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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

完璧超人なお嬢様に仕えた執事の話

作者: 梛木湯斗

 

 私はさるお方の執事をしている。お嬢様は俗に言う天才というやつで間違っても天の災害の様なテンサイではない。容姿端麗で頭脳明晰、性格は誰にでも平等で社交的。全くもって非の打ち所のない完璧という言葉が誰よりも似合うお方です。正直に言って専属の執事すらも要らない様なお方なのですが何故か私を未だにお嬢様の専属の執事としてつかっていただいております。




 そんなお嬢様の専属の執事として仕えている私だが最近悩みがある。お嬢様もそろそろ二十歳を迎え何処か家柄の良い相手を探し結婚するべきなのだ。だと言うのにお嬢様は父君が持ってきた見合い話をすべて断ったという…。父君がお嬢様に誰か好いている人でもいるのか?と聞けば何故か言い淀みお嬢様が無理やり話を有耶無耶にしてしまう始末…。



 父君は可愛い娘なだけにより良い娘が幸せになれるようにと今日も見合い相手を探しておりますがきっと今日もまたお嬢様は断られるのでしょう。近頃は特にお嬢様は物思いに耽っているのかいつもの様な元気さを感じられません。私は不安で仕方がありません、お嬢様が何らかの恐らくはお嬢様が好いている相手の事でしょうがそれをそれさえも専属の執事たる私にはお話しては下さらない。



 昔からお嬢様はそうでした、私が当時はまだ執事見習いでいつもお嬢様に迷惑ばかり掛けていて役立たずと何度周りから言われようとも決して頑なに私をお払い箱にするでもなく、いつも私に向かって優しく微笑んでくれました。お嬢様の母君が亡くなられた時もそうです、お嬢様は誰一人にも泣くことなく、弱音を吐かず強くあられた。そう、専属の執事であった私にさえも、私には分からないのです。お嬢様の考えておられることがこんな役立たずがいつまでもお嬢様の専属の執事であって良いのだろうかと…何度も何度も思わずにはいられないのです。




「あ!執事!」



『お嬢様、そのように廊下を走るのはおやめください。もう、子供ではないのですから…』



「わたしはいつまでも子供ですよーだ。それでね!執事!今日の夕食の話なんだけど…」




『全く…。夕食でございますか?』




「うん、今日は執事の作ったハンバーグが食べたいなってね。できる?」




『かしこまりました。でしたら今日は料理長にはお嬢様の分の夕食は要らないと伝えねばなりませんね』





「ごめんね、仕事増やすようなことを頼んじゃって」




『いえいえ、お嬢様の命とあらば執事例え火の中水の中鉄骨の中へでも』




「じゃあ頼んだわよー」



『あ、お嬢様廊下を走らないでくださいませ!』




 ────じゃあねー。そう去っていくお嬢様、お嬢様…私は本当にお嬢様に必要なのでしょうか…執事は不安で仕方がありません。執事は知っております、未だにお嬢様に対して私は執事として劣っていると言われる方々がいるということを、そしてそれからお嬢様が私を庇ってくれているということを。





 ────────────────────────────────────────────────────────────




 今日はお嬢様の父君が経営する会社の子会社である建築会社に視察に来ておりました。本来であればこう言った事はお嬢様がしなくても良いのですがお嬢様はお優しい方なので会社の為に頑張ってくれている人たちの仕事を是非ともみたいと父君に無理を言ってこうしてきている。何故私がいるのかと言われたらお嬢様のお世話はもちろんいざという時の為にでもある。お嬢様は容姿端麗な為か昔から変な注目を浴びやすい、そして変や輩を呼びやすいのだ、襲われそうになったことも何回かありその度に私がどうにか守って────なんて力は私には無くてお嬢様は平然と返り討ちにしていた。情けないというならそう言われても仕方がないとは思っている。でもダメなのだどうしても体が震えて言うことを聞いてはくれなくなってしまう。特に怒声など上げられたらダメだ。女々しいとか言わないでほしい、どうしょうもないのだ。これでも怒声に関してはよほど出ない限り耐えられる様になった。





 お嬢様は大変魅力的なお方だ、だってほら今だって会社の男性職員ほぼ全員の視線を釘付けにしている。それでいて仕事を問題なくこなしている男性職員にはある種尊敬すらするだろう…。

 お嬢様は特に気にしてる様子もなく子会社の社長からの説明を聞いている。とても楽しそうだ。





 社内説明も終わり実際に建設現場を見学することになり現在建設しているというビルの現場に向かった。さすがに危ない気がしたのだがお嬢様は気にせず見学に向かう。嫌な予感が先程からしているのだがどうか気の所為であってほしいと思う。

 しかし、現実とはなかなか憎いもので私の気の所為であってほしいという願いも裏切られることになる。





 お嬢様は建設現場の重機に興味を持たれたのか説明している社長から少し離れたところにいる。私はというと仮に何かあってもと直ぐにお嬢様の傍にいける位置を常に取っていた。社長は説明に夢中になっているのかお嬢様が離れていることに気が付かない。ちょうどその時何処からか何かが軋む様な音が聞こえたかと思い何となく上を見上げたらお嬢様のちょうど真上当たりにあった鉄骨が何故か半分以上外に出ており今にもお嬢様の元へと滑り落ちそうになっている。




 今からお嬢様に声を掛けても間に合うか分からない、回りに注意をしても同じこと…。つまりお嬢様を助けるなら私が駆けて行ってお嬢様をそこから遠ざけるしかない。




 そう思い動き始めたと同時に鉄骨は落下を始めた。上の方ではそれに気がついたのか叫んでいるが地上には届かない。私は走る、お嬢様を助けるべく。鉄骨が落ちてくるまで後数秒あるかないかあっても十秒いかだろう。お嬢様も気がついたのか慌てて避けようとするも唐突過ぎたのか動けていないようだ。何故かこちらを向いて驚いているがまあ、今は関係ない。鉄骨がお嬢様にぶつかる直前私は間に合いお嬢様を突き飛ばすことに成功した。と同時に何かに潰される感覚が私を襲い私は鉄骨に潰された。鉄骨は見事に私を押しつぶし一つは私の腹を貫いているようだ。体から血液が流れ出ているのがよく分かる。腹が痛くて痛くてどうしょうもないがそんなことよりもお嬢様の無事を知りたかった。そう思い腹にくる痛みを耐えながらどうにかお嬢様の方を見る。




 よかった…。お嬢様は突き飛ばされた為か少し足をすってはいるものの目立った外傷は無さそうだった。しかしお嬢様の顔は何故か涙を流している。何故だ何故お嬢様はあんなにもカナシソウナ顔をするのだろうか…母君が亡くなられた時でさえ気丈にあられたお嬢様が何故。分からないけどお嬢様の執事である私はお嬢様が悲しんでいるならばそのお顔を笑顔にして見せなくてはならない。




「…お、お嬢様…その、ような…お顔を、なさ、ならいで、く、ださい…お、綺麗、な顔、が台無し…ですよ、」




『なんでっ!なんでっ!そんなに平気そうなのよっ!鉄骨よ鉄骨に潰されてるのよっ!そんなに血も流してっ!』




「言、ったでは…ありま、せんか…お嬢様、の為、ならば…例え火の中、水っ、の中、鉄骨の中、行くと…」




『そんなの冗談に決まってるじゃない!誰が馬鹿正直に間に受けるのよ!』





「ば、馬鹿な、しつ、じで…申し訳、ござい、ません…お嬢様、どうか、どう、か、お幸せにお成り下さい、」




 ────そんなのいいからなんで謝るのよ!あなたになんか言われなくても幸せになんかなるわよ!だから起きてよ!ねぇ!執事!執事!

 薄れゆく意識の中、お嬢様は涙で赤くした目を何度も何度も擦りながら私をお呼びになられました。ああ、またもや迷惑を掛けてしまっている、私がもう少し早く気がつけていればお嬢様にこのような顔をさせずに済んだのに…お嬢様の目尻にある涙を微かに動く右手を使い拭き取る。




 いけませんお嬢様、役立たずだった私がお嬢様のお役にたったのです。お嬢様はいつものように優しく笑顔であられたら良いのです。どうか泣かないでください、お嬢様。私は初めてお嬢様を守ることが出来て今まで悩んできたことに答えを見つけられたのですから。こんな役立たずの執事でも失敗ばかりだった執事でもお嬢様のお命を守ることができたのですからどうかどうか泣かないで…。薄れゆく意識の中、私がお嬢様から頂いた紅く染まったホトトギスを模したキーホルダーをただただ眺め続けた。








ここまでお読みいただきありがとうございました。

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