私は銃を撃ち、十年前の弟を殺した(中)
中年男は銃を構え、十年前の記憶が脳裏に浮かんだ。
それは彼が一生忘れられない光景だった。
十年前、戦争が始まったばかりの頃、彼は偵察兵として前線へ赴いた。
その年、彼は23歳。弟のサイモンは17歳。
両親は戦争で亡くなり、弟はこの世でただ一人の肉親だった。
彼にとって、弟こそが全世界だ。
当時の彼はただ、戦争が早く終わり、弟と穏やかな暮らしができることを願っていた。
だが、ある偵察任務で、すべてが変わってしまう。
まったく同じ光景。ただ時は十年前、共にいたのは弟だった。
二人は砲撃を受けた敵陣地で、生存者がいないか探す任務を負っていた。
辿り着いた場所には屍が転がり、今日と何ひとつ変わらなかった。
「パス兄さん、僕たちが見つけた生存者って、どうなるんですか?」
サイモンが尋ねた。
「陣地の後方へ送られる。その後の処遇については、俺も聞いたことがない」
新兵だったパスにも、その辺りのことは分からなかった。
「この前、こっそり見ちゃったんだ。
捕まった生存者たちって、結局また戦場に送り出されるんだよ」
サイモンが言った。
「まさか……生き盾として……」
パスの瞳に、わずかな動揺が走った。
「そうなんだ。最低な政治家たちだ。命なんて眼中にないんだよ」
サイモンはため息をついた。
だが、人々が命を落とさずに、戦争が終わるわけがない。
生身の人間が一人、また一人と犠牲になって、
涙のない明日が手に入るのだ。
「サラサラ――」
背後から、落ち葉を踏む音が聞こえた。
敵兵一人が、木陰から姿を現した。
「危ない、離れろ!」
兄であるパスは即座に弟の前に立ち、銃を構えた。
「撃たないでくれ! 悪意はない、武器も持っていない。
話を聞いてくれ、頼む、撃たないでくれ……」
その兵士は、異常に強い生への執着を見せた。
サイモンが先に声を上げた。
「口ぶりからして、Y国の人じゃないようだね。
どうしてここの軍にいるんだ?」
その顔つきは、どう見ても十七、十八歳にしか見えなかった。
「もともとZ国の軍隊に所属していたが、
部隊が全滅し、Y国軍に捕まってここへ送られた……
気がついたら、周りはみんな死んでいた」
「仲間だったんだ……!」
サイモンは心の中で思った。
このときサイモンの脳裏に、ある老人の言葉が蘇った。
それも任務中のこと。村を通りかかった時、一人の年寄りが声をかけてきた。
「おい若者、お前は俺たちの国の兵士か?」
老人が尋ねた。
「はい! 国のために命を懸けて栄光を勝ち取ります!」
青二才だったサイモンは答えた。
「ふふ、栄光か……」
老人は笑った。
「俺の息子は栄光のために、二度と帰ってこなかった。
戦争なんていつだって、栄光なんて衣をまとっているだけだ。
近づいてみれば、ただの残酷なモノだよ」
「国のために戦う者に、どうしてそんな言い方ができるんですか?」
若いサイモンは腹立てはしなかったが、ただ理解できなかった。
だがすぐに、彼は理解した。
幾度もの任務。
次々と散っていく戦友の命。
跡形もなくなる村々。
そのすべてが、彼に考えさせた。
「俺はなぜ戦っているんだ?」
そして今、彼は分かった。
戦争を終わらせられるのは、平和を願う者だけだ。
野望も殺戮も、永遠に尽きることはない。
そして今、彼は自らの行動で、
同じような少年を救おうと決意した。




