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2.凶行と策謀

(あれはなんだ…)


たまたまパーティに出席していたフラット・アトキンス将軍は困惑していた。

かっては戦場を駆け巡り万の軍を指揮する将軍であったが平和になった現在は自分のような老兵が活躍する場もなくなっている。

公爵令嬢が凶行に走り他の者が信じられない光景に呆然とする中、一番に気を取り戻せたのは若い頃に戦場に身を置いてきたおかげだろう。

王子の身に危険があってはと衛兵に指示を出そうと思ったのだが…


令嬢は王子に対する凶行の手を止めると両手を上げて観衆の注目を自分に集める。


「私は鮮血の魔女フレア・プラッシー、平民の女の尻を追いかける愚かな殿下を粛清致します!」

そう言いながら親指を立てるとクルリと下に向ける処刑のハンドアクションをする。

・・・どうもおかしい。


ナイフを掴むまでの動作は明らかに手慣れた人間の動きでよもや刺客の変装かと思ったのだが…

何故ナイフの刃を突き立てるのではなく柄で突く?

わざわざ凶器を捨ててあの弓でも引くようなポーズを入れて周りに視線でアピールしながら拳ではなく拳の腹で叩く?

目的が分からない…何かの余興かあるいは…


プラッシー? 彼女の父であるエリック・プラッシー侯爵のことを思い出す。

エリック侯爵は宰相として戦争で疲弊した我が国を立て直した功臣だ。

強引に物事を勧める剛腕は鉄の宰相とまでは呼ばれている。

そればかりではなく知恵も非常に回り、常人には何をどうしたか分からないまま物事を成立させる手腕も持っている。

私自身、彼に知らぬ間に利用されてそれがどう作用したのか分からないまま国の役に立っていたことは何度もある。

だがフレアという娘についてはあまり良い噂は聞かない。

以前に公爵からも遅くに出来た娘なので甘やかして育ててしまったとは聞いていた。

だがあの公爵の娘…演技じみた凶行に何か意味があるのか?


凶行を続ける令嬢と目が合った、満面の笑顔で観衆に向けると挑発するかのように舌を見せる。

とても令嬢のやる仕草ではない…悪魔にでも憑依かれたかのようだ。


「やってしまいますわ!」

殿下の頭を脇に抱え込むと数歩走りそのまま跳んだ! ブルドッキングヘッドロック!

殿下の頭が床に叩きつけられる…かに見えた寸前、頭から手がすっぽりと抜けて令嬢の身体はしこた固い床に叩きつけられた。

…あんなヒラヒラのドレスを着たままなのだから無理もない。


ホールが静寂に包まれる。誰もがどう反応していいのか困っているようだ。

「やってくれましたわね この軟弱王子!」

立ち上がる事も出来ずに忌々しげに吐き出した令嬢の言葉にワーッと歓声が上がる。どうやら観衆は殿下が反撃に転じたと思ったようだ。


腰が痛い…覚悟していなかった痛みに息が詰まり立ち上がることも出来ない。

目を拭って視力を回復した殿下は立ちがり、私の睨みつける。私は左手で腰を抑え後ずさりをしながら、赦しを請うように手を振る。


頭を抱え込まれた際にドレスの袖で拭き取れたのかチャールズのワインで塞がれた視界は回復してきた。

フレアが手を上げた時には驚いたが戦い方も知らないのだろう殆どダメージは無い。

哀れなものだ…発狂し暴れたが今は尻もちをつき怯えているフレアを見下ろす。

弱弱しく腰を左手で抑え怯えるように右手を振っていたかと思えば、次は手を前に組み祈るように赦しを乞う姿は哀れとしか言いようがない。


それとは逆に冷静さを取り戻したチャールズは、正義感に駆られ彼女を追い詰め過ぎたのではないかと感じていた。

彼女が平民の娘カリーナにイヤガラセをしていたのは事実だ。

だがこのパーティの場で明らかにしてここまで悪者にする必要があったのか…もっと穏便に済ます方法はあったのではないだろうか?


凶行を行った挙句、慈悲を乞う惨めな彼女の姿、それに比べればそれ落ち着いて睨みつける私の姿は格好良く見えたのだろう。

今日のゲストたちは私に歓声を浴びせかけている、近衛兵が駆け寄ろうとするのを制したあまり大事にはしたくなかった。


一時の乱心だ、私の裁量で穏便に済ませればいい。

私は彼女に背を向けてゲストたちを落ち着かせるために声をかけることにした。



「皆さん、お見苦しいところを…むぐっ!!」

股間から脳天に痛みが突き抜けた…

金的痛いよね…

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