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スキルなしの最弱勇者、追い出された先が実は宝の山だったので、日本の知識で楽園国家を建国します  作者: 鈴城幻司
サイドストーリー:「ニイガタ」の誕生

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第三部:自然との死闘

開拓中です〜


俺たちの、治水工事という自然との戦いが始まった。


まず、俺たちはこの平野を見下ろす小高い丘の上に、拠点となるキャンプを設営した。そして、地面に巨大な設計図を描き始めた。それはこの世界の常識を遥かに超えるものだった。


「領主様、これは……?」


アストリアから派遣された技術者が、困惑の声を上げる。


「堤防を川からこんなに離して作るのですか? それに、この奇妙な池のようなものは……?」


「堤防は川を閉じ込めるためのものじゃない。俺たちの生活圏を守るための最後の壁だ」


俺は説明を始めた。


「そして、この池―――『遊水地』は、川の神に捧げる生贄だ。大雨が降った時、川の神が暴れたくなったら、この遊水地に思い切りその力を解放させてやる。そうすれば神は満足し、俺たちの畑や家を見逃してくれる」


俺の言葉に、技術者たちは呆気に取られていた。だが、ギデオンはその設計思想の本質を瞬時に見抜いたようだった。


「……なるほど。川と戦うのではない。川と共存する。そのための仕組み……! なんと壮大な!」


俺が提示したのは、単に川の両岸に堤防を築くだけではない。川が氾濫した際に意図的に水を引き込み、その勢いを削ぐための「遊水地」。そして平野の隅々まで水を安定して供給するための網の目のように張り巡らされた「灌漑用水路」。それは俺の故郷日本が、何百年とかけて築き上げてきた治水技術の結晶だった。


「……信じられん。川を、まるで家畜のように手なずけようというのか……」


ギデオンは、俺の設計図を前に呆然と、そして恍惚と呟いた。


工事は過酷を極めた。アリアが王国との協議の末、派遣してくれた数十名の技術者たちの力を借りてもなお、人手は圧倒的に足りなかった。俺たちは来る日も来る日も、泥にまみれ、木を切り、土を運び、石を積んだ。太陽が昇ると共に働き始め、日が暮れて星が空を覆うまで、槌音と男たちの掛け声が平野に響き渡った。


開拓を始めて一月が過ぎた頃、季節外れの豪雨が俺たちを襲った。


数日間にわたって、空に穴が空いたかのように凄まじい雨が降り続いた。川は見たこともないほどに増水し、茶色い濁流が牙を剥く龍のように暴れ狂った。


「堤防が……! 決壊するぞ!」


誰かの絶叫が嵐の音にかき消される。次の瞬間、俺たちが築き上げていた堤防の一部が轟音と共に濁流に飲み込まれた。


「うわああああ!」


濁流は俺たちのキャンプへと牙を剥いた。寝泊まりしていた粗末な小屋も備蓄していた資材も全てが、一瞬で水の底に消える。俺たちは命からがら丘の上の高台へと避難するのが精一杯だった。


雨が止み、水が引いた後。そこに広がっていたのは、言葉を失うほど無惨な光景だった。俺たちが一月かけて築き上げたものは、ほぼ全てが自然の猛威の前に無に帰していた。


「……だめだ。やはり、人間の力でこの川をどうこうしようなんてのは、無理だったんだ……」


泥だらけの顔で、男たちが次々とその場にへたり込む。その目から光が消えていた。


俺もまた、膝から崩れ落ちそうになるのを必死にこらえていた。俺の知識はこの世界の自然の前には無力だったというのか。


だが、その時。俺の目に決壊した堤防の残骸が映った。土砂は流されているが補強のために打ち込んでいた木の杭に、大量の枝や草が複雑に絡みついている。水の力は硬い壁よりもしなやかな、それでいて密に絡み合った柳の枝のようなものに弱い……。


そうだ。俺は根本的な間違いを犯していた。俺は立ち上がった。


「顔を上げろ!」


俺の声に、皆が虚ろな目を向ける。


「失敗は成功への通り道だ! 俺の故郷にはそういう言葉がある! 俺はこの川の神の本当の力の使い方を、今、理解した! 俺たちの知識は、まだこんなものじゃないぞ!」


俺は、近くに生えていたしなやかな蔓草を数本引き抜き、近くの小石を拾うと、即席の模型を作ってみせた。蔓で編んだ籠に石を詰めた小さな塊。


蛇籠じゃかごだ。硬い壁で水の力に抵抗するんじゃない。このしなやかな籠で、水の力を受け流し殺すんだ。これを使えば、今までの倍の強度の堤防が作れる!」


その俺の実演と確信に満ちた言葉に、男たちの目に再び小さな光が灯り始めた。



数日後、俺たちのキャンプに一筋の光が差し込んだ。


「あなた!」


リリアーナが、トーキョーから大量の食料や物資と共に駆けつけてくれたのだ。彼女は俺たちの惨状を見るなり、すぐに負傷者の治療を始めた。その慈愛に満ちた回復魔法と温かいスープが、俺たちの凍てつき、ささくれだった心を優しく解きほぐしていく。


「……すまない、リリアーナ。俺は、皆を危険な目に……」


「いいえ」


彼女は俺の泥だらけの手をそっと握った。


「あなたは諦めなかった。皆をもう一度、立ち上がらせた。私は、そんなあなたを誇りに思います」


彼女の言葉に、俺はどれだけ救われたことか。


そこからの俺たちの結束は、以前とは比べ物にならなかった。


絶望の淵から這い上がった俺たちは、もはやただの開拓団ではなかった。自然という巨大な敵に、共に立ち向かう一つの屈強な軍隊だった。


蛇籠を用いた新しい工法は、絶大な効果を発揮した。俺たちは、以前よりも速く、そして強く、堤防を再建していく。


そして、季節が再び巡った頃。俺たちの巨大な治水システムは、ついに完成した。


川の流れを新しい水路へと切り替える、その日。誰もが固唾を飲んでその瞬間を見守っていた。俺の合図で、最後の堰が取り払われる。轟音と共に、濁流が新しい水路へと流れ込んでいく。それは俺たちが一年がかりで掘り続けた希望の道だった。水は俺たちの計算通りに、巨大な平野の隅々まで毛細血管のように広がっていく。


乾いていた大地が、命の水を得て喜びに打ち震えているかのようだった。


その光景を前に、誰からともなく歓声が上がった。それは、やがて地鳴りのような大合唱へと変わっていった。俺たちは、自然の猛威に人間の知恵で打ち勝ったのだ。


明日も19時に。

どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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