ビターナイト
静かな町の小さなバー、「ビターナイト」には、たくさんの思い出が詰まっている。暗がりの中で揺れるキャンドルの灯りと、ウィスキーの香りが心地よく交じり合うその空間で、マスターのユウは穏やかに飲み物を作りながら常連客たちの会話を楽しむ。
ユウは、誠実で穏やかな人柄で知られ、何度も同じ席に座る顔なじみたちの相談に乗るのが得意だ。その日も、いつものようにカウンター越しにウェアリングを終えたグラスを正しく配置していた。ふと、彼の目に飛び込んできたのは常連の一人、マヤだった。彼女はいつもと違って、少し緊張した面持ちでやって来た。
「ユウさん、ちょっと相談したいことがあるんだけど……」
その言葉に、ユウは一瞬ドキリとした。実は彼は、秘かにマヤに思いを寄せていたからだ。しかし、彼女の幸せを願うため、心を整え、彼女の話を聞くことにした。
「もちろん、何でも話してくれていいよ」
マヤは少し戸惑いながら、最近出会った素敵な男性のことを語り始めた。目がキラキラと輝き、彼女の口元には自然と微笑みが浮かぶ。その姿を見ながら、ユウは彼女の幸せを心から願った。
「あの、どうしたら彼を振り向かせられるかな……?」
その言葉の裏には、マヤの繊細な心情が垣間見えた。ユウは内心の葛藤を抱えつつも、彼女の相談に真剣に向き合った。
「まずは、自分を素直に表現してみるのがいいかもね。無理をしないで、君自身を大切にして」
マヤは頷きながら、彼女の心の中に、自分自身を表現する勇気が少しずつ芽生えていくのを感じた。ユウに相談したことを心からよかったと思い、マヤは帰路に着いた。
何日か後、マヤが再び「ビターナイト」を訪れた時、彼女の隣りには感じのいい男性がいた。二人は溢れる笑顔で楽しそうに会話している。ユウは少し照れ臭い気持ちになりながらも、その光景を見守った。
「いい雰囲気だね、マヤさん」
彼女は楽しそうに微笑み返した。苦味を伴ったウィスキーを一口飲み込みながら、ユウは自分の胸に小さな安心感が広がっていくのを感じた。自分がサポートした恋が上手くいっているのだ。心中のすれ違う感情の間で、彼はただ「ビターナイト」のマスターとして、マヤの幸せを祈り続けた。
これが彼女の選んだ道なら、二人が寄り添う先には、さらに素敵な物語が待っていることだろう。ユウはまた、カウンターで常連たちの笑い声を聞きながら、今日も幸せの一杯を注ぎ続けるのだった。




