第三部:偽りの仮面舞踏会
二人の危険な共同捜査が始まった。
彼らが最初の標的として狙いを定めたのは、首謀者と目されるゲルハルト公爵が主催する仮面舞踏会だった。
「……こういう場所は、どうにも落ち着かんな」
貴族の豪奢な、しかし体の動きを阻害するだけの仕立ての良い服に身を包んだガイは、息苦しそうに首元のフリルを緩めた。仮面で顔の上半分は隠れているが、その居心地の悪そうな様子は隠しきれない。
「我慢しろ。お前もかつてはこういう世界の住人だったはずだ」
アリアは、深紅の優美なドレスをまとっていた。その普段の鎧姿とは、あまりにもかけ離れた華やかな姿に、ガイは思わず目を奪われた。
「……お美しい、です。団長」
「……戯言を」
アリアはそっぽを向いたが、その耳が微かに赤くなっているのを、ガイは見逃さなかった。
二人はワルツの音楽が流れる広間を抜け、人の少ないテラスへと向かった。そこでは若い貴族たちが、酒を片手に、現体制への不満を大声でぶちまけていた。
「ダリウス宰相は厳格すぎる! 我ら貴族の既得権益を次々と奪いおって!」
「あの、娘のアリアとかいう小娘もそうだ! 騎士団の伝統を無視した改革ばかり! まるで、あの偽物勇者のやり方ではないか!」
ガイは、その悪意に満ちた陰口に、奥歯を強く噛み締めた。だがアリアがその腕をそっと掴んで制した。今は耐えろ、と。
ガイは、かつての貴族の子弟としての顔を使い、巧みに彼らの輪の中へと入っていった。
「全くですな。私も今の生真面目すぎる王国にはうんざりしております。……バルドル様がおられた頃は良かった……」
彼の思わせぶりな言葉に、若い貴族たちは待ってましたとばかりに食いついてきた。
「おお! 貴殿も、そう思われるか!」
「我らの仲間には『バルドルの遺志を継ぐ者』と名乗る気骨のある方々がおられてな。近々この腐った王国を浄化するための天誅が下される、という話だ……」
―――天誅。その言葉に、アリアとガイの間に緊張が、走った。
その時だった。
「……そこのお二人。見かけない顔だが。どちらの御仁かな?」
ぬっと背後に現れたのは、この屋敷の主ゲルハルト公爵その人だった。その蛇のような冷たい目が、二人の仮面を射抜くように見つめている。
「これは公爵閣下。我らは旅の者でして。閣下のご高名はかねがね」
ガイが咄嗟に取り繕う。だが公爵の疑いは晴れない。
「ほう……。しかし、その立ち姿。ただの旅人ではあるまい。……衛兵! この者たちの仮面を取れ!」
万事休すか。二人が剣の柄に手をかけようとしたその瞬間。
「まあ、ゲルハルト公。ご冗談がお上手ですこと」
鈴を転がすような声と共に、一人の貴婦人が現れた。彼女はアリアの母親の古い友人であり、改革派の有力貴族だった。彼女の機転の利いた仲裁により、二人はかろうじてその場を切り抜けることができた。
屋敷を後にした二人は、暗い路地裏で息を潜めていた。
「……すまない。俺が、しくじった……」
「いや。お前のおかげで敵の尻尾を掴めた。……だが危なかったな」
狭い路地裏。二人の肩が触れ合うほど近い。アリアのドレスから微かに香る花の匂いに、ガイの心臓が大きく高鳴った。
こういう展開、待ってました〜
明日も19時に。よろしくです!




