第二部:忍び寄る暗殺の刃
その報せは、ある夜、ダリウスの元に密かにもたらされた。
「……宰相閣下の暗殺計画?」
アリアは父の執務室で密偵からの報告を聞き、息を呑んだ。蝋燭の揺れる炎が、彼女の驚愕に目を見開いた顔を照らし出していた。
「うむ。来る建国記念式典の日に事を起こすつもりらしい。旧バルドル派の残党どもが、最後の逆襲を企んでいるようだ」
「衛兵を増強します!」
「いや、待て」
ダリウスは、静かに首を横に振った。
「敵は、宮廷の内深くに潜んでいる。下手に動けば打草驚蛇となるだけだ。……犯人を特定する必要がある」
アリアはその極秘任務の担当官に、自らを任命した。だが問題はそのパートナーだった。この任務には騎士としての腕だけでなく、貴族社会の裏の裏まで知り尽くした人間が必要だった。そして何より、絶対に信頼できる人間でなければならない。
アリアの脳裏に浮かんだのは、ただ一人。
だが、彼女は躊躇した。彼にこれ以上、陰謀の闇の中を歩かせるべきではないのではないか、と。
「……アリア」
父が、娘の心の迷いを見透かしたように言った。
「お前が信じる騎士を選べ。それがお前の騎士団だ」
その言葉に、アリアは覚悟を決めた。
翌日、彼女はガイを騎士団長室へと呼び出した。
平騎士である彼が、この部屋に呼ばれるのは異例中の異例だった。ガイは緊張した面持ちでアリアの前に直立不動で立っている。
「……俺が、ですか?」
極秘任務の内容を聞かされ、ガイは驚きに目を見開いた。
「そうだ。貴様はかつて、近衛騎士として城の全てを知り尽くしている。そして多くの貴族の子弟とも繋がりがあったはずだ。……それに、何より」
アリアは、ガイを真っ直ぐに見つめた。
「今の貴様ならば信じられる」
その言葉にガイは顔を伏せた。その肩が微かに震えている。彼は自分が過去に犯した罪の重さを、誰よりも知っていた。その自分にかつて誰よりも厳しく、そして誰よりも失望したであろう上官が「信じられる」と、言っている。
彼は長い長い沈黙の後、顔を上げた。その目には涙が浮かんでいたが、それ以上に強い決意の光が宿っていた。
「……御意。この命に代えても、宰相閣下とアリア団長をお守りいたします」
その力強い返事。その日から、二人の危険な共同捜査が始まった。
明日も19時に更新しますね。
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