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スキルなしの最弱勇者、追い出された先が実は宝の山だったので、日本の知識で楽園国家を建国します  作者: 鈴城幻司
サイドストーリー:「ニイガタ」の誕生

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第一部:豊かさの先にある、飢えの影

メリークリスマス!


アリアたちアストリア王国の使節団が帰ってから、一年が過ぎた。


王国との間に正式な国交と交易路が開かれたことで、トーキョーは爆発的な発展を遂げていた。アストリアからは、俺たちの先進的な農具や美しい漆器を求めて、多くの商人が訪れるようになった。彼らが持ち込む、王都の文物や俺たちの知らない土地の産物は、トーキョーの文化をさらに豊かなものへと変えていった。


だが、その発展は、新たな、そして深刻な問題を生み出していた。


その日の定例会議は、重い空気の中で始まった。俺とリリアーナ、そしてレオ、ギデオン、ボルグら街の幹部が、ロングハウスに新設された大きな会議室で円卓を囲んでいる。壁には、俺が描き上げたニホン国とその周辺の詳細な地図が貼られている。議題はただ一つ。「我が国の、今後五カ年計画について」だ。


「領主様。これが、今年の人口増加と食料需要の予測です」


レオが厳しい表情で、数枚の羊皮紙をテーブルに広げた。そこには、棒グラフや円グラフを用いた俺が教えた近代的な統計手法で、この国の現状が残酷なまでに分かりやすく示されていた。彼はその一枚を指し示す。


「まず、人口。現在の総人口は、千二百四十五名。昨年の同時期と比較し、増加率は二百パーセントを超えています。その大半がアストリア王国からの移住者です」


彼は、次の羊皮紙を重ねた。


「次に、食料。今年の米の収穫量は、作付け面積の拡大により、昨年比で百三十パーセントを達成しました。一見、順調に見えます。ですが……」


レオは、最後の、そして最も重要な羊皮紙を、テーブルの中央に置いた。そこには、二本の線が描かれたグラフがあった。一本は、急な角度で上昇していく人口の推移。もう一本は、緩やかに上昇する食料生産量の推移。そして、その二本の線は今から二年後の地点で交差していた。


「このままのペースで移住者が増え続ければ、二年後の秋……我々の食料備蓄は完全に底をつきます。トーキョー周辺の開墾可能な土地は、もはや限界に近い。我々は自らが作り出した豊かさによって、緩やかな飢餓へと向かっているのです」


レオの冷静な、しかし絶望的な分析に集まった幹部たちの間に重い沈黙が流れた。


「……一時的に、移住を制限するしか、ないのでは」


沈黙を破ったのは、元王国兵で民兵の訓練を監督しているマーカスだった。彼は苦渋の表情で言葉を続けた。


「領主様、我々の理念は分かります。ですが現実問題として、我々はもはや、ただの開拓村ではない。一つの国家です。国家の最も重要な義務は、今いる国民の生命と安全を守ること。無限に難民を受け入れ続ければ、いずれ、この国は内側から崩壊します。それは、かつて我々が戦ったバルドル宰相の圧政とは、また別の形の地獄です」


彼の言うことも、一つの理屈ではある。安全を確保するためには、当然の判断だ。


「しかし、それは我らの理念に反するのではないか」


静かに反論したのは、今や移住者たちの代表格であるボルグだった。彼はマーカスを真っ直ぐに見据えた。


「マーカス殿。あんたの言うことも分かる。だがな、俺たちは、その門を開けてもらったからこそ、今、ここにいるんだ。あの時、領主様が、レオ殿が、『食料が足りなくなるかもしれねえ』と言って、俺たちを追い返していたら、どうなっていた?俺の家族も、あんたの隣にいる元クロムウェル領の連中も、みんな、とっくに飢えて死んでたんだぞ!」


「感情論を言うな、ボルグ! 俺は、現実的な話をしている!」


「これが、感情論だと!? 飢えの苦しみを知らねえ貴族様じゃあるめえし! 俺たちは、この国の理念に命を救われたんだ! その理念を俺たちの代で捨てるというのか!」


「理念だけでは、腹は膨れんのだ!」


会議は紛糾した。皆がこの国を愛するが故に、その意見は真っ向から対立する。俺は、その議論を黙って聞いていた。


その時、それまで静かに議論の行方を見守っていたリリアーナが、凛とした声で口を開いた。


「……本当の国家とは、その版図の広さや備蓄の量で測られるものではありません」


その声に、誰もが口をつぐんだ。


「国家の偉大さとは、その理念の気高さによって、測られるべきものです。助けを求める者に手を差し伸べる。その理念を失った時、私達はただの野蛮な集団へと堕落するでしょう。それは父が治めていた頃のアストリア王国が犯した過ちそのものです」


彼女の言葉は、元王女としての重みと、一人の母としての慈愛に満ちていた。


俺は、皆の意見が出尽くしたのを見計らって、静かに立ち上がった。


「門は、閉じない」


俺のその一言に全ての視線が俺に集まる。


「マーカスの懸念は、もっともだ。国民を飢えさせる指導者は失格だ。ボルグの情熱も正しい。理念を失った国家に未来はない。リリアーナの言う通り、俺たちは過去の過ちを繰り返してはならない」


俺は、壁の巨大な地図の前に立った。


「問題は、人が増えることじゃない。食料が、土地が、足りないことだ。ならば答えは一つだ。俺たちの皿が小さすぎるのなら……もっと巨大な皿を用意すればいい」


俺は、地図に記した大河の下流に広がる広大な平野を指し示した。


「食料が足りないのなら、それを作り出す新しい土地を、俺たちの手で創り出す。トーキョーが商業と文化の中心なら、次はこの国の巨大な『胃袋』となる一大穀倉地帯を創設する!」


その言葉は、対立していた会議の空気を、一つの巨大な興奮の渦へと変えていった。そうだ、俺たちは開拓者だった。ないのなら創ればいい。それが、このニホン国が建国以来、貫いてきた唯一無二の理念だった。俺の言葉に皆の目が輝き始めた。


ちょっと続きます。


明日も19時に。

どうぞよろしくお願いいたします!

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