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5.柊ハルキも秘密を抱えている

 リーズンズのお坊ちゃん達が転入してきた翌日。


 彼らはセントラルの真新しい制服を纏って、正門をくぐってきた。

 やっぱりすごく目立つ3人だ。背も高いし、ひょろついてない引き締まった体つきのせいもあるかも。特に柊ハルキは、15歳とは思えない大人っぽさだ。

 純血パワードは男女問わず華奢でほっそりしている。『筋肉なにそれ念動力使えば?』が合言葉のインドア派が大半なんだよね。バスケとか野球とか球技の面白さもよく分からないし、やる気にならないんだろうなって思う。

 転入生たちはそういうのも上手そうだ。自分の手足を力強く操って色んなことが出来そうな体をしている。


 そんなことを考えながら教室の窓から、登校する彼らを眺めていると、柊ハルキが突然立ち止まった。

 そのまままっすぐ私の方を見上げてくる。目が合うなり、彼は頬を緩めた。微笑むと、キツめの端正な顔が一気に柔らかくなる。

 

 私は反射的にしゃがみ込んでしまった。――びっくりした。

 いきなりあんなに明け透けな好意を見せてくるリーズンズなんて、今まで会ったことないよ。

 私のこと好きなのかな? う~ん……でもなぁ。

 一目惚れされるタイプじゃないことは、自分が一番分かっている。何が目当てなんだろう。

 じっと胸を見下ろしてみた。リーズンズの女優さんやモデルさんに比べたら、本当に貧相な胸と尻だ。体目当ての線も薄いよね。

 

 教室に入ってきた3人は、派手めの女の子グループに取り囲まれ、早速色んなことを聞かれていた。

 ご両親は? どこに住んでいるの? 将来は何になりたいの? 

 純血パワードの男子は少ない。ミックスの男子と知りあえる機会はもっと少ない。

 結婚相手探しの為には、私も積極的に交友範囲を広げた方がいいんだろうけど、相手がエリートのお金持ちのお坊ちゃまというのは高望みが過ぎる。

 

 総合ランクEの私では、ミックスの子供を産めるかどうか怪しい。

 純血とリーズンズが結婚した場合、ミックスの出生率は1割っていわれてるけど、何人産んでもリーズンズな気がした。私はそれでいい。きっと可愛いだろうなぁ。子供たちが長生き出来ることを考えれば、むしろ私はリーズンズを産みたい。

 だけど、結婚相手にミックスの親が持てる様々な特権を差し出せる見込みが少ない以上、純血パワードであることを売りには出来なかった。

 落ちこぼれの神野アセビでもいいよ、という奇特な優しい人を探して、結婚してもらうんだ。時間は限られている。無駄弾を打っている場合じゃない。

 

 早いうちに、校外交流をしてる部活に入るべきだよね。

 放課後、見学に行こうかな。

 自分の席に座って婚活計画を立てていた私の前に、影が差す。

 マホかと思って目をあげると、そこに立っていたのは柊ハルキだった。


「おはよう」


 彼は何度か躊躇うように口を開け閉めした後、そう言った。


「あ、……おはよ」


 どうして私を案内係に指名したのか聞くことも忘れて、ぼうっと彼に見入ってしまう。

 やっぱりすごく良い匂いがする。なんだろう、これ。

 目を閉じて、鼻をくんと鳴らしてみる。


「ハルキ様!」


 低い声に弾かれ、ハッと目を開いた。

 柊ハルキは慌てて右手を背中に回し、ぐっと唇を噛みしめていた。


「本人がいいって言ってないのに、勝手に触っちゃだめだよ、柊」


 入澤ケイシが意味深なことを言いながら、ふふふと笑う。

 TVドラマで見たことのあるチャラ男そのままの振る舞いに、心の中で「おお~」と感嘆した。顔が良い人がやると、気障ったらしさよりカッコよさが勝つんだな。


「そんなことしてない」


 柊ハルキは言い返し、私の方を見た。

 それから、「お前な。人と話している途中で目を閉じるなよ」と注意してきた。すごく馴れ馴れしい言い方だった。マホが私に話しかける時みたいな距離感に、違和感を覚える。


「はあ。……すみません」

「……っ! 俺は怒ってるわけじゃなくて!」


 柊ハルキはもどかしげに言いかけ、途中でふっと力を抜いた。

 捨てられた犬みたいなしょんぼり顔で、じっと私を見下ろす。

 理由が分からないまま、なんだかとっても悪いことをした気分になった。


 そうこうしているうちに、若月先生が教室に入ってきた。

 柊ハルキを見ると、「ちょっと待ってなさい。前に席を空けるから」と言う。リーズンズとして優秀だから、前方で授業を受けていいということなんだろう。

 イケメンで高身長の3人にぐるりと取り囲まれ、見下ろされている今の状態は、妙な威圧感があって正直居心地が悪かった。

 女子生徒たちの負の感情が大きくなってるのも察知できたし、出来ればそっとしておいて欲しい。

 案内係でもパシリでも、セントラルに馴染むまではお世話するから!


 ところが柊ハルキは、またあのしれっとした顔で爆弾を落とした。


「俺達の席は神野さんの隣りにして下さい」

「いや、そういうわけにはいかないでしょ。説明したはずだよ? 席順は成績で決まるって」


 若月先生の言葉がぐっさりと胸に刺さる。

 傷ついてなんかいませんよ、という表情をこしらえるのに苦労した。


「それはリーズンズの俺達には関係ない。俺は神野さんの隣りがいいんです」

 

 ホームルームで柊ハルキは堂々と主張し、若月先生は面倒くさそうに「じゃあ、もうそれで」と適当な返事をした。


 私の左隣りに柊ハルキ。前に入澤ケイシ。そして斜め前は御坂シュウ。

 隣接する三方をがっちり転入生に固められる。

 お付きの2人は、私が珍獣でもあるかのように、チラチラ見てきた。柊ハルキは背筋を伸ばして前を向いていたので、まだ少しマシだった。


「神野ちゃん、これから3年間よろしくね?」


 前の席の御坂シュウは椅子の背に腕をかけ、私を振り返って軽く言った。

 3年も!?

 そんなに長い間、私をこき使うつもりなんだろうか。

 言い返そうとしたんだけど、柊ハルキが小さく舌打ちしたのにビビってしまい、軽く頷くことしか出来なかった。

 本当は全くよろしくしたくない。


 私達が受けるのはリーズンズでいえば中学程度の一般課程だ。

 賢いお坊ちゃん達には物足りなくないのかな? 気になって隣を盗み見ると、柊ハルキは信じられないほど細かい数字が並んだ数学問題集を解いていた。全く授業に関係ないことしてる癖に、先生に当てられたらさらりと正解を答える。一般課程の授業はね。まあ、それもそうだよね、って思えた。

 

 ところがパワード能力についての座学でも、彼は先生の問いかけに手を上げたものだから驚いた。

 クラスの皆も信じられないといわんばかりの表情で、後ろを振り返る。


「お、柊は知っていたか。流石だな」


 座学を担当しているリーズンズの先生は、誇らしげに柊ハルキを褒めた。

 過去知覚能力ポストコグニッションの発動条件とか、リーズンズがなんで知ってるの?

 本当はテレパス能力か透視能力を持ってるミックスじゃないの?

 びっくりし過ぎて、うっかり彼をまじまじと見つめてしまった。

 

「なに?」


 口だけ動かして、柊ハルキは尋ねてきた。

 切れ長の瞳は、期待でキラキラと輝いている。


「べつに」


 口の中でもごもご呟いて教科書に視線を戻すと、柊ハルキは深々と溜息をついた。

 お前も褒めろよってことかな。


「じゃあ、次の問題は、神野」


 先生に指名され、懸命に教科書で該当する箇所を探した。

 なかなか答えられない私に、クラスメイトがまたかよ、と言いたげな呆れた視線を浴びせてくる。入学して以来、私は授業で一度も正解を当てたことがない。

 焦れば焦るほど、思いついた答えに自信がなくなった。


「お前なぁ。ちゃんと先生の話、聞いてたか?」

「はい……すみません」

「家でしっかり復習してこいよ。じゃあ、鈴森」


 指名された生徒が答えられなかった時、次に名前を呼ばれるのは、鈴森サヤかマホだった。

 座学もこの2人が飛び抜けて出来るから、先生も当てやすいんだろう。


「自然に干渉する力は現在、発火能力パイロキネシスのみが確認されています。水や風を操る能力は、サイコキネシスの応用ではないかと考えられ、空気から一気に大量の水を作り出すパワードは確認されていません」


 それ!

 私もそれが言いたかった!

 ただ上手く言葉に纏められなかっただけで……って、それが駄目なのか。

 がっくりしながらそうっと顔をあげる。

 3人は何もなかったかのような態度で、それぞれ自分の勉強を続けていた。

 

 

 ようやくお昼休みがきた。

 今日はいつもの倍くらい長く感じた。早くこの3人から解放されて、一息つきたい。

 食堂と購買の場所を教えれば、後は自由行動でいいよね。


「柊くん達はお弁当を持ってきてますか?」


 人見知りと気遅れが発動して、ぎこちない敬語になる。

 立ち上がった3人にまたもや取り囲まれ、圧迫された。これ、すごく嫌だ。今度は私も立ってるのに、身長差があるせいでさっきとあまり変わらない。


「いや、持ってきてない。食堂があると聞いたんだが」


 黙ったまま答えない柊ハルキに代わって、眼鏡のつるを押し上げながら御堂くんが答える。


「あります。お弁当を持ちこんで食堂で食べることも出来ますし、食堂の隣りに購買があるので、そこで買ってもいいですし、もちろん教室で食べてもいいです。中庭にベンチがあるので、そこで食べる子も――」

「敬語」

「はい?」


 早口の説明を柊ハルキに遮られた。思わずムッとしてしまった。


「敬語は使うな」

「……そんなこと急に言われても」

「まあまあ」


 何故か私と同じくムッとしている柊ハルキとの間に、入澤くんが割って入ってきた。


「柊の言い方がよくないよ」

「は?」

「敬語だと寂しいな、って素直な気持ちを伝えた方がいいんじゃない?」

「別にそんなこと思ってない」

「ふぅん。……ね、神野ちゃん」


 入澤くんは目を細め、今度は私に向かってにっこり微笑みかける。彼は両膝を軽く曲げ、屈むようにして目線の高さを近づけた。


「オレはさみしいな。もっと普通に話してくれたら嬉しい。だめ?」

「だめ、じゃないよ」


 勢いに押されて、思わず受け入れてしまう。


「やった!」


 無邪気に喜んだ入澤くんを、柊ハルキは親の仇でも見るかのような恐ろしい形相で睨んでいた。

 こわい。この人、こわい。

 本能的に体が動いて、盾を探してしまう。一番近くにあった盾は、御坂くんの背中だった。

 さりげなく立ち位置を変えて彼の影に隠れると、「私に何の恨みがあるんですか」と怒られ、柊ハルキの前に引きずり出された。



 

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