のそばに、空を舞う一人の少女がいる。


 その存在が、これが地獄のような現実であることを忘れさせた。


 人であればどれだけ高く跳べるものであっても、そこには決して届かないだろう。辺りの建物よりもずっと高く、何もないはずの空中で、少女はそこにステージでもあるかのごとく体を揺らす。


 趣味の悪いインテリアのような黄金の大剣を一振りすると、少し離れた地上がら血の柱が昇る。その大剣を動かすたびに、柄に結ばれた数本の鈴がシャラリと鳴る。少女が大剣を二振り、三振りとなでると、奇麗な鈴の音と共に二つ、三つと命の火が消えた。


 国が誇る対妖魔部隊の最高位である『魔術師団』において、最強とうたわれた魔女の姿は、人々がその強さに抱くイメージに比べると少し幼くも思えるものだった。


 少女が地面に降りてくる頃には、街を襲っていた妖魔の死体がうず高く積まれていた。着地の衝撃で長い金の髪がふわりと浮き上がる。


「ご苦労さま」


 周囲にはそれまで妖魔の姿しかなかった。街の人々もすでに逃げ去り、そこには少女の他に人の影はなかった。


 そうにもかかわらず、どこから現れたのか一人の男が少女に声をかける。不意なことではあったが、少女は特に驚くわけでもなく視線を送る。


「皮肉はやめてちょうだい。私は何もしていない(・・・・・・・)のだから」

「これだけの数の妖魔を倒せたんだ。アシアラのおかげだろうさ」


 アシアラと呼ばれた少女、この国最強の魔女は照れたように手で口元を隠す。


「あんたが褒めるなんて珍しいわね、アルバ」


 そんなアシアラの様子を見て、アルバはニヤリと笑った。そして身ぶり手ぶりを大仰に、芝居がかった声でアシアラの手を取る。


「おお、アシアラ! 君のそのガーネットのように燃える瞳は、街の炎にも夕日にも負けないほどに美しく輝いている!」

「……怒るわよ」


 アルバは弾けるように笑いながらアシアラの頭をガシガシとなでた。アシアラの顔は街を焼く炎よりもずっと赤く染まっていたが、まんざらでもないといった表情を浮かべていた。


 そんな馬鹿話をしながら、二人は焦げた街を後にした。これだけの妖魔の命を摘み取りながらも、アシアラの表情に満足している様子はない。復讐の炎が燃え尽きることなく赤い瞳を揺らしていた。


 『空蹴り(そらけり)の魔女』と呼ばれ、この国最強と名高い少女アシアラ。

 その少女と常に行動をともにする傭兵アルバ。


 妖魔への恨みと憎しみをその胸に抱き、二人は次の街へ向かう。全ての妖魔を駆逐する頃には、この呪いのような復讐心が癒えることを祈りながら……



――物語の時はさかのぼり、二人が出会ったあの日をうつす。

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