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小塚真由香の朝日1

小塚真由香の朝日1


男の数で女の価値は決まるとどこかで聞いたことがある。

もしそれが本当に正しいのなら私の女としての価値はそこそこ高いんじゃないかと思う。

昔から女子の雰囲気にどこかなじむことができずに男子とばかり仲良くしていた。顔は中の上、化粧を軽く身にまとえばそこそこ可愛い方だったとも思うし、今でもそう思う。

私、小塚真由香が初めてを経験したのは中学生1年の冬の事だった。当時世間でも性の若年化が問題になっているとよく騒がれたものだ。まさしく最近の若者の一例だったのだろう。

私の住んでいた地区はそこそこ治安が悪く、通っていた中学も地元じゃ少し名の知れたやんちゃ校だった。そんな学校の制服を着て、夜10時ごろ塾帰りで繁華街を歩いていたのが間違いだった。普段は自転車をそれこそ凄いスピードで乗りこなしていたのにも関わらず、その日は行きに雨が降っていて、バスも遅延していたために偶々歩きで帰らなくてはいけなかったのだ。こういう夜に限って事件というものは起きるのだろう。まさしくフラグをすべて回収した結果であった。

夜道を一人で歩いていると私より頭2つ分ほど大きな男に絡まれた。

私は小柄な方で、24歳になった今でも152cmほどしかない。

恐らく当時高校生か大学生らしい男はたった一人で少し酒臭かった。ほいほいと軽い口車に乗せられた私は気が付けば繁華街の路地裏に追いやられていた。正直顔はそれほど悪くなかったような気がする。今となってはもう思い出せないのが難点ではあるが、特別太って醜いおじさんではなかったのは確かであり、それがせめてもの救いだった。

しかし何といってもまだ中学1年生、まさしく少女であった私は恐怖で体がすくんだ。

この事件の前、私は同級生と1度、2個上の先輩と1度付き合ったことがあった。まあもちろん体の関係なんてもったことはなかったし、せいぜいキスぐらいだ。しかしその経験が少し私を優越感に浸らせたことは確かだった。周りの子たちより少し大人になったような気がしていて、クラスメートを見下していたことは否定できない。私はこの子たちとは違う、そう昔から思っていた。幼少期から周りの子とは少しずれていて、真由香ちゃんってちょっと違うよね、そういわれて育った。私も自分は周りとは違うのだと思っていた。だからかもしれない。

私が犯されて処女膜が破られた時、偶々通りかかったバーのおかまに助けられた。おかまにしてはきれいな人だったと思う。すぐに男を追っ払い、自分の店へ私をかくまってくれた。シャワーを浴びさせ、暖かいココアをいれてくれた。両親へ連絡させようとした彼を私は必死で止めた。親にだけはバレてはいけない、そう自己暗示し、そうそうに家に帰った。もうその時には親に怒られる恐怖が、犯された恐怖を上回っていたのだ。

信じられないかもしれないが、当時の私にとって親ほど怖いものはなかった。普段はとても優しく、いわゆる普通の親なのだが、怒るととてつもなく冷たかった。実の娘を容易に切り捨てる冷たさを持っている非常に暖かな人たちだった。

彼のおかげで私は塾に行く前と何ら変わらない形でうちに帰ることができた。少し帰るのが遅くなったが、父親は出張中、母親は小学生の妹を叱るのに忙しく私の帰宅に違和感を感じるものはいなかった。

しかしその事件後、私は正常に男性と関わることが難しくなった。体をまさぐられる感覚、まだ知らない大人の大きな手、じっと私を見る狼の目。立ち直るのに時間がかかることはわかりきった事であったが、私はどうしても男性恐怖症になるわけにはいかなかった。

その頃、学校をフケてあのおかまのバーに行くようになった。クラスの男子とも接するのが嫌になっていたのもある。

店は昼はカフェをしていて中学生の私も入っていくのに躊躇はいらなかった。

おかまは自らをれいと言った。元々中性的な顔なのか、化粧は濃くなくキツイ香水も身にまとっていなかった。当時の私が唯一まともに接することのできる(戸籍上)男性だった。

通い始めて数日後、私の方から彼にあの事を持ちかけた。

何故助けてあそこまでしてくれたの?何故何も聞いてこなかったの?

思ったよりすらすらと言葉は出てくるもので、それと同時に毎晩夢に出てくるあの感覚も蘇ってきた。

なんでって、すぐそこで危険な目にあっている女の子見つけて黙っていられるわけないじゃない。私って昔っからおせっかいな質なのよ。それにあなたも聞いてほしくなかったみたいだし?

全部見お見通しよ、とでも言いたげなウインクをこちらに向けてきた彼にいらだちも感じたが、少なくとも恩人なのだ。私は彼に心身ともに救われた。このことに間違いはない。

彼は私がここに来ると決まってホットコーヒーにミルクをたっぷりと入れたものを出してくる。そして一度も料金を請求してきたことはなかった。どうせいれるならあの時と同じココアを入れるのが趣ってものではないのかとも思ったが、結局一度も聞けずに私はホットコーヒーを飲み続けた。

襲われてから数日して、私は元の生活に戻りつつあった。

ネットでレイプ被害者を見てみると男性不信になった、街を歩けない、心に消えない傷を負ったなどたくさんの書き込みがあった。それらの感想を他人事のように感じていた私はきっと、もうレイプされた傷などとっくに癒えていたのかもしれない。

あれから男を避け続けるというのは難しい事だった。少々荒療治ではあったが私は自ら男子の輪に飛び込み、一緒に喧嘩をし、高校生ともつるむようになった。もちろん酒もたばこも誘われ万引きなどにも手を染めるように言われた。

しかし中学を卒業してからはこいつらとツルむ気は毛頭ないし、ここで私に犯罪履歴など付け加えるのはどうしてもやめてほしかった。酒はたしなむ程度で今も飲み続けている。

犯されてからというもの、犯罪履歴は更新したくないが、性というものに興味を持ち始めた私は、何人ともセフレと呼ばれる関係を創っていった。体の関係だけでつながっていられるのはこんんなにも後腐れなく心地よいものだと、ぬるま湯に足をつける快感を知ったのはまだ中学2年生の初夏だった。

そんな私に玲は何も言わなかったような気がする。ただ、一度だけ、キスマークは見えそうで見えないところにつけられるものよ、そんな見せびらかすような男はさっさとすてちゃいなさい、と言われたことがあった。それだけだ。

バーに通い続けた中学校生活はそこそこ充実していたと思う。中学の知り合いを連れ込むことは決してしなかった。いつも一人で、扉を開けた。時には従業員として手伝い、少しばかりの賃金ももらったりした。このバーにいるときだけは、ぬるま湯に五万と浸かっているその他大勢ではなく、私という存在がいるような気がしていた。私という人間にミルクたっぷりのホットコーヒーが染み渡る感覚はなんともいえなかった。中学校生活としては、特に困ることも嫌になることもなかった。ただただ長い三年間だった。

高校受験が終わり、私はあのバーに行かなくなった。

なにしろ学校が真逆の方面だし、生徒会に勉強が忙しすぎて行く暇がなくなったから、と思っている。

私の入った高校は県内有数の進学校で、生徒たちもおとなしそうな黒髪ばかりで髪を黒に戻したことは間違っていなかったと確信した。そして高校生になったからには変わりたかったから。こんな過去を持った私ではない、いわゆる高校デビュー。

地味子から派手子になるのではない、派手な元不良風小女から清楚でおとなしい少女になるべくとても気を使った。

言葉使い、座り方、服装、挨拶、笑顔。すべてが慣れなくて正直かなり戸惑った。

そしてしょうにも合わない生徒会に入って執行部の腕章をつけるのは、背伸びをしたジンジャエールをちびちびと飲んでいく感覚に似ていたと、いまでもそう思う。

もちろんセフレなんて一人もいなくて清純なお付き合いをしていた。結局高校生活では一度も誰ともセックスはしなかった。

バーに足を運んでみようかとも思ったし、現に数回行ったことはある。しかしそれも最初の数か月だけで、一年の文化祭が終わればもうバーの事なんて頭の隅にもいなかった。ただ、ホットコーヒーを少しだけ懐かしむ気持ちは残っていたと思う。

勉強と生徒会の仕事に追われ、中学校と同じ年月を過ごしたとは思えないほど颯爽にこの三年間は過ぎ去って行った。余韻に浸る間もなく私の前に現れた大学という新たな門は今後の人生を創っていく大きな箱庭だったと記憶している。

そんな箱庭から抜け出すのには大きな不安と恐怖に体を預けなければならなかった。

中学生のころから知っているこのぬるま湯の快感を、私は再度経験していて、この箱庭こそ最も極端なその例だったのだから。

小塚真由香の話はまだ続きます

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