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ハロウィーン四人衆

トリック・オア・トリート?

作者: ミゾレ*

登場人物は安直なネーミングです


魔女のウィ

狼男のウォル

吸血鬼のヴァン

フランケンシュタインのフラン


の4名。メインは上2人です。

 ゴーンゴーンと鈍く響き渡る教会の鐘の音。


 驚いた烏達が慌ただしく飛び立ち、どこか哀しそうな声で夕闇に消えていく。その内の1羽からひらひらと落ちた黒い羽は、大通りから少し外れた裏路地に吸い込まれていき、くたびれた三角帽子のつばにのった。三角帽子の主はピンッとつばの下から羽を弾き落とし、ゆっくりと壁から身を放す。


「………時間」


 すっと目を細めて長くゴツゴツとした木の杖を音高く石畳に打ちつけた。そこから円形の魔法陣が広がり、中心から線をなぞって輝きだす。ぼそっと魔女は鍵言葉(キーワード)を口にした。


「『お仕置き』決定」


「い゛っだあ゛ーーーーっ!!!」


 杖を持つ少女のいる路地の1つ向こう、建物を1つ挟んだ所で若い男の苦悶の声が上がった。のたうち回りながら、何でだ?とかここだったよな?とか戸惑っているようだ。


「………んー?あれ、あれれれ?」


 つーっと冷や汗が白い頬を流れる。彼女はやっと、集合場所に遅れた(というより間違えていた)のは自分の方だと自覚したらしい。



 *****



 街が夜の顔を見せ始める頃。


「なあウィ、謝れとは言わねぇからよぉ。機嫌直してくれねーか?」


「う………そ、その」


 ガヤガヤと賑わう酒場の一角でしょんぼりと垂れてる三角帽子とため息を吐いて料理をパクつく少年の姿があった。そこには罵りあうような険悪な雰囲気ではないものの、どこか互いに躊躇うような微妙な空気が流れていた。


「あー…うー…えー…そのー…」


 魔女ウィは人付き合いが少なく、苦手な事もあって周囲に怯えているが、それよりも今は自ら引き起こした突発的緊急事態に戦々恐々としていた。ビクビクしている様はまさに小動物でとてもとても可愛らしい。


 が、本人からすれば冗談ではない大変な危機で、実際、交友関係の狭い彼女にとって数少ない友人を失うことは計り知れないダメージだった。それ故、彼女の頭の中は如何に謝るか、相手の怒りを鎮めるかでいっぱいになっていた。


「あーこの話は終わりだっ。いつまでもぐだぐだしててもしょうがねぇ」


 もちろん、彼の仕切り直しの言葉を聞いてるはずもなく。


「う、うん。その、さっきはごめん」


 自ら地雷を踏み抜いた。少年は吹き出しそうになる。


「………昔っから変わりねぇというかブレねぇというか。相変わらずだなぁ」


「あははー……」


 やれやれと首を振り、呆れたような顔で目の前の少女を見る彼。彼の少女に対する評価はとにかく不器用で、時々意地っ張りで、見え隠れする子供っぽさと迷走する思考を持つ放ってはおけない存在、といった所。ウィに対してただならぬ情があるのは彼の普段からの気苦労からすれば当然だろうか。


「まあいいや」


 パッと顔を輝かすウィ、もはや子犬である。


「それで?今日誘ったのは何でだ?何かあったっけ?」


「うん。あのね、ウォル。今日ってハロウィーンじゃない?」


「確かにそうだが……それで?」


「だから、トリック・オア・トリート?って言ってお菓子を貰いに行かない!?」


 ウィは満面の笑みで提案した。ウォルはそれを、可愛い…じゃなくて確か前にもそんなことを言われたような…と思考を逸らし記憶を掘り返す。


「それってヴァンとフランからも誘われなかったか?」


 ヴァンは細身で紳士な男、フランは小柄で可憐な女の子である。そして2人はカップルでもあって、ハロウィーンの誘いに来たときもべったりしていて辟易としたのをウォルは覚えていた。彼は当然のように断ったのだが。


「誘われはしたんだけど、なんかあの2人がいると居心地が悪いというか………変なこと考えちゃうし」


 ウィは床をじーっと見て暗い声で言った。死んだような目からは深い闇が見える。


「変なこと?」


 ウォルは耳聡く、ぼそっと小声で付け足した部分も聞き洩らさず追求した。途端、ボンッとウィの顔が赤く染まる。


「な、何でもない!それより、どう!?一緒に行かない?」


 三角帽子の縁からおずおずと顔を見せて聞く。


「いいよ。だけど絶対俺から離れるなよ」


「ありがとうウォル!」


 こいつ1人でそんなことさせたら、悪戯してくれ!等という変態がでてもおかしくないしな、とそっと理由付けしたウォルだった。



 *****



「トリック・オア・トリート?」


「ふふふ、可愛らしいお嬢さんね。はい、どうぞー」


「えへへ、ありがとうございまーす」


 いそいそと貰ったチョコを口に運ぶ彼女。甘味に笑みを綻ばせるウィに、いつもその顔をしてるといいのに、とウォルは思った。なんとなくその横顔を見つめてると、視線を上げたウィと目が合った。


「あ、ウォ、ウォルもこれ、食べる?」


「ん、じゃあ1個だけ貰うわ」


 一口サイズのチョコをポイッと口に放り込む。噛むと中からどろっとした葡萄の味が溢れ出した。美味い、と思う。先ほどのご婦人の素性が気になる腕前だ。


「美味いな、これ」


「でしょー?さっきの人、なんて名前なんだろ。聞いておけば良かったなぁ」


「やめとけ、名前なんて気軽に聞くもんじゃねぇんだから」


「うん、そーだよねぇ」


 名前は魔法を行使する上で強い指向性を持たせることが出来るから、大抵は偽名か、名前をもじったものを名乗る。こいつの場合は本当の名前を聞き出そうとするから誰かがストッパーにならなくてはいけなかった。いつになったらそんな物騒な考えを捨ててくれるのだろうか、と独りごちるウォル。


 空はもうすっかり暗くなっている。菓子を配る者、貰う者もいつの間にかほとんどいなくなっていた。寂しくなった道をガス灯が頼りなげにゆらゆらと照らす。


「もう帰るぞ、ウィ。家まで送るから」


「んふふー、そうだねー、もう暗いもんねー。手ぇ繋いで帰ろっか~」


「ん、うん?ウィ?」


 ウィの目がトロンとしているのだがつばに隠れてウォルからは見えない。どぎまぎしてるウォルの手にちょんちょんと、ウィの指が触れる。ビクッと固まったその硬い手に細く白い手が絡まった。


「ねぇ、ウォル?」


「ちょ、ウ、ウィ?お前酔ってない?」


「トリック・オア・トリート?」


 ハロウィーンの合言葉、今日散々耳にした涼やかな声と言葉。だけどその中にちょっと熱が籠もってる気がする。あいにく、ウォルは菓子を渡される端から食べていて、持ち合わせなど無い。


「菓子なら持ってないぞ」


「へぇーえ?」


 妖しげにウィは口角を吊り上げる。ウォルはゾクッときて身震いした。


「じゃあ悪戯しーちゃお」


「なっ」


 絡めていた指をほどいたかと思えば腕を胸に抱き締めてきた。ぐにゃっと歪んだ三角帽子からアルコール臭がする。酒など飲んだことはないが、酔ったウィは危険だということだけはウォルにも分かった。


 とにかく、どうにかしなくてはいけないのだが、ウィのさり気なく主張する胸の感触を脳味噌が全力で記憶しようとしてるため頭が働かない。ウォルは流されるがままになっていた。


「んふふ~、ねぇ、ウォルからは?」


「…………なんだ?」


「あいことばー」


 頭の処理速度が極端に遅い。というより、ウィから漂う女の子の匂いや雰囲気のせいかぼーっとしてるようで、大丈夫か俺、とウォルは他人事のように思う。


「うぉる~」


「合言葉な、トリック・オア・トリート?」


「そうそう、それでおっけー。あのね、甘いのあげるから、ウォルしゃがんで」


 あーはいはいとしゃがむウォル。遠い目をしていた。

 ウィは三角帽子をとって目線を合わせる。ウォルは目の端に黒い髪がさらさらと流れるのを見ていた。視線を感じて目をやると、丸く大きな金の目が街灯の仄かな明かりにゆらゆらと揺れていた。唇に軽く、湿った柔らかみのあるのが触れる。すっと離れてくウィのそれ。触れていた部分は外気に晒され酷く冷たく感じた。


「まだまだ、甘いの、いる?」


 やばい、理性が、とびそう。



 *****



「ねえ、ヴァン?あなたの部屋で紅茶が飲みたくなったわ。ストレートの」


「ふふ、そうだね。でも、初々しい彼等を見ていると、つい昔を思い出してしまうよ」


「そう、ね。あんなだったかしら」


「フランは今でも可愛らしいよ?」


「そうやって、調子いいんだから。あ、あのね?ヴァン」


「なんだい、フラン」


「トリック・オア・トリート?」


「じゃあ、後で甘いのあげるよ」


「楽しみにしてる」

書いててコーヒー3杯くらい飲める気がしてきました。

意見感想、誤字訂正なんでもお待ちしております。


補足:ウィちゃんはなぜだかお酒が弱い設定になってました。あとウィちゃんの最後の一言を変更しました。

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