眠らない悪夢
この病院から一番近い民家の方が、交通事故のような音を聞いたという通報で夏美の元へ救急車とパトカーがやってきた。
夏美は救急車で近くの病院に運ばれ、口裂け女の遺体は身寄りがないため夏美が焼却を望んだ。
翼の死は両親へ告げられ、さぞ悲しんだらしい。
夏美の証言を信じる警察官はやはり少なかった。
しかし、夏美自身はもう信じてもらわなくてもいいように感じた。
なぜなら、すべて終わったのだから・・・
それから3か月後・・・
東京の一角で平凡に暮らす夏美の元に警察から一通の手紙が届いた。
封筒には大塚聡と書かれていた。
おそらく口裂け女について調べた資料が今更ながら発見されたのだろうと思い、中身を出さずにゴミ箱へ捨てた。
しばらくすると電話が鳴る。
相手は警察からで、手紙についての事だった。
「君が言っていたことが大塚さんのデスクの中から出て来てね、それでまだ知りたがっているんじゃないかと思ってコピーしたのを送ったんだが・・・」
「そうなんですか、でもあれは捨てました。もうあの過去を思い出したくないんで・・・」
「あっそうだよね。すみません」
「いえ、いいんです。あの遺体も焼却してもう無いんだし・・・」
夏美のその言葉に電話越しの警察官が言葉に詰まる。
「そういえば伝えてなかったね」
「え?何がですか?」
夏美は嫌な予感を察知した。
「あの遺体ね、燃やそうとしたんだが・・・何故か消えていたんだよ」
夏美は受話器を地面に落とした。
その瞬間、部屋の電気が消え、背後に殺気を感じた。
恐る恐る夏美が振り返るとそこには、あの時の姿のままの口裂け女が立っていた。
一瞬きしただけで、口裂け女は夏美の鼻の先に移動しており、顔をぬっと近づけて言った。
「その・・から・・・だ・・もう・・・いらな・・い」
そう言うと口裂け女はうつむいた。
夏美は安心して、肩の力を抜いた。
しかし、口裂け女はまだ何か喋っている。
「だけど・・・お前が私の代わりに生きろ」
そう言って夏美の口元にメスを入れ、左右に耳元まで裂いた。
夏美の叫び声と口から飛び出る血が部屋中を染める。
口裂け女、いやともえはまるで成仏したかのようにその場から消えていった。
夏美は地面に頭をつけ、うずくまった。
ともえが居た場所には白いマスクだけが落ちていた。
それを拾い口元を覆った。
痛みは徐々に消え、流れていたナミダも流れなくなった。
夏美はゆっくりと立ち上がり、台所にある包丁を手にし、裸足のまま外へと出て行った。
それからというもの口裂け女の噂は止まることなく、人間の泣き叫ぶ声が増えていく。
「私は感情もなく、生き続ける。この身滅ぶくらいなら逆に私のような姿の人間を増やせばいい」
荒木夏美、いや口裂け女は今もどこかで生きている。
赤いくちー完ー




