他人から見て
来週の金曜日には、入院する事になっている。
(入院までに、もう一度宮沼さんに会えれば良いな……)
今度こそ、直弥の事について聞ければ。
本当は会いたくないが、『もしも』の時を考えると後悔はしたくないのだ。
『この間はすみませんでした。誠に勝手なのですが、来週の木曜日までに、また会えないでしょうか?』
なるべく、入院する事はしほには知られたくない。
直弥の居なくなった自分に用など無いだろうが、あのじっとりした目を思い出すと、病院の外から今度はこちらを見つめていそうで怖いのだ。
一方、メッセージを受け取った雄太は、その内容に眉をひそめた。
「『来週の木曜日までに』……?」
(何で『来週まで』なんだ……?まさか、引っ越して僕の目の届かない場所で子供を産む気なのか……!?)
「そんなの許さないっ……!」
雄太はギリ、と奥歯を噛みしめる。
だが、文面では努めて冷静に『分かりました。では、来週の木曜日はどうでしょう?』と打ち込んだ。
滝は、懐かしい夢を見た。
高校2年生の夏に、佳音がゲームセンターでシューティングゲームをした時の夢だ。
斧で攻撃されてゲームオーバーになったのを、滝は横の長椅子に座り黙って見ていた。
何て事ない夢だったのに、目を覚ますと泣いていた。
「高2か……」
他人からは、俺はどんな風に見えていたのだろう。
ふとそんな疑問が思い浮かんだ時、携帯のブザーが鳴り出した。
起き上がって携帯を手に取ると、画面には『白屋吹雪』と表示されている。
『もしもし?』
「珍しいな、朝早くにどうした?」
『朝早くって、今10時だよ……?起こしちゃったんならごめんね』
滝は時間を聞いて「は……?」とフリーズする。
『佳音の事……聞いたかなと思ってさ』
自分がその時間まで寝ていた事にも驚きだが、声が暗く、珍しくはっきりしない物言いに滝は嫌な予感がした。
「……何をだよ……?」
思わず声をひそめた滝に、吹雪は予想が的中したのか『やっぱり言われてないんだ……』と呟く。
『余命1年だって』
滝は、言葉の意味が理解出来なかった。
というより、理解したくなかった。
「……佳音が?」
『佳音が』
なんの病気なのか、病状はどこまで進んでいるのか。
聞きたい事は色々ある。
だが、最初に言いたい事は──。
「…………何で……いつも俺には……」
何も言わないんだ……。
『どうせ佳音は、君に嫌われてると思って伝えていないんでしょ?』
吹雪の指摘に、滝は言葉を詰まらせる。
最近自覚した事だが、そう思われても仕方ない態度を取り続けてきたのだ。
滝は諦めたようにため息をついた。
「……そうだろうな……」
『あれ、君もっと不機嫌になると思ってた』
恐らく、少し前の自分だったら不機嫌を顕にしていただろう。
しかし今は。
滝はふと先程の夢を思い出し、吹雪に疑問をぶつける。
「……突然変な事聞くけどよ。お前から見て『高校時代の俺』ってどう映ってた?」
『どうしたの?急に』
吹雪の沈んだ声に怪訝さが混じる。
「いや、ちょっと……特に、佳音に対してとかさ……」
吹雪は黙りこむと『……本音を言うと』と声を硬くした。
『君、佳音の事好きだったでしょ』
「え?」
『好きだから守りたいし嫉妬もしてるのに、付き合ってるって勘違いされたり、からかう奴もいたからかな。プライドが邪魔をしてあえて敵視してる感じだったよ。もっと言うと、佳音の事、疫病神だと思ってる感じだった』
『疫病神』。
吹雪にそう指摘されて、体の中心に大きな鉛を入れられたような気がした。
息が詰まり、反論したくても出来なかった。
「…………あぁ……そうだな……」
確かにそうだ。
父さんに頼まれたから、佳音を護らなきゃいけない。
そのせいで部活にも入れないし放課後に遊ぶ事も出来ないと。
でも、きっとあの2人なら『やりたい事がある』と言えば、やらせてくれたはずだった。
「……佳音が、空手を始めたのって……」
「君に負担をかけたくなかったからだよ。やっぱり、中2の頃の事で負い目を感じてるみたい。実は佳音、剣道も出来るんだけど知ってた?」
「は!?」
「うちの道場にたまに来てね、俺が稽古つけてた。まぁそれほど強くはないけど」
知らなかったでしょ?と、吹雪は少し勝ったように笑う。
その笑い方に、滝は「てめぇ……!」と拳を握った。
しかし、ため息をついて拳の力を緩める。
『……滝』
吹雪は、優しく真剣な声で名前を呼んだ。
『佳音に、会えるうちに会っといた方が良いよ。伝えたい事があるなら、意地を張らずにちゃんと言いな』
『…………分かってる……』
滝は通話ボタンを切ると、『もう手遅れだ』と言わんばかりに項垂れた。




